47. ユリアンナの処遇
「それでは、ユリアンナ・シルベスカ……今はただのユリアンナか。あの者の処遇について話し合いたいと思う」
国王がそう言うと、すかさずサイラスが手を挙げて発言を求める。
国王が発言を許可すると、サイラスは頷いて立ち上がる。
「我が国の法律では、『貴族の殺害、及び殺害未遂』は原則処刑と定められています。……〝原則〟となっているのは、裁かれるのは力のある貴族家の者であった場合には刑が減刑されるのが通例だからです」
サイラスの発言に、国王も首肯する。
「うむ。……例えば2年前、バームズ侯爵令息が騎士見習いの男爵令息を剣術の訓練と称して木刀で殴り殺した事件が起きたが、バームズ侯爵の嘆願により処刑は回避されたな」
「5年前にライバル令嬢を蹴落とそうと紅茶に毒を盛った侯爵令嬢も、最終的には国外の修道院行きで落ち着いたはずです」
王太子も補足して頷く。
「ユリアンナ嬢は勘当されたとはいえ元はシルベスカ公爵家のご令嬢です。……次期公爵であるアーベル殿はどのようにお考えですか?」
サイラスに問われ、アーベルは眉間に深い皺を刻んだまま重々しく口を開く。
「……先ほど学園で父上が申し上げた通り、あの女はシルベスカ公爵家とは何の関係もない。むしろ貴族ではなく、平民として裁いてもらって構わない」
到底血の繋がった妹について話しているとは思えないような冷たい声でそう言い放つアーベルに、どこからかゴクリと喉を鳴らす音が聞こえてきた。
「……平民が貴族を害したとなると……」
「………公開処刑だぞ」
国王と王太子の言葉に、アレックスが顔を青くして俯く。
「………それで構いません」
アーベルの冷たく重い声が響く。
───ああ、こうしてゲームの〝ユリアンナ〟は公開処刑となったのだな。
この話し合いを黙って見ていたオズワルドは、長年の疑問のひとつであった「なぜ公爵家の令嬢が公開処刑となったのか」の答えをここに見た。
いくら恋慕うミリカを害されそうになったとはいえ、あそこまで冷徹に家族を憎むことができるものだろうか。
………否。
(俺も同じか………)
オズワルドは冷めた視線をアーベルに向ける。
もしユリアンナの立場にいるのがオズワルドなら、ウォーム家の家族もアーベルと同じことを言ったかもしれない。
今更ながらに、オズワルドはユリアンナがなぜ自分に助けを求めたのかを理解した。
何となく議論が終わり、処刑は免れないという雰囲気が漂う。
しかし次の瞬間、この重苦しい雰囲気を断ち切るようにアレックスが声を上げる。
「お待ちください!公開処刑など……正気ですか!?確かにユリアンナはしてはいけないことをしましたが、それは僕にも責任があったと思っています!」
「……その発言の真意は?」
国王が眉間に皺を寄せて問いただす。
「僕はユリアンナと長年婚約関係にありましたが、彼女ときちんとした関係を築く努力を怠っていました……。先ほどのアーベル殿の態度を見るに、ユリアンナはずっと孤独だったのではないですか?もし僕がきちんと彼女と向き合っていたら、彼女もこんなことはしなかったはずです!」
「……はぁ。アレックスの言い分も分かるが、世の中にはもっと不幸な境遇の者が大勢いるのだ。その者たちが皆重罪を犯すわけではなかろう?結局、それを行うことを決めたのはユリアンナなのだ」
「それはっ……そうですが。しかし公開処刑は重過ぎます………」
国王に正論で指摘され、アレックスは悔しそうに俯いて手を握りしめている。
「ふむ……ならばこうしよう。……一番の被害者であるローウェン嬢。そなたはどのような量刑を望むか?」
アレックスの様子を見た国王は、話題の矛先をミリカに向けた。
まさか自分に話を振られるとは思っていなかったのか、ミリカは青い顔をしたまま肩を震わせる。
「……大丈夫だ、ミリカ。思うことを話してごらん」
震えるミリカの肩を抱いているジャックが優しく声をかける。
ミリカは少し逡巡した後、決心したように口を引き締めこくりと頷く。
「……このような場で私の意見を申し上げるのは大変心苦しいのですが……」
か細い声で何とか言葉を絞り出す様子は大変に庇護欲を唆る。
サイラス、ジャック、アーベルは隠しきれない恋情をその瞳に乗せて心配そうにミリカを見つめている。
「正直申しまして………私はユリアンナ様が怖くて仕方ありません」
「……そう思うことは仕方のないことだ。其方はそれだけのことをされたのだから」
国王が気遣わしげに声をかけると、ミリカは伏せていた睫毛を上げて2、3度瞬きし、涙を堪える仕草をする。
「……どのような量刑が妥当かは………私には決められませんので、皆様のご判断にお任せします。ただ、もう二度とユリアンナ様とお会いすることがないことを願うだけです」
震える声でそう言い切ったミリカに、皆が同情の視線を向ける。
「……ローウェン嬢がそう言うのであれば、量刑は私が決めよう。皆の意見を聞き、余は公開処刑が妥当だと判断した。刑の執行は3日後、王城前広場で行う!」
国王の口から、ユリアンナに対する処遇が言い渡された。
そしてそれは、ユリアンナが裏切られた瞬間でもあった。
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