#069 ミーア先輩の番(本編424話でドロップしたアレ)
「ゼフィルスさん、お世話になります!」
「おう。任せとけ。先日飛びっ切りいいのが手に入ったんだよ」
ミーア先輩のテンションがすごく高いです。
装備を更新するってワクワクしますからね。わかりますよ。
しかも、ゼフィルス君が飛びっ切りと言い切ったのです。これは期待が予想を超えますよ(確信)。
「じゃあ、出すぞ。〈猛獣の集会ダンジョン〉の最奥ボス〈バトルウルフ〉からドロップした〈金箱〉産装備、〈コック帽子〉と〈純白エプロン〉だーー!」
「え、えええーーーー!? 〈金箱〉産装備!?」
ほら、軽く越えてきました。
取り出した純白の縦に長い帽子と、同じく純白のエプロンを見てミーア先輩が叫びました。
まるで度肝を抜かれたみたいな悲鳴です。なぜかマリー先輩がよくあげている声に似ている気がしました。多分気のせいです。
「こ、これ、〈金箱〉産の装備ですの!?」
「は、はわ! しかも中級中位ドロップでしゅ!? とんでもない、とんでもないのでしゅ!」
それまで傍観に徹していたアルストリアさんも、新しい装備を愛でていたシレイアさんも、出てきた装備に驚きどよめきます。
「これなら今売れるぞ。俺たちは使わないし。な、ハンナ?」
「えっと、うん。これって確かバフの性能に補正が掛かるやつだから、私は使えないしね」
「ええ!? ほ、本当にいいの? だって〈金箱〉産よ? しかも中級中位のって、それに2つも!」
「ミーア先輩がここまで取り乱すの、初めて見たかもしれません」
「そりゃうろたえもしちゃうわよ! というかハンナちゃんはなんでそんなに冷静なの? これはとんでもない装備なのよ!? お値段も考えて!」
「え、えっと……」
そう言われてみて、私はこの装備がどれだけの価値があるのかを改めて思い起こします。
多分1つだけでも8桁の値段が付くことは間違いないでしょう。中級〈金箱〉産装備ですし……。
……あ、あれ? わ、私もしかして、すごく感覚が麻痺しています?
「ああ~。なんだかわかったわ。ハンナちゃんってもしかしなくても〈エデン〉にすっごい影響されてるよ」
「やっぱり、そうですよね……」
思ったとおり、ミーア先輩にも言われてしまいました。〈エデン〉では正直言って〈金箱〉産はそれほど珍しくはありません。
いえ、確かに、本当は〈金箱〉産はとても珍しく、ドロップする確率は低く、中々手に入らない物なのですが、〈エデン〉だとそれをもう少し、いえ少ないどころではなく、確率を上昇させる手段とボス周回があるので普通より断然手に入りやすいのです。秘密ですが。
その反応の違いがここに来ているのでしょう。
「はぁぁ。心臓に悪いわ。私、もっとマイルドなものが出てくると思っていたのよ? 普通この状況で〈金箱〉産なんて出さないわよ。しかも2つも、――しかも2つも!!」
そう胸を押さえたミーア先輩がため息を付きながら言いました。2回言ったのはなぜでしょう?
でも確かに、わかりますよ。いろんな物が高くインフレしている今、〈金箱〉産なんて売ったらとんでもない値段がつくのは間違いありません。
そのため、ミーア先輩は出せるのは頑張っても〈銀箱〉産クラスかな? と本気で思っていたのでしょう。
それが中級中位の〈金箱〉産だったものだからおったまげたようです。
「この2つはレアボスの〈バトルウルフ(第四形態)〉を倒したときに出た〈金箱〉に入っていた装備だ。同じ宝箱に2つ入っていたから等級は一つ落ちるけどな。それでも中級中位級装備であることは間違いない」
「もう、どこからツッコめばいいやら」
ミーア先輩が頭を手で押さえて苦悩しています。
レアボスからドロップした装備は1段階上の装備になりますが、同じ宝箱に2つ以上装備が入っていた場合、等級は通常の品となります。
なので何も問題ないと思うのですが、ミーア先輩は一段上のボス、レアボスを仕留めた報酬を普通に手放す事に、心底理解が追いつかないという表情をしていました。
後で知ったのですが、レアボスは一種のイレギュラー。大体が死闘クラスの戦闘になるらしく、そこでドロップしたものは大概パーティの記念にして売られることは無いのだそうです。へ~……ゼフィルス君は……何というかゼフィルス君ですからね。仕方ないですね。
「んん。よし、諦めよう。そういうものだと思うことにするよ」
あ、ミーア先輩が思考を放棄しました。私も放棄しますよ。二人一緒なら怖くはありません!
「それで、性能を見させてもらってもいいのかな?」
「もちろんだ。気に入ったなら買ってくれ」
「あーい。どれどれ~、……うわぁ」
自分の〈解るクン〉を取り出して『鑑定』しだしたミーア先輩がその性能を見て、ちょっと引きました。
私も見てみます。
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・頭装備 〈コック帽子〉
〈防御力0、魔防力0〉
〈『焼き料理補正LV6』『焼きの見極眼LV7』『食材観察眼LV3』〉
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――――――――――
・体装備 〈純白のエプロン〉
〈防御力10、魔防力10〉
〈『揚げ料理補正LV6』『煮込み料理補正LV6』『煮込み時間短縮LV8』〉
――――――――――
「「「うわぁ……」」」
ミーア先輩以外の二人からも「うわぁ」が出ました。
なんというか、スキルが圧倒的です。
普通スキルというものは一つ着けば上等で、二つ着けばかなりの希少なのです。
それが三つも付いています、両方とも。はい、激レア装備です。
「す、スキルも立派ね……」
「ミーア先輩、声が震えていますよ」
スキルは6つ、LVもほぼ6以上。さすが〈金箱〉産。
「これ、レアボスクラスはありますわよ?」
「普通なら〈金箱〉産でもスキルは2つ、なのでしゅ」
「ま、これは大当たりの分類だからな。故にただ売るのは勿体無くて残してたんだが、ハンナの友達で、先輩で、仲間だって言うなら否はない」
「し、信頼が重すぎてどうにかなりそう……。とんでもない縁もあったものね……」
ミーア先輩の心臓の音がここまで聞こえてくるようです、いえドッキドキ聞こえます。
普通の生産職はダンジョンに行きません。そのためドロップ品、特に激レアを手に入れられる機会はそう多くありません。縁やコネが必要になります。
学園はそれを見越してなにかしらの賞品や交換品に激レア装備を用意してくれたりしますが、それだって手に入れられる人は一握りらしいです。
こんな恵まれた機会は滅多にありません。
「気に入ってもらえたようでよかったよ。あと安心しろって。安価とは行かないが、ちゃんとインフレ前の通常の値段で売るから」
「そ、そう? それなら多少は気がまぎれるかな。そ、それでお値段は?」
「ほい、これ」
ゼフィルス君がミーア先輩を安心させるためお値段を提示しました。
やっぱり、ゼロの数が多いです。
「むむむ……。さ、さすが中級中位ダンジョン〈金箱〉産の激レア装備……。でもこれならあれらを売ればなんとか。でもあれは……、いえ踏ん張りどころよ私、ここで逃したらもう二度とこんな良装備ゲットできないかもしれないわ。これまで集めに集めた器具を売ってでも、でもやっぱり勿体無い……。ギルドで何とかお金を工面してもらえるよう交渉してみるしかないわね。幸い例の騒動を解決したことで学園から貰ったあれがあるわ。なら――」
ミーア先輩が一人思考の海にダイブしました。
私たちはこそこそおしゃべりをしながら浮上してくるのを待ちます。
「やっぱりお値段高かったかな??」
「うん。まあ、そりゃね? ゼフィルス君も金銭感覚麻痺しているからね?」
「ですが良心価格ですわ。今のインフレした市場ではこの三倍で売られても不思議ではありませんもの」
「さ、三倍!? 中級、お値段、しゅごい、しゅごい……」
私の感覚が麻痺しているのは間違いなくゼフィルス君のせいで間違いはありません。
また、さすがのお値段ですが、これでも良心価格だとアルストリアさんは言います。
シレイアさんはその金額にトリップしてしまいました。
「き、決まったわ……」
「お。それでどうする。どっち買うんだ?」
何とか息も絶え絶えでしたがミーア先輩が浮上してきたので、ゼフィルス君が問います。
一つでもとてもお高い装備です。ゼフィルス君は最初から二つとも買えるとは思っていなかったようで、どちらを買うのかとたずねていました。
するとミーア先輩が力の入らない声で答えます。
「ふ、二つとも、ください。でもお金は少しだけ待って、分割させてください」
「――おう。もちろんいいぞ」
やっぱりゼフィルス君は優しいです。




