#084 レアボス戦、ユニーク全体攻撃がハンナを襲う。
「ガァァァ!!」
猛獣の鳴き声かと思いました。その声の主は、部屋の先に居るレアボスです!
すると、いきなり部屋の奥の豪華なカーテンがめくれ。二足歩行の猫たちが大砲を持って現れました。
「初手、範囲攻撃!」
ゼフィルス君の声が響くと共にシエラさんが前に出ます。
「『インダクションカバー』!」
瞬間、多くの砲撃音が聞こえその全ての攻撃がシエラさんに降り注ぎました。
シエラさんが全ての攻撃を引きつけてくれたのです。
「『オーラヒール』!」
「ありがと、ゼフィルス」
防御スキルで受け止めたとはいえ大きくダメージを負ったシエラさんをゼフィルス君が回復しました。
このパーティでは純粋なヒーラーはいません。私も〈マナライトの杖〉に〈支援回復の書・魔能玉〉をセットし、シエラさんを援護します。
〈支援回復の書・魔能玉〉は『ヒーリングLV7』『メガヒーリングLV3』『プロテクバリアLV9』が付いています。ポーション類と合わせたヒーラースタイルです。
「『プロテクバリア』! 『メガヒーリング』!」
私もゼフィルス君の魔法だけでは回復が足りなかったシエラさんに支援回復を送りました。
「ハンナもありがとうね。――『オーラポイント』! ――『ガードスタンス』!」
シエラさんは律儀にお礼を口にして前へ出ました。その後挑発系スキルを使いヘイトを溜めていきます。
「ガアァァッ!!」
ボスの双剣が光り輝きます。
スキルエフェクトです!
「『鉄壁』!」
シエラさんが冷静に盾で防ぎ始めました。
さすがシエラさん、レアボスを前にまったく退きません!
そこからの双剣の素早い攻撃の乱舞を全て防ぎきっています!
「『精霊召喚』! 『エレメントリース』!」
「ルル、行っきまーす! とう! 『ローリングソード』!」
「ルル、まずはデバフだ! とにかくスピードと攻撃力、ついでに防御力を削ってくれ!」
「あうちなのです! 了解なのです! 『キュートアイ』! 『チャームポイントソード』!」
「俺も削るぜ! ――『勇者の剣』!」
「『精霊召喚』! 行きます――『エレメントブースト』! ――『エレメントジャベリン』!」
皆さんもドンドン動きます!
シェリアさんは最初〈氷精霊〉を召喚したみたいです。それを『エレメントリース』でシエラさんに貸し出しました。〈氷精霊〉ちゃんがふわーっと飛んでいき、シエラさんの肩に座るとシエラさんのVITが上昇します。ゼフィルス君が言うには3割増しになるそうです。すごいです。
続いてはルルちゃんがジャンプ。膝を抱えてクルクルと縦回転しながらレアボスの頭上を飛び越えて後ろに回り込みました。縦回転しているのはルルちゃんだけではなく剣も回転しているので当たったら危ない攻撃です。あ、肩を斬りながら後ろに回り込みました。ルルちゃん、かっこいいです!
そのまま攻撃に入ろうとした所でゼフィルス君からデバフ指示が飛び、ルルちゃんはさっき言われたことを思い出してデバフアタッカーをし始めました。
ゼフィルス君も防御力にデバフの掛かるユニークスキルで側面から切り込んでダメージを与えていきます。
シェリアさんは二体目の精霊、〈光精霊〉を召喚しました。
そこから自分にバフを掛け、光属性の魔法で攻撃していきます。
私も負けていられません!
「『ヒーリング』! 次弾装填、錬金砲――発射!」
私もシエラさんに回復を送りつつ、すぐに〈マナライトの杖〉を背中に刺し、〈空間収納鞄〉から筒砲を取りだして撃ちまくります。
私の攻撃はアイテム頼り、でもそのアイテムは私が作り上げた最高傑作品ばかりです。
ゼフィルス君と行った〈鳥祭り〉で乱獲、もといゲットした中級中位素材で作り上げた品々による攻撃は、それなりのダメージを稼いでいるように見えます。これは良い感じです!
でもちょっと気がついてしまいました。
爆弾系ってボス戦、いえ、集団戦で使うタイミング無いなぁって。
爆発したら周りにも被害が出るのでゼフィルス君たちも巻き込んでしまいます。
ですが、わざわざ退いてもらって爆発を打ち込むにしては、私の攻撃は威力がそこまでではありません。ゼフィルス君やルルちゃんに攻撃してもらった方がダメージが出ます。だって【勇者】と【ヒーロー】だもん。
本当に参考になります。
ボスに応じたアイテムというのがあるんですね。
今度売る品にはそういう側面もよく考えて売らなければいけませんね。
ゼフィルス君に誘われて、とても良かったです。
そんな時です。レアボスが急に飛び退き、体から赤いエフェクトを出し始めたのです。
「ユニーク来るぞ! 全体攻撃! 防御姿勢を取れ!」
「防御姿勢!?」
ゼフィルス君の指示に私は思わずビックリした声で返してしまいます。
防御姿勢とは文字通り防御の姿勢です。
これを取るとスキルなどが一切使えなくなりますがダメージは最大半分まで減り、ダウンが取られなくなるという、どの職業でも使えるガードアクションです。
〈戦闘課〉でも〈生産専攻〉でもまずダンジョンに入るときに教えてもらう基本姿勢の一つですね。
全体攻撃ということはシエラさんでも防御しきれません。先ほどの『インダクションカバー』で防御したとしたら――、来るのは中級中位ダンジョン、レアボスのユニークです。シエラさんでも戦闘不能になりかねないと思います。
そうなるとタンクが落ちて陣形が崩れ、一気にピンチに陥ります。
全滅するときのパターンなんだそうです。
私は〈マナライトの杖〉で頭を庇うように持ってしゃがみ込み防御姿勢を取りました。
そういえば、モンスターの攻撃を食らうのは、これが初めてかもしれません。
た、耐えられるでしょうか? レアボスのユニークスキルが発動して全滅、そんな話は数多く聞いたことがあります。
ゼフィルス君は大丈夫だと太鼓判を押してくれました。でもやっぱり戦闘不能になってしまうのではないかと、どこかで怖い気持ちがあるのです。
そして衝撃。
どうやらボスが大きな声を出すハウリング系を発動したみたいです。
うるさい大声と共にビリビリ何かの衝撃が体へ襲うのが感じられました。
薄目を開けて恐る恐るHPバーを見ると、ドンドン減って行っています。
うう、いつまで続くのでしょうかこの声、HPが半分に迫りました。
もうダメです。やっぱり生産職に中級中位ボスは無理だったのでしょうか。
そんな時です。声が不意に止みました。
「へ?」
「おっしゃチャンスだー! 『ソニックソード』!」
「グアアアァァァ!?」
それがユニークスキルが終わったからだと、遅まきながら私が気がついた時には、ゼフィルス君が良い笑顔をしながらボスを切り倒し、ダウンに持って行っている所でした。
「総攻撃だーー!!」
そのセリフ、なんだか久しぶりに聞きました。
でも私の体はちゃんとその指示を覚えていたようで、〈マナライトの杖〉を手放し、次弾装填。そのまま連続で筒砲を叩き込んだのでした。
そして気がつけば、ボスはエフェクトを出しながら消えていて、金色に輝く〈金箱〉が二つ。残されていたのでした。




