仮想空間
目の前をVR機器が完全に覆い隠し、視界が暗闇に閉ざされる。
生徒全員が電源をつけて、それと同時に先生が能力を発動させてVRと能力を繋げて没入する。
……生体、確認……
……身体を生成中……
成功
……能力再現……
失敗
……再度挑戦 ……
失敗
……再度挑戦……
失敗、失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗成功
オールクリア、共有空間へと接続します。
……
VRを起動すると、何やら一瞬で流れてしまって見辛かったが明らかに普通ではない、ある種バグ(異常)と思えるものが見えた。
(能力の再現、確かにそう見えた。そしてその後に成功の文字も見えた)
先生のさっき聞いた話だと能力の再現は機械と能力への負荷が激しいから必ず失敗して弾かれて共有空間へと接続されるとの事だった。
それなのに僕は直ぐに失敗するどころか、何度も再現へ挑戦した挙句に最終的には成功した。
(どういう事だ……?)
「よし、全員接続出来たかな。それではこれから実戦的戦闘訓練を行う。各自二人一組になれ!」
取り敢えず、僕がここに来るまでにおかしな現象があった事には気付かれていないらしい。
クラスの皆や先生に至っては能力を使用しているにも関わらず、僕の異常に気付いていない。
というのも、接続してから数十分が経過している。
その間、周りの様子も見ていたが気付いた様子もない。
僕も気付かれない様にポーカーフェイスで偽っているものの、完璧ではない。僕の異常な事態になっている事に気付く奴もいるだろう。
(特に勘が鋭い奴や、違和感を感じる事に長けた奴)
いくらFクラスと言えど、何かに長けた生徒は必ずいる。
内田さんや藍沢さんなんかがいい例だ。
何かを内に秘め、その為に力を温存してこの学園に潜んでいても不思議ではない。
だから油断はしない。
「二人一組になった者から訓練を始めろッ!容赦は要らない。ここは仮想空間だ、ダメージは現実の身体には一切入りはしない。存分に戦え!」
先生が嗚呼は言ったものの、やはり何処か躊躇しているのか能力が無い事に慣れていないのか訓練所で訓練しているのと変わらない。
手加減という感じではなく、本当に何処かぎこち無い感じだ。
そんな躊躇いを感じるクラスメイト達を他所に内田さんはというと、心なしか戦いやすそうだ。
それに、短剣の扱い方が夏休み前よりも上達している。
(どこでその技術を学んだのかは、聞かない方がいいかな)
情報とは物理的なチカラ以上の威力を発揮する時もある。特に内田さんの場合は、それが生命線だ。聞くべきではない。
他の人達の様子を視ながら観察して纏めていると、僕と訓練をしている同じクラスの大誠君は必死に距離を詰めようとしてきているのが分かる。
僕が槍を使って、大誠君の剣を捌く。
(どうにか、どうにか懐に入り込めれば……!)
顔からそれだけの気迫を感じる。
(とか思っていそうだな……まぁ無理だけど)
僕も夏休みの間、サボっていた訳では無い。それどころか毎日を実戦的戦闘を想定して訓練してきた。
並の訓練とは違う。
これは和田にも協力を得てやった事であり一人で素振りをしているより格段に自分の未熟さが実感でき、威力、鋭さ、スピード等の見直しも出来た。その分僕の実力の向上も実感できた。
(だから、悪いけどFクラスレベルになると準備体操にもならない)
だが、その代わりに和田もかなりの実力を得ていた。
夏休みの後半になると僕が負け越す程の実力を和田は付けていた。それが夏休みの心残りだったりする。
だから、その心残りを発散するつもりじゃないけど……
「まあまあの力で行くぞ」
大誠君には聞こえない程小さな声で発する。
対峙している大誠君には悪いけど、これも一つの経験として受け取ってくれれば幸いだ。




