進級審査2
肉体強化魔術を自分自身に掛ける。
更に、レイピアにも強化を掛ける。強化内容としては打撃と耐久だ。これから少し雑に扱うから一応壊れない様にとダメージを上げるのがメインである。
サブとして、加減はするが殺さない為だ。
ふぅ~
相手から視線は外さず、緊張感を心から追い出す様に深呼吸する。左右にジャンプして目の前の事を見詰める。
立ち止まり姿勢を低く構え脱力する。その刹那、
ダンッ
その場に小さく凹んだ床だけが残っていた。音だけを残して姿を消した俺の姿を二人は捉えられたのだろうか。
因みに一緒に訓練していた和田はこの程度のスピードなら余裕で捉えていた。
「!!」
「!?」
(なッ!姿が消えた!?一体何処に……?それになんて脚力だ、訓練所の床が凹むなんて!)
この訓練所は一つ一つ魔術によって補強されている。それを凹ます程の脚力とスピード。
(直ぐに対策を取らないと……!)
辺りを見渡すが音は聞こえてくるが姿は見えない!
これがアイツの能力か?
それでも俺の【波牙崩し】ならば関係ない……!
「【流水魔術 波牙崩し】!」
さっきよりも多くの小さな水の牙が辺り四方八方を無差別に襲い掛かる。
壁に床に、被弾して小さな穴が開く。
体に当たれば先ず間違いなく打撲や切り傷じゃ済まないだろう。
だが、俺のスピードについてこれないのなら問題外!
訓練所中を駆け巡り波牙崩しを避けていく。
ダダダッ!
最早水じゃなくて鉛玉だな、これは。
ガトリング砲の如く襲い掛かる魔術はレイピアによって防ぐ。
必要最低限ではなく、俺に当たると感じたものは全て弾きながら進む。
いくら四方八方を襲う様に展開していようが魔術は魔術。範囲と持続時間が掛かればいずれは魔力が尽きる。
(今……!)
威力も弾数も格段に減った。
突くのなら今だ……!
相手に急接近し、レイピアによって連撃を叩き込む。
人体の急所、顎、額、鳩尾、胴体付近。そこに相手の後ろに回り足払いする。
(トドメに後頭部に一撃を……!)
刻一刻と突き進むレイピア。
相手の生徒の後頭部の中心、脳震盪による気絶を狙い一撃を放つ。
その一歩手前で、
「そこまで!」
後頭部に一撃を見舞う直前に試合終了の言葉が下された。
見下ろすと先程まで相手していた生徒は起き上がる様子はない。さっきの一撃で既に気絶していたのか。
(ダメだな、基準が分からなくなっている)
Fクラスの生徒を相手している時は実力の二割も出していない。寧ろ出してはいけない。最悪簡単に殺すほどの威力になり得ないからだ。
それとは反対に和田と訓練する時は八割以上を出さなければ直ぐに終わってしまう。訓練だからといって怪我はしないと思ってはいけない。実戦的な訓練をしているんだ、怪我の一つや二つは当たり前だ。
だからと言い訳する気はないが、もう少し加減を覚えないとだな。
ところでこの生徒は何クラスだ?AやBクラスでは無い事は分かっているが……
「先生、その生徒のクラスは……」
「ああ、この生徒はC−一のクラスでトップを誇っていた生徒だったんだが、お前の準備運動には物足りなかったか?」
「いえ、そんな事無いです。寧ろ丁度良いくらいです」
体の肩慣らしはさっきやっていたけど、魔術に関してはしていなかったからな。魔術を和田以外に使って闘ったことが無かったが、試運転には良いくらいだ。
「それより、Cクラスの生徒を先生が準備運動って言っていいんですか」
「それはお前よりコイツが悪い。しかもコイツは自分は強いからといって夏休みの間何もしないでいたんだ、自業自得だ」
C−一の生徒、しかもトップでいながら怠慢するとは中々珍しい。Bクラスへの向上心は無かったのか。
それくらい考えられるくらいには強かったが、怠った分今帰ってきたのだろう。
「そうですか。それよりも連戦って言っていましたよね、次は誰ですか」
「今から呼んでくるから待っていろ。その間何をするかはお前に任せる」
言い終えると先生は訓練所を出て行く。
一人訓練所内に取り残された俺は、武器を変える為に倉庫へと向かう。
次はどんな武器を使おうか。
ひとしきり考えたが、今回の連戦進級審査では槍は使わないでいようと思う。
理由はいくつかあるが、もし俺がAクラスに入る事になったとしたらこれからも、いや、それ以上に闘いは激しさを増す。
その時の為に色々対策をしておきたいのが本音だ。
武器の扱える数=手数だ、多いに越した事はない。
(次は何を使おうか……おっ!これいいかも)
選んだ武器はリーチは短いが力が直に乗り、相手に与えられる。
「おい、連れて来たぞ!」
考え事に耽ると時間の流れは本当に一瞬だ。武器を着け訓練所の方へと戻る。
「ん?武器を変えたのか」
「はい」
「……よし、なら第二回戦を始める!」




