#098 夏祭り開催! ハンナちゃんの料理は大行列!?
「開始10分ですでに列が伸びています!?」
私は驚愕で思わず大きな声を出してしまいました。
だって仕方ないんです。夏祭りが開催されて10分。
夏祭りが開始されるまで校門は閉まっているのでお客さんが来るのは必ずその後になるはずです。
なのにたった10分で、まるで私の店を目指してきたみたいにお客さんが集まって来るのですから。
「焼きそばを15個くれ! トン汁も15個だ!」
「ギルドのみんなに食べさせたくてな。焼きおにぎりを20個ほどもらえるか?」
「焼きトウモロコシだと!? 10個くれ!」
「あいなのです! トウモロコシ10個、お待たせしましたのです! あっついので、ちゃんとふーふーして食べるのですよ?」
「い、癒される!?」
みなさん〈空間収納鞄〉を持っているので買い方が豪快です!?
私たちもこの日のために大量に仕込んでいましたからどんどん放出しても大丈夫です。
ですが余裕ではありませんね。このペースが続くと商品が1日でなくなってしまうかもしれません!
今からどんどん焼いていかなければ!
「アルルちゃん、焼きそばどんどん焼いちゃってください! カイリさんもアルルちゃんのサポートを! メリーナ先輩、おにぎりとトウモロコシの在庫、ここに置いておきます、焼いちゃってください!」
一瞬でここは戦場になりました。
受付をマリアさん、食べ物のお渡し係はルルちゃんと私が担当。
アルルちゃんとカイリさんが焼きそばをどんどん焼いてはタッパーに詰めて山積みにしていき、しかしその山もすぐに捌けてしまいます。
シェリアさんは寸胴鍋からトン汁を掬い提供します。メリーナ先輩はその他焼く係で焼きおにぎりや焼きトウモロコシを始め、どんどん焼いては醤油を塗って作っていきます。
「す、凄まじく腹に響く匂いだ」
「ゴクリ、くそう、列が長い。受付が遠い」
「俺、昨日から飯抜いてきててさ。今日腹に入れる1番目はハンナ様の料理だって決めてたんだ。おかげで腹が死にそう」
「無茶しやがって。ほらお茶飲むか?」
「い、いらねぇ」
「そこ、列からはみ出ているぞ、しっかり並ぶのだ」
「慌てるな! ここでしょっ引かれればハンナ様の手料理は二度と食べられないと知れい!」
列はいつの間にかどんどん延びて、最後尾が出店からでは見えないくらいになっていました。
幸いにも列の整理などはしなくても、自発的に列の整理をしてくださる方が現れたので事なきを得ています。
しかし、あの人たち誰でしょう? 別に〈秩序風紀委員会〉のエンブレムもつけていないようですが?
ですが、みなさん大人しく列を作られているのでよしとしましょう。
「あ、ゼフィルスお兄様なのです!」
「え?」
ルルちゃんのセリフに私は思わず反応しました。
そこにはラナ様やエステルさんたちを連れたゼフィルス君がこちらの様子を窺っていたのです。
軽く手を振ってきたので振り返すくらいしか出来ませんでした。
あう、残念です。ゼフィルス君はアイコンタクトで「忙しそうだからもう行くことにするよ。頑張れ」と言って去っていきました。
いえ、私も忙しすぎて対応できなかったのですが、ちょっと残念でなりません。
また、その後も何人かの知り合いの方が来てくださいました。
それはミーア先輩であったり、シレイアさんであったり、クラスメイトであったり。
ですがみなさん、忙しそうにしている私に遠慮して声を掛けずに手だけ振って戻っていきました。
うう、せめて一言くらい会話したかったです。
しかし、ミーア先輩ってたしか〈生徒会〉の出し物に集中していたはずじゃ?
いえ、多分休憩時間だったんですよきっと。
朝から始まった混雑はピークのお昼を過ぎてようやく落ち着いてきました。
私たちも少し余裕が出来てきます。
「お腹が空いてしまいました」
「せやな~。うちも腹ぺこや」
「ルルもペコペコなのです」
「この匂いがとんでもないですよね」
マリアさん、アルルちゃん、ルルちゃん、メリーナ先輩が口々に言います。
会話できる余裕が出来てきたのはいいことだと思います?
「順番にお昼を食べましょう。受付は私とマリアさんが入れば今は回りますからルルちゃんとアルルちゃん、シェリアさんどうぞ」
「ありがとうなのです!」
「ほな、甘えさせてもらうわぁ」
「助かります。もう腕が草臥れていまして」
休憩時間はそんなに取れませんが、お昼をゆっくり食べるくらいは出来ると思います。
続いてカイリさん、メリーナ先輩、マリアさんと休憩していき、最後は私の番です。
「ふ~、疲れました~」
「たくさん英気を養ってくださいねハンナさん。こちらお弁当です」
「ありがとうございます~」
マリアさんからこの日のために用意してもらっていたお弁当をいただきます。
本当は他の出店なんかも見てみたいのですが、さすがにちょっと難しいですね。
お腹が空いていたのでお弁当はあっという間に食べ終わってしまいました。
少し小休憩します。
あ、そうです。
「今のうちに外で列の整理をしてくれた人にお礼をしないと」
「そうですね。こちらを持っていってあげたら良いと思います」
「あ、ありがとうございますマリアさん」
思い出したのは有志で列の整理をしてくれた学生さんです。
どこの誰かわからないので今の機会を失ったらもう二度とお礼が出来なくなってしまいます。
そう思っていたのは私だけではなかったようで、マリアさんが飲み物とサンドイッチを用意してくれていたみたいです。
出店で売っているものではなく、気持ちが篭っているものとして、サンドイッチは良い選択ですよね。紙皿に盛って持って行きます。
「ふむ、だいぶ捌けてきたか」
「さすがにアレだけの学生が買えばな。落ち着いても来るであろう」
「あの、すみません」
「ん? あ! あなたはハンナ様!?」
「わ、我々に何か御用で!?」
「え、えっとあの。列の整理、ありがとうございました。とっても忙しくて大変だったので、すごく助かったんです。良ければサンドイッチなのですけど、これ食べてください」
「我々にか!?」
「こ、これはサンドイッチ! ハンナ様が生の手で御造りになられた至高の食べ物!?」
なぜかおののく、不思議な方々でしたが、恐る恐るというかプルプル震えながらサンドイッチを取り、その場で食べました。
「う、美味い――」
「生きてて良かった。ハンナ様の手料理、マジ美味い」
えっと、それはマリアさんが作ったもので私の手作りではないのですが、あまりに感動しているので口を挟むのはやめておきました。ゼフィルス君も、知らないほうが幸せなこともある、知ってしまうと不幸になってしまうんだ、って言っていましたし。
飲み物も渡して再び「ありがとう」と御礼を言って店に戻ります。
さて、夜の部ではキャンプファイヤーやフォークダンスもあるとのことですので、体力は残しておかなければなりませんね。
休憩しつつ、夏祭り夜の部に備えました。




