決闘9
この決闘が始まってから何分、いや、何時間経っただろう。
体感ではそれ程経っているのかも、分からない。
訓練所にだって時計はあるが、見ている暇なんて無かった。今さらそんな必要は無いが。
今は、目の前の事にのみ集中する。
生半可な覚悟では相手にならない。その為の手段を要する。
今日、この日の為に用意してきた。体力、魔力、共に準備万端にしている。
今までは、体力メインで戦っていた。いざという時の為に、この瞬間の為に。
俺と和田は、ぶつかり合う。
「『刹那の瞬間、日と闇が混じり合う、』」
詠唱……
「『今日の終わりを告げる、刻のキザミ』」
「『朧げの姿見、火点し頃、』」
詠唱が必要な魔術、いや剣術か……
良いだろう。受けて立つ!
「【疑似身体強化 脚】!、それに加えて【疑似身体強化 胴】!」
「『誰そ彼の者也、我、その道を歩まん』」
両者の準備が整う。
「行くぞ!」
「……【黄昏流魔剣術 白墨】」
そして、今それが、衝突する。
衝突の余波によって訓練所の壁や床にヒビが入り、建物が、空気が、空間が揺れ動く。
人気が少ない学園の校舎にまで衝撃が届く。
この決闘が夜遅くで良かった。起きていて、近くにいる者ならば、地震と勘違いする者もいただろう。
だが、知るはずがない。この衝撃がたった二人によって起こされたモノだとは……
そして、この衝撃に耐え抜いた片方こそ、この決闘の勝者だ。
両者ダウン?そんなのは許さない。
立ち上がり、敗北を下すのは勝者のみだ。
煙の中で影が揺らめく。
揺らめく影が二つに別れ、そして、一方が糸が切れたかのように倒れていく。
もう片方は、その場で倒れる事なく立ち尽くしている。
勝敗が決した。
この決闘の勝敗が……
長いようで短い、短いようで長い戦い。夜も更け、皆が寝静まる頃の決闘。
それが今、終わった。
訓練所の大広間に佇む一人の人影。
煙も晴れていき、姿が露わになる。月光が窓から入り込み、その姿を照らす。
月光により影が一つ伸びていく。
その人物は空を仰ぎ見るように天を向く。勝利を噛み締めるように。
その人物は……




