進級制度
それから先の僕と大誠君の戦いは一方的だった。
コレが訓練や戦いとは言えないだろう。つかず離れずの距離から槍で突く、殴る、叩く、その繰り返し。
目の前しか見ていなかったが、多分周りは僕たちの訓練の様子(暴虐)を見て、感じて、ドン引きをしているに違いない。
僕自身、分かっていてしていることだ。しかし、必要なことの一つだ。
夏休み明けに担任の山崎先生から知らされた新しく学園に導入された進級制度。
…………
「え〜…この度、学園に新たに進級制度が導入された」
ザワザワ
「今から話すから一旦黙れ〜」
先生の一言で直ぐに教室は静まり返る。話を聞かない、特に担任からの話を聞かないのは学園では命取りになる。
ことこのご時世、情報が鍵を握り自分の命を天秤に賭けなければならないかもしれない。それは学園でも例外ではない。
「よし、静かになったな。先ず今学期から追加された進級制度だが、学園長によって制定された。今年は、特に我らがFクラスには似つかわしく無い程のレベルの生徒がいる為、その制度が導入した」
その先生の一言で視線が二つに割れた。
一つは聞き逃さまいと先生へと真剣に向ける視線、もう一つは訝しむ様にヒソヒソと何か一言を呟きながら僕を見る視線。
(凡その予想はつくけど)
一々それを気にしていていたらキリがない。
そう思い、僕に向けられている視線は無視して先生の話に集中する。
「俺は、特定のヤツを言ったつもりは無いがお前らがアイツを意識するのは分かる。正直言って、アイツはお前らとはいる次元が違う。だからといって贔屓するつもりも無い」
発された言葉を聞いたクラスメイト達は僕に向ける視線を再度前へと向けた。
自分達とチカラの差があるからといって僕は態度を変えるつもりも無い。それは中学時代から変わらない。
「あ~っとぉ、つまりお前も通常通りの評価を着けるがそれにかまけて訓練だったり学園での勉強だったりえを疎かにするヤツは相応の評価を着ける。気を付けるよーに!」
各々が首を縦に振る。
生徒達の反応を見渡し確認してから話を続ける。
「今日の最初にも言ったが、新たに制度が導入された。コレは実力に見合ったクラスへと調整する為でもあり、学園に入学してからどれ程の実力が着いたかを見極める為でもある。その為に作られた。」
進級制度とは
生徒間での決闘方法を改良し、下方修正を加えてルールに則り厳正なる監視の下、執り行います。
進級制度を厳正なものとする為に、如何なる不正や反則を禁じます。能力による被害は学園側が負担しますが、一般人への被害は自己負担となっています。
審査中の怪我については、保健室へ行き先生から処置を受けて下さい。又、能力による後遺症は学園側は一切の処置はいたしません。
以上を理解し、ルールに則り高みを目指して下さい。
一、これは幾度の挑戦を受け付けないものとする。
ニ、これは期限を設けないものとする。
三、これは自身が所属するクラスの一つ上のクラスのみに上がれるものとする。
四、これは武器の指定はしないものとする。
五、試合への妨害行為、及びそれに準するものを発見次第三ヶ月の停学とする。
六、能力の制限は無いものとする。
七、場所の指定はしないものとする。ただし民間人や施設への被害、攻撃は反則とする。
これらのルールを理解した上で挑戦したい者は担任まで連絡する。
「コレが大まかなルールだ。随時細かいルールなんかは追加していくかもしれないが、それについても連絡はするから何か質問はあるか〜?」
「はい」
静寂を突き破る様に、真っ直ぐ伸びた手が挙がる。
「どうした、藍沢」
「進級制度を申し込めるのは何時からですか?」
率先してかつ、聞きたい事を聞いてくれた。これはFクラスの生徒全員が聞きたかった事だろう。
こういうものは大体が先着順というのが決まっている。我先にと申し込む生徒が出て来るのは必然だ。だから申し込める時期というのは慎重にならなければならない。
「あ~、えーっと……今からだな」
「……」
「ただし、先着十名までな〜」
先生の一言に流石に誰もが一拍置いて呆然としてしまっている。そう思ったのも束の間、教室中から我先へと担任に声を掛けようと押し寄せている。
壁の向こうからも何やら騒がしい声が聞こえてくる。
他のクラスでも伝達が終わったようだ。
(考える事は誰も同じだな)
その傍ら、クスクスと笑っている藍沢さんの顔が見えたがそれはいい。今はこの戦いに勝ち取る事だけを考えていれば。
そうして、僕もその奔走へと身を投じた。
…………
無事、夏休みの間に培った身体能力を活かして六番目に進級制度に申し込める事が出来た。
それでも期日まで数週間を要するらしい。
後ろの席にいた分、前にいた生徒にアドバンテージがあり僕の身体能力を持ってしても六番目になってしまった。
もっと何か方法はあっただろうと先生に言ってみたが、
「あ~それな〜、俺もそう思ったんだがな?学園長が「生徒達が餌に群がる虫みたいで面白そうではないですか」だそうだ」
うわぁ……
「それに加えて「それくらいの困難くらい乗り越えてもらわなくては」だってよ」
それは分からなくは無いけど……やっぱりあの学園長性格悪いな。
「そーゆー事だから、お前も進級頑張れよ〜」
らしい。
その間は何時も通り学園で過ごして待つしかない。
因みに、あれから三週間が経っているが僕の番はまだ回ってきていない。
回ってこない鬱憤は溜まってはいないが、いつかいつかと待ってはいる。
「そこまで、一旦集合!」
「はい!」
先生の一言にピタリと動きを止めて、言葉が聞こえた方へと向かい小走りで集合する。
「ふぅ」
「ハァ、ハァ」
「大丈夫か」
「……大丈夫に見えるか?」
「VRでのダメージは現実の身体には反映されない、だろ?」
グサッ
「……やっぱり」
自分自身に槍の穂先を手に刺してみたが、痛み事態はあるが数秒後には傷口は塞がっている。ゲームでいうオートヒールみたいなモノだ。
現実ではこうはいかないがコレはVRならではだ。
こんな事を考えている内に大誠君の身体から傷は消えていっている。
途中から違和感を持っていた。
幾らダメージを与えても倒れる気配が無い。しかも、最初に与えた攻撃が一撃、二撃と与え続けている内に消えていることに気付いた。
そこで、ふと思った。
もしかしたら、ココではダメージを受けても次第に回復していき、ダメージへと変換される前に治されているのではないだろうか。
ココに来る前、先生が言っていた。”共有"すると……
VRと言えど、能力を使うには何かしらイジらなければならない。もし、現実とVRを繋ぐにはどこを繋がなければならないのか?
(答えは一つ、脳だ)
脳へのダメージ、傷として脳が錯覚し後遺症や体が誤作動が起こってはいくら学園と言えど戦力となる生徒を失う理由は無いだろう。
Fクラスは戦力として数えられているかは、日を見るより明らかだろうができる事はある。
能力がある分、無能力者よりはチカラとなり事後の処理などの作業を任される様になる。ただし、その場で足手まといや邪魔にならない為になる事がFクラスの主な授業をする理由だ。
人材はいつ如何なる時も不足している。
その人材を失うのは国家としても惜しいと考えるに違いない。
だから人材を失わない様に、痛みはあるがダメージを受ける前に傷を回復させているのではないのか、と。
未だその馬に倒れている大誠君は痛みこそ有れど、現実の身体には反映されている訳では無いという事か。
「ハァ、ハァ……痛って」
「先生が呼んでいるし、もう行けるか?」
「……お前、人間じゃねーな」
「一応人並みな人生送っているつもりだがな」
「そーゆー事じゃねえ、お前の心が人間じゃねーって言っているんだ」
「……」




