タラレバ
今日一日を通して分かった。
表情、目線、仕草、どれも自然で嘘を感じなかった。
if、タラレバを思い浮かべたのだろう。もしかしたらこの国、他の国に生まれていれば、こうならなかった。他の家に生まれていれば、こうはならなかった。
そういう思考が過ぎる。
これまでの待遇、環境を聞けば誰もが同情をしてしまうだろう。
それ程の理不尽、不条理、この世界が生み出した闇の黒い部分。
だがそれで、僕も潔く殺される程聖人では無い。僕も少なからず、この世界の闇の部分を見た、感じた。
だから、内田さんの境遇を理解出来ない訳では無い。
少なくとも、僕も同情はしている。内田さんよりはいい環境で育ってきた。
それでもこの世界は狂っていると感じる程良い世界では無い。
それを変える為に俺は、
「僕は、内田さんを決して攻撃しない」
この世界と同じようにはならない。この世界と同じになったら、この世界と同じになる。
それだけは避ける。
「どうしてですか……どうして」
「君の為に」
「ッ!」
「そんな世界と同じにならない為に。僕は攻撃しない」
「……貴方には関係のない事でしょう」
「関係大アリだ。少なくとも、この世界の闇は分かっているつもりだ」
「ッ何を、分かったつもりで……!」
「分かっているさ」
何もかもを分かっている訳では無い。この国だけは、少しばかり安全だとは思っていた。
学園も力量差が明確に出ているが、他国よりは緩和していると思っていた。
学園に入学して、分かった事がある。
入学してランク付けされ、自分は優位だと思っている生徒、自分は強いから下の者を見下す。
そういった者が多くいた。和田みたいな例外はいたけど、大半はそうだった。
そういう奴らを見てきた、感じてきた。
「だから、内田さんの痛みも分かる」
「何も分かっていません。あの程度で私の痛みの半分にもなりません。貴方は分かっていない!」
剣へと戻っていた蛇腹剣は、再び内田さんによって伸び始める。
さっきとは違い、スピード、切れ味は比べられないものになっていた。さっきまで切込みをつけるだけだったはずの刃は、柵切り裂き、木を切り倒していた。
これほどの切れ味は、そう簡単にはならない。
ならばこれは能力によるものなのか。
それならどんな能力なのか。
これまでの素の戦闘力で僕とここまで出来たんだ。能力アリならばどこまで出来る?




