36. ミリカ・ローウェン暗殺未遂事件①
ミリカから自身の暗殺計画の実行を依頼されてから、ユリアンナは思い悩んでいた。
《イケパー》のアレックスルートで起こる『ミリカ・ローウェン暗殺未遂事件』を、ユリアンナは起こすつもりがなかった。
なぜならば、それこそがユリアンナの処刑を決定づけた事件だからである。
だが、ミリカの強い願いに押されて事件を起こすことを了承してしまった。
それが今、ユリアンナの頭を悩ませている。
ゲームで起こる事件の概要は───
レベル9の魔獣を倒したことで、学園内の評価が上昇したミリカ。
アレックスと同じグループだったことから「実はアレックスと恋仲なのではないか」という噂が立ってしまう。
この時点でかなり心を通わせていた2人だが、まだ正式に想いを伝え合ったわけではない。
よって噂は半分は誤りなのだが、その噂に酷く心を乱された令嬢がいた。
それはアレックスの婚約者であるユリアンナ・シルベスカである。
ただでさえミリカが自分より注目を集めているのが気に食わないのに、自分の婚約者まで奪おうとしているなんて。
ユリアンナの怒りは限界を迎え、遂に凶悪犯罪に手を染めることになる。
それが起こったのは、3度目の『初冬の大夜会』の後。
大夜会で攻略対象者たちと楽しい夜を過ごしたミリカは、この日もエスコートを買って出てくれたジャックが一人で学園の寮に戻るミリカのために用意してくれた馬車に乗り込む。
馬車の中で夢のような時間を回想していると、俄かに外が騒がしくなり、馬車が急停止する。
複数の足音や何かを殴るような音、呻き声や男の大きながなり声が聞こえた後、乱暴に馬車の扉が開かれる。
扉から顔を出したのは見るも醜悪な笑みを浮かべた無頼漢だった。
馬車から引き摺り出されたミリカは、その場で縛り上げられ男たちに攫われる。
男たちに連れ込まれたのは人影のない郊外に建つ荒屋。
「お嬢ちゃんには何の恨みもねぇがよ。お嬢ちゃんを手酷く穢してその辺に捨てれば大金をくれるんだってよぉ!ははっ、恨むんならお偉いさんを怒らせちまった自分を恨めよ」
そう言って無頼漢がミリカを荒々しく押し倒し、持っていたナイフでドレスを切り裂いた瞬間。
バーン!という音がすると同時に無頼漢が弾かれるように後ろを振り向く。
「何っ!?……ぐぁぁっ!!」
「ミリカッ!大丈夫か!?」
屈強な騎士たちが荒屋に雪崩れ込み、無頼漢たちを取り押さえる。
騎士たちに続いて荒屋に駆け込んできたのは何とアレックスだった。
ヒロインが襲われる瞬間を見計らったかのようにタイミングよく現れるヒーローというご都合展開。
結果的にミリカは怪我ひとつなく救出される。
なぜこれで?という感じなのだが、このイベントをクリアすればアレックスの好感度が大幅に上がるのだ。
アレックスが他のメンバーより好感度が上がりにくいがための救済イベントとも言われていた。
ミリカがユリアンナにこのイベントを起こして欲しいと言っているのは、もちろんこの黒幕がユリアンナだから。
いくらゲームのユリアンナがバカだといっても、さすがにすぐに黒幕がバレるようなヘマはしていなかったらしく、黒幕が発覚するのはフィナーレの卒業パーティーの直前である。
ゲームではアレックスが密かに心を寄せるミリカに〝王家の影〟をつけていたため、ミリカが攫われたときにすぐ駆けつけることができたという設定だった。
しかし、ここは現実だ。
十分好感度が上がっていないらしい今の状態で、ミリカに〝王家の影〟がついている可能性は低い。
何よりユリアンナが一番気にしているのは、この事件に他者を巻き込んでしまうことだ。
ゲームではユリアンナに雇われた無頼漢がどのような刑に処されたかは分からないが、貴族を手にかけた罪は重い。
ユリアンナですら公開処刑になったのだから、それより残酷な刑に処された可能性がある。
こんな茶番劇で、例え市井の破落戸だったとしても命を落とすようなことがあってはならない。
かと言って、ユリアンナが自らミリカを手にかけるようなことはできない。
そんなことをすれば卒業パーティーを待たずして投獄されるだろうから、ゲームから大きく外れたシナリオがどんな風に進むのか予測できなくなってしまう。
オズワルドに協力を仰ぐことも考えたが、一歩間違えたら処刑になってしまうような計画に巻き込むのも気が引けた。
ユリアンナは考えに考えた挙句、《イケパー》ゲームの違うルートのシナリオを混ぜることを思いついたのであった。
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