新授業
夏休みが終わり早くも数週間が経過していた。
九月も半ばになり、少しは涼しくなると思っていたけど昨今は九月になっても暑い日が続いている。
それにここは島、遮る山も無く空気が冷える事もない為余計暑い。だが、それは建物の外限定の話だ。
室内は日本と同じでエアコンが効いているから快適に過ごせている。それは学園でも例外ではない。
「……」
僕たちFクラスは今、エアコンの効いた教室で勉強をして過ごしている。
基礎訓練等は朝の内に済ませて三限目からは座学中心になっている。この学園も政府関連によって作られたとしても生徒が体調を崩すというのはマズイことなのだろう。
その為、戦闘戦略知識学に魔術知識基礎学が中心に行わていた。
そして今は四限目の実戦的攻略学を行っている。
実戦的攻略学とは、実戦での経験、戦いにおける感覚や状況判断能力を養う授業だ。
この授業内容を聞きそれは何処かおかしいと思った者もいるだろう。僕たち生徒も最初はそう思っていた。
しかし、内容を聞き驚愕や高揚した者もいたことだろう。
なにせ指定された授業を行う場所は外のバカ広い運動場でも訓練所でもなく、一般的に座学を行う教室と同じ室内。
更に驚きなのは、普段僕たちがいる教室と殆ど変わらないというところだ。
唯一違うところは机と椅子が無く、教室の隅に何やら金属質の四角い何かが置かれているくらいだった。
(なんだあの四角……?)
教室に鎮座していた先生が四角いモノに手を掛けると、機械音が響き渡り四角いモノは前面が開き、中には奇妙な物が入っていた。
それを各々が取る。取ってパッと見て誰もがこの機械が何をする為の機械か分かったはずだ。
(コレ、VR機器か)
四角い箱の様なモノに入っていたのは日本でも一般的に普及しているVR機器だった。
目線の先に画面が来るようになってそこからグルっと一周して固定し、どこからか電気信号を脳に送れる様になっている。しかし……
「先生、コレってVRですよね?それ用の本体がどこにも見当たらないのですが……」
一人の生徒が思った疑問を口に出し、先生に質問する。
本来VRをするにあたって最も重要なのが、それをVRの世界を反映させる為の本体。VRだけだと何の約にも立たない円形の何かだ。
「それを今から話す。先ずは……」
先生の説明曰く、
先ず僕たちが各々持っているVR機器は、本当にVR機器でありこれでゲーム等も出来る事は当然、映像を見ることも友人達と通信する事も出来き空間を共有する事も出来る。
だがこれから行うのはゲームの娯楽の機能ではない。主に使うのは空間を共有する機能との事だ。
VRが有するその機能を有効活用し、危険を避け尚且つより実戦向けの授業を行うそうだ。
手順としてVRを通常通り起動し接続する。
更にそこに先生の能力を上乗せする事で現実と遜色ない身体と身体能力を実現する。流石に個人個人の能力まで再現する事は無理なようだ。
しかし、素の身体能力だけに限っては話は別だ。身体を構築する脳、筋肉、神経が再現出来ている時点で現実との差はないと言えるだろう。魔力や能力が無いことは本来なら不便さを感じるのだろうが、今の僕には能力が使えない。
おまけに魔術も使おうと思えば使えるが殆どが補助や身体能力を上げる系統の魔術の為、あってもなくても変わらないというのが結論だ。
(つまり、僕は何時もと変わらずに訓練を行えるが他の皆はその旨ではない。能力魔術を縛られ使えず、その中で戦わなければならない)
この空間には武器も置いているが訓練所程の種類もない。
ざっと数えても十種類有るか無いか。
まぁ、僕の今のメイン武器は槍だから有るには有る。しかし長さは全て一定だった。
それは当然だろう。訓練所にある程の種類が必要ならば、VRと先生の方に負荷がかかり過ぎる。
いくら負荷や制限を掛けて軽減させてもそこまでの負荷掛けては持たないのだろう。何故そういった高度の演算処理をするコンピューターを設けないのかは……大体分かるか。
(僕たちにはそれだけの予算をかけられないというよりは、かけても無駄というのが主な理由になるのかな)
実力主義の現実、強さを求めても弱かったら相応の実力も能力もつけられない。強さを求めても周りから嘲笑われ、弱い自分自身を惨めに情けなく感じる。
この学園を入るまでの僕が、そうだった。
そう言われているのも今だけだ。
それを変えるっていうのも約束した。
(その為にもっと……もっと強さを……)
所詮この世は弱肉強食
チカラを持たない一般人には変えられる事は確かに在るのかもしれない。
だが、今すぐに変えるにはそれだけのチカラがいる。
それ程のチカラが必要不可欠。
だから、僕は先生の話を一通り聞きVRを着ける。
もっとチカラをつける為に……




