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救済

「内田さん、スパイ向いていないよ」


「何ですか?急に」


「内田さんスパイにしては感情が表に来すぎている」


「ッ!?」


 戦いの中で思っていた。ナイフで刃を防がれた時の動揺、そして焦り、今も恥ずかしやっている。

 感情が表に出過ぎている。スパイとは本来、感情を殺して公私混同しないようにする必要がある。


 それでも、内田さんは感情を殺さずありのままで挑んでいる。

 それは、内田さんが助かりたいという願いと思いがあるからだ。その願いと思いは、生きる糧に等しい。


「だから、内田さんは生きるのに必死だ。その生きる糧を必死に振り絞っている」


 そんな糧を望みに内田さんは任務を遂行しようとしている。その為には僕を殺す。

 だが、感情が生きている事が邪魔になる。その瀬戸際、葛藤が内田さんの脳内で渦巻いている。


「葛藤を内田さんが抱いている内は、絶対に僕を殺す事は出来ない」


「な、なら、もう、私を、殺して、下さぃ……っ……っ」


「それは出来ない」


「どうして、ですか……!」


「内田さんは本気で死を望んでいない。それにここでの死は救済にはならない」


 救済。彼女はそれを確実に望んでいる。

 しかし、彼女の死は世界の闇に飲み込まれて最後は何も無くなる。

 それでは、まるで意味がない。

 それでは、まるで救われない。

 だから、俺は……


「君を救いたい。今日過ごして分かった。貴女はこの世界で救われるべき人間だ」


「そんな人間、この世に幾万幾億といます。私だけが特別なだけではありません!」


「そうだね、だから僕はこんな世界を変えたい。そして内田さんの様な人を救いたい」


「……大層な夢ですね。その夢が叶った世界に生まれたかったものです」


 叶った世界を幾万幾億の人間に見せてやる。

 僕が本気で変える。

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