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進級審査

 フゥ……フゥ……


 運動場を走って二周、スマホを見て時間を確認しながら身体を動かすこと七分。そろそろ第二訓練所に向かおう。

 いい感じに身体も解れたし温まった。


 ここから第二訓練所まではほんの二分程度でたどり着く。歩いて行っても余裕で間に合う。

 待ち侘びた進級審査だ。緊張感は持ち合わせているが、今は只々楽しみだったりする。


 自分の今の実力を試せる。それも手加減なしに。

 もし、Aクラスの生徒と進級審査をするのならば和田同様に手加減なんて必要無いだろう。


(体力は問題ないが、外はまだ暑いな)


 夏休みが終わってかなり日にちが過ぎたが暑いのは、もしかしたらこの島は赤道付近なのかもしれない。それともただ単に温暖化しているのかは分からないが、正直この島が何処にあるかはどうでもいい。


 もう時間もない、向おう。



 第二訓練所……


 訓練所に着くと、先生と一人の生徒が立っていた。


(見たこと無い生徒だ)


 つまり、Aクラスの生徒ではない。Aクラスの人ならばこんなにも魔力をダダ漏れにしている筈がない。

 それに、僕はAクラス全員の顔を覚えている。見間違える筈がない。


「先生」


「よし、来たな」


 声を掛け自分が来たことを知らせる。

 知らせた事により先生と隣にいる生徒が振り返る。

 ついさっき授業が始まるチャイムが聞こえたから、今頃教室で授業が行われているだろう。


「それでは、進級審査を開始する。今回の審査対象はお前だ、本例は特例であり通常ならばあり得ない連戦進級審査を行う」


 連戦進級審査?


 聞いたことが無い、初めて聞く審査内容だ。聞いた限りだと連戦で審査を行うのだろう。

 だが周りには僕ら三人以外の人の気配は無い。訓練所の個室にも、外にいる訳でもない。

 連戦だと言うのならここに一人というのはおかしい。


「周りには私達以外には生徒も教師も居ない。急遽という事もあるが、お前の実力を周りに見せない為でもある。乗せては対策や癖を見破られる可能性があり、それをさせない為でもある」


 成程、初見での適応で戦闘技術や能力を持ってどう動き、どうする術を持ち、どう活かし、攻撃方法、不意打ち、状況判断立ち回るのか。

 それが視たいのだろう。


 戦闘において、初めてなんて機会はザラなんてものじゃない。

 殆どが初めて目にするものの筈だ。

 その時に見たことが無かったから、知らなかったからが通用する世界では無い。

 その前には死んでいるだろうけど。


 兎に角、その時々によっての個人の判断や実力で生死が決まる。

 戦況によって様々だが、戦況を左右するのもまた実力だ。

 学園はそれも加味してそういうルールにしたのだろう。


「ルールは先日、各担任から伝えらている為省くが双方共理解しているな?」


「はい」


 コクッ


「では、必要なら倉庫から武器を取り位置に着け!」


 第二訓練所に来たことはあるが、第一、第三、第四に収納されている武器に種類、数の違いはない。


(何時も通り槍を……)


 槍に伸ばした手を止める。

 学園に入学して初めて得た戦闘方法、それが槍だった。それ以前は完全にどこかで見て見様見真似で闘っていたがそれにも限界がある。

 僕にそれ程のセンスやスタイルが確立している訳では無い。


 だが、それは入学前までの話だ。

 今の僕には確立している型がある。それなら……


 手を伸ばし武器を握る。



「両者、準備が整ったようだな。では、進級審査を始める!!」


 訓練所全体に声が響き渡る。


 相手は手に何も持っておらず、武術の構えをしている訳でもない。


(魔術系か……)


 己の魔力を使用して魔術を展開する。

 属性を宿し、個性を宿し、手段として用いる。


 この世界が確立してから現れたまだまだ未知数なチカラだが、強大なチカラには変わらない。

 それをどう扱うかはヒトによる。ヒトの為に、自分の為に使い生かす事も殺す事もできる魔術はチカラだ。


(さぁ、どう使ってくる?)


 僕と生徒は見つめ合い、出方を探る。

 魔術は遠距離、中距離、近距離、全てをカバー出来る。先ずは相手の出方を伺うのが先決だ。


「【魔術式展開:流水魔術】!」


 相手の声が聞こえた瞬間に動く。聞こえてくると同時に違和感を抱く。


 水の魔術ならば、水弾、窒息、貫く、目眩まし、動きを封じる、そんなところか。


(なら動きを制限、封じられる前に先制攻撃を仕掛ける……!)


 僕が持つ()()()()だったら素早い動きと突きの破壊力を掛け合わされば、出来る!

 術式を唱える前に攻撃する。


(先ずは、肩!)


 ドンッ


 肩を刺し三角筋にダメージを与え、右腕を使えない様にするくらいの攻撃を仕掛けた。


「クッ……!!【刃水】!」


 薄い水の刃が僕目掛けてほぼゼロ距離から繰り出される。

 スピードもまあまあだが、避けられない程じゃない。


「なに!?お前Fクラスだろ?!」


「そうだけど、今は関係無い……!」


 確かに僕はFクラスだ。しかし、これは僕がFクラスから脱する為の審査だ。

 そんな事気にしていていたら所詮その程度だ。


(次は足……!更に額!)


 ドンッドンッ!


 レイピアなんて初めて持ったけど、ウ~ン、あんまりかな。

 連撃をしようと思えばできるけどイマイチ破壊力に欠ける。原因は分かっている。

 僕自身がレイピアにチカラを乗せきれていないからだ。


「クソッ喰らえ!【波牙崩】!」


 無数の小さな水の牙が襲いかかってくる。

 獣の牙と言えるほどの鋭い牙だが、兎に角小さい。避けるのは至難の業だろう。

 小さな水の牙、小さいが見えない事はない大きさだ。

 避けることは最低限出来るが、その前にレイピアの方が耐えられるか……


 水を弾くが、とても水を弾いて出る音とは思えない音が響く。

 弾かれた水が更に小さな水滴となり、目眩ましの様な役割を担ってしまっている。


(ッ、一旦離れよう!)


 これ以上は凌ぐのは厳しい。水滴が目に入り視界がボヤける。

 その為、二歩三歩と後方に下がる。


「どうだッ!これが俺の魔術だ!!」


 確かに水は汎用力も応用力も効く。

 刃となり攻撃を仕掛け、目眩ましと攻撃の両方を行う。

 ……しかし、


(それだけだ。今の、俺のチカラには遠く及ばない)



 ここからは、準備運動第二ラウンドと行こう。




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