#083 アレ? ボスの様子が?(本編390話の……)
夏休みのある日。
今日はゼフィルス君と約束をしていた大事な日。
中級中位ダンジョンのボスに挑戦する日です!
少し前、〈戦闘課〉の皆さんのダンジョン攻略についに着いていけなくなりました。私は生産職なので仕方ないことです。
ですが、ゼフィルス君はしっかり私が中級中位ダンジョンで戦力として活躍出来るよう、色々考えていてくれたのです。
それが通用するのか見るのが、本日、というわけですね。
「よし、準備は出来たな! ハンナは?」
「うん! 大丈夫だよ!」
私は薬がたくさん入ったポーチ型のバッグを二つ両肩に掛け、ゼフィルス君の声に頷きます。
現在、中級中位ダンジョンの一つ、〈孤高の小猫ダンジョン〉の最奥に来ています。
私はゲスト扱いでしたが何度もここには来たことがあります。ボス部屋には入れないので救済場所で待っていただけですが、今回は私もボス部屋へと入る事になっています。
「ハンナ、緊張するとは思うけど、私が守ってみせるから」
「シエラさんに守っていただけるなら、安心ですね!」
今回、タンクとしてシエラさんが参加しています。シエラさんのタンクは安定力が違いますから安心感があります。
「ルルも頑張るのです! まっかせてほしいのです!」
「はぁ~、今日もルルが可愛い」
メンバーのもう2人はルルちゃん、そしてルルちゃんの保護者(?)のシェリアさんです。シェリアさん、剣を掲げてシャキンとポーズを取るルルちゃんをうっとり見つめていますね。いつものシェリアさんです。
今日はこの5人でボスに挑むのです。
とはいえ私以外は皆さん証を着けておられるので気楽にいけます。みなさん頼りにしてます!
「一応、ハンナは初めてだからおさらいしておくとだ。ここのボスは〈猫王のキングニャー〉、通称:〈猫キング〉。配下を二体連れている怠惰なデブ猫だ。範囲攻撃をよく使うから巻き込まれに十分注意しろ」
「うん。前にも教えてもらったし、大丈夫。ちゃんと頭に入ってるよ」
「そうか? 準備万端だな――んじゃ、いくか!」
「「「「おー」」」」
ドキドキ。
私のステータスは以前とほとんど変わりません。
いえ、装備を大きく更新したので、その補正で今はHPが500上がって530あります。
簡単にはやられたりしません。
それに、私には切り札があります! どんな攻撃が来ようと、戦闘不能にはなりませんよ!
そんな覚悟と共に、私は最後尾で門を潜りました。ここがボス部屋。
豪華な猫の王室とも言える、なんだか煌びやかな作りの部屋です。
と辺りを見渡していましたが、――あれ? なんで皆ここで止まっているのですか?
というよりボスはどこに――あっ!
「ゼフィルス君、これって――」
「ああ。なんだ、ハンナって結構ボスに好かれる体質なのか? 久しぶりに挑んだからビギナーズラックでも発動したのか? いや、もしかしたら〈幸猫様〉の幸運が貯まっていたりして!? もしかしてあり得る!?」
ゼフィルス君に話しかけると、なんだか1人でくわっとしていました。
シエラさんがジト目になってメイスで小突きます。
「ゼフィルス、しっかりしなさい」
「は!! 危なかった。トリップする所だったぜ」
私にはすでにトリップしているように見えましたが、気のせいだったでしょうか?
いつもの事です。
「こりゃ、レアボスをツモったな。そういえばここのレアボスって初めてだっけ?」
ゼフィルス君が首を捻ります。
そんな事を気にしている場合では無いと思うのですが、ゼフィルス君ですからね。
「私も初めてよ。ゼフィルス、簡単でいいから説明をちょうだい」
先頭に立ち大盾を構えるシエラさんが振り返ってゼフィルス君に聞きます。
ナチュラルにゼフィルス君なら知っていると信頼しているのがシエラさんらしいですね。
もちろん私もゼフィルス君なら知っていると疑っていません。
そしてゼフィルス君は、やっぱりゼフィルス君でした。
「ああ。ここのレアボスは〈革命王・ニャキス〉。どこを革命したのかは定かでは無いが、おそらくあの怠惰な〈猫キング〉を討ち取って変わったのだろうとまことしやかに囁かれているボスだ」
「違うわ。攻略法を教えてという意味よ」
シエラさんが冷静にツッコミました。
ゼフィルス君はたまにこんなボケを入れてくることがあります。おかげで少し弛緩した空気が流れました。私の緊張も、少し抜けたように思います。
レアボス遭遇は一種のデンジャラス。
ボスのランクがワンランク上がるため全滅リスクの高い危険な遭遇です。
その分報酬が非常に良いので挑む者は後を絶たないらしいです。
ですが、危険なことには変わりありません。レアボスに遭遇したら、普通は身が竦むと思います。私だっていざ中級中位ボスと初対決と思いきや、いきなり一段飛ばして中級上位ボス級との戦闘になりそうでドキドキが加速しています。
ゼフィルス君のこの雰囲気には助けられることも多いです。
ゼフィルス君も弛緩した空気を感じ取ったのだろう。今度は真面目に言います。
「単独のボスだ。範囲攻撃も多く使ってくる物理型。武器は双剣で、基本的に接近戦型。ただ、何かを指示するようなアクションをすることがあって、それをされると部屋の奥から猫たちが大砲を持って現れる。そして撃ったら逃げる。範囲攻撃だな。この猫を倒せば範囲攻撃は止められるが、切りが無い。アクションをする度に別の猫が現れて砲撃してくるからだ」
「なるほどね」
ゼフィルス君が簡潔に説明します。その間に奥にエフェクトが光りました。確か、レアボスポップのエフェクトです。
「シエラはヘイト稼ぎ! シェリアはアタッカー、ルルもデバフアタッカーを! 俺はヒーラーをこなしつつアタッカーに回る。それとハンナ!」
「はい!」
「このボスは広範囲に砲撃してくる。例の切り札を使って乗り切れ!」
「!! うん!」
ゼフィルス君が言い終わった頃にはレアボスが登場していました。
黒い体毛に二足歩行。身長はゼフィルス君を超える程度で筋肉が盛り上がっています。体長は2m半はありそうな程の大きさでした。
腰には2本の剣。長ズボンを履いていました。これが〈革命王・ニャキス〉。
私は急いでバッグの中に手を突っ込み目的のものを取り出し、一気に煽りました。
それは私の切り札。――〈ディフェリタンD〉!
私のDEX値とVIT値が入れ替わりました。




