晩夏
夏休みもあっという間に過ぎていく。
七月は何時も通りに過ごしている内に終わりを告げ、八月に入る。
その八月も一日一日と過ぎ、昨日は八月三十一日になっていた。三十一日……つまり夏休み最終日だ。
「ふぅ~……」
今日まで休むことなく、鍛錬と勉学に勤しんだ。
そのお陰か、俺の実力は相当上がったと思う。この二ヶ月をずっと自分の戦闘技術とセンス、感覚、能力に魔力を高めていた。実戦形式と自己鍛錬での技術とセンスの向上を促し、それと同時に感覚と能力と魔力も鍛錬を積む。
技術、センス、感覚、能力の四つに関しては実戦形式での訓練が一番いい。
いくら訓練だからといっても、一人で素振りしているだけだったら強くなることにも限界がある。それに、誰かと鍛錬をする事で自分の欠陥も見つかるし問題点も次々と出て来る。
だが、それでいい。
俺の実力や技術に何か問題点があるのならば、それだけ俺は未熟でもあり、それだけまだ俺は強くなれるという事だ。
あの頃とは違う。
今では俺には友達だっている。少し厄介なところもあるが、融通を利かせてくれる人もいる。今後は情報をくれるであろうクラスメイトだってできた。
この状態を活かせればいつか、必ず……
「行くか」
現在九月一日の七時五十五分、そろそろ向かうといい時間に教室にも着ける。
前までもこのくらいに向かっていたし、いいだろ。
学園に向かうこと十数分、久しぶりの教室へと行く。
学園自体には向かうことはそう珍しい事ではなかった。和田と鍛錬していたし、する時は学園に来る事はしている。
教室に行く事に久しぶりという感覚を抱きながら扉を開き、教室へと入る。
入った教室には、人は殆ど居らず十人にも満たない程度の人数しかいない。その中には藍沢さんも内田さんもいた。
(早いな)
そんなに朝早くから来ていた生徒たちに、そんな感想を持ちながら自分の席へと向かう。
「おはよう、久しぶりだね」
席にたどり着くと、藍沢さんが僕に話し掛けてきた。
「……僕はそんなに久しぶりじゃ無いけどね」
「え〜、そうなの?」
「うん、訓練所も使ってたし。その時に何度か学園で見かけてたから」
「だったら声掛けて来てくれても良かったのに〜」
「邪魔しちゃいけないと思ったから、いつも見流していたんだけど」
「……そんな事気にしなくてもいいのに」
こんな事を言っているけど、学園にいる時は何時も誰か人といた。通学路、訓練所、図書室、空き教室、校庭、何処かで見掛ける度に二人三人は男女、クラスを問わず周りにいる。
一体どうやって人を、それも違うクラスの生徒といたのか……
実力主義、能力主義を掲げているこの学園と通う生徒達は一部を除きその主義に忠実に従っている。何の違和感も疑問も持たないまま。
そんな世の中で、しかも全て力が物を言う学園で最下層のクラスの生徒が他のクラスの生徒に普通に話しているのか。
違うクラスからしたら僕たちFクラスはこの学園では腫れ物みたいな扱いだろう。
力が物を言い、文字通り位が違うのだ。下のヤツらに構っているほど暇でも無い。
構っている暇があるのなら訓練所で訓練をする、それが学園での常識となっている。そういうヤツらが藍沢さんと関わり、楽しそうに会話をしていた。何か裏があっても可怪しくない。
「どうしたの〜?」
「何でも無いです」
「そう?」
言動が一挙手一投足が怪しく見えて仕方が無い。
夏休みに見掛けると日に毎に変わって見掛ける。そして夏休みが開けた今、ある程度学園の事で拘束されるから何か行動をしようにも制限下におけるだろう。
「ヨル君は夏休みどうだった?」
「……僕はどうってことない夏休みだったよ。毎日訓練と勉強していたらあっという間だったよ」
「つまらなくなかったの?」
「つまらないつまらなくないっていう話じゃ無いからね。これから必ず必要にもなるし、僕自身がやりたくてやっている訳だし」
「そっか」
「……」
二人の間に静寂が訪れる。
教室内自体は友人たち同士で会話をしているが、僕と藍沢さんの間には静かになる。
夏休みは終わったが、まだまだ夏の暑さは残り続けて日差しが僕たちを照らし続ける。エアコンの効いた教室では、そんな暑さをものとも思わず過ごしている。
やがて、時間も過ぎ教室内も賑やかになり始めてもうすぐ予鈴の時間だ。
九月一日の今日この日から、学園でも大きな動きを見せ始める。




