#087 ムファサ生産隊長が〈エデン〉に挨拶!?
今は夏休み真っ盛りです。
夏休みということは学園の授業が無いということですが、学園自体がお休みということではありません。
ちゃんと活動している箇所はありますし、先生もいます。
ダンジョンで困った事などはちゃんと先生に相談する事ができます。
なぜそんな事を言ったのかというと、夏休みに相談を受け付けている部署というのは先生だけでは無いからです。
私が所属している〈生徒会〉も、この夏休みの間、活動を続けています。
とはいえ監督するべき学生たちがお休みなのでやる事は少ないです。
市場の生産品の流通量の調整などがメインのお仕事ですね。
そのため、活動日は週に三回ほどと少なく、私もまだ〈生徒会見習い〉なので仕事はあまり多くは無いです。
そして、本日はその活動日だったのですが、珍しく生徒会室にいた会長のムファサ隊長からこんなお話がありました。
「本日、ギルド〈エデン〉のゼフィルス氏と面会する事になっている。ハンナ嬢も一緒に来てほしい」
「はい?」
いきなりの事に上手く事態が飲み込めませんでした。
ゆっくり今言われた事を咀嚼し、そうしてようやく飲み込む事ができました。
「えっと、ムファサ隊長、それはどうしてですか?」
そう聞いたのは仕方ありません。
ムファサ隊長は今年度に入ってずっと〈キングアブソリュート〉と共に上級ダンジョンの攻略を手伝ってきました。
そのため、私も顔を合わせる機会が少なく、喋った事もあまりありません。
というよりチエ先輩が私をムファサ隊長に近づけないようにしているようなのですが。
なぜでしょう?
ですが、チエ先輩は近くで黙って見つめるだけです。
つまりはこの話はチエ先輩が必要だと判断していること、というわけです。
いったい何が起こるのでしょう?
「何、そんな堅くなる事はない。赴くのは挨拶が故だ」
「挨拶、ですか?」
それを聞いて私は気を張っていた心が少し落ち着きました。
しかし、同時にもう一つ疑問が浮かびます。なぜ生徒会の生産隊長であるムファサ隊長がゼフィルス君に挨拶に行くのでしょう?
その疑問は、そばに仕えるようにして立っていたチエ先輩からもたらされました。
「ハンナさんに〈生徒会〉へ所属してもらいますからね、その挨拶ですよ。掛け持ちとはいえ、別ギルドのメンバーを〈生徒会〉に勧誘してしまいましたから、所属ギルドのマスターにはしっかり筋を通しておく必要があるのです」
「あ、なるほど」
後ろで注目していたアルストリアさんとシレイアさん、そしてサトル君も納得の雰囲気が流れてきます。
この中で〈生徒会〉と掛け持ちしているのは私だけですからね。
「ハンナさんからしたら突然でしたね。すみません、このムファサ隊長がいつまで立っても時間が取れなかったもので」
「いえいえ、大丈夫です。お忙しいはずですから」
「そう言っていただけるとこちらも助かる」
ムファサ隊長が軽く礼を取ると立ち上がる。
「準備が出来次第、出立する。同行者はハンナ嬢、チエだ」
「「はい」」
私も今日は〈生徒会〉に来たばかりで仕事に手を付ける前だったので準備は簡単です。
というより、このまま行けます。
チエ先輩もメガネをクイッと上げて、今日も決まっていますね。二人共準備は整っています。
「よし、では行ってくる。後を頼むぞベルウィン副隊長」
「任せな。三人共いってらっしゃい」
狐目のような細い目をしたベルウィン副隊長に見送られ、私たちは〈生徒会室〉を出て、そのまま〈エデン〉のあるDランク部屋まで行きます。
場所は私がよく知っているので先導する形で進みます。
途中ムファサ隊長はずっと静かでした。
チエ先輩もいつもはあまり口数の多くない方ですが、今日は〈エデン〉についての事を結構聞かれました。
「ハンナちゃんは戦闘ギルドである〈エデン〉の生産メンバーですが、掛け持ちして無理をしていませんか?」
「えへへ、〈エデン〉のみなさんは優しい方ばかりなので全然無理していませんよ。素材もみんなが集めてくれたり、買ってくれたりするので私は錬金に集中出来ますし。たまにみんなに混じってダンジョンに行ったりしますし」
「そ、そうなんですね。ハンナさん、数日前に中級中位の〈猫ダン〉の攻略者の証を手に入れたようですが、それも?」
「はい! みんなで頑張りました! 私が挑戦しようと思ったらレアボスが出ちゃったのですが、なんとか倒せまして」
「れ、レアボスですか!? しかも偶然ポップしたレアボスを倒したと!?」
「全部〈エデン〉の強いメンバーのおかげですね。えへへ。もちろん私も微力ながら手伝ったのですよ」
「す、凄まじいですね。参考までにどのように攻略したか聞いても?」
「えっと、それは内緒で。どうしても聞きたければゼフィルス君に聞いてみてください」
そんな感じでチエ先輩は私の話に大変興味を持った様子で色々聞いてきました。
私も答えられるものは全部答えましたが、チエ先輩のリアクションはちょっと照れてしまいますね。
「チエ、話はここまでのようだ。着いたぞ」
気がつけば私たちは〈エデン〉のギルド部屋の前に着いていました。
話をしていると時はあっと言う間に過ぎていきますね。
私が扉を開けようとするとチエ先輩がそれに待ったを掛けて首を振りました。
そして視線でムファサ隊長を指します。
私とした事がうっかりしていました。
私もチエ先輩と一緒に横に退きます。
ムファサ隊長は一度身だしなみを整えると、ギルド〈エデン〉のギルド部屋にノックしました。
―――コン、コン、コン。
「〈生徒会〉です」
「どうぞ」
ムファサ隊長がノックの後端的に告げると、中からゼフィルス君の声が聞こえました。




