#065 2度目の採寸。装備ってお高いです……。
「マリー先輩、いらっしゃいますか?」
「いるで~」
独特な訛り口調で店の奥から出てきたのは、私と同じくらいの身長の二年生、マリー先輩です。
いつもしているツインテールがなんとも可愛らしいです。
今日私が訪ねてきたのはC道の一角にある〈ワッペンシールステッカー〉ギルドです。
ここは〈エデン〉が大変お世話になっているギルドで、たくさんの素材やドロップ品を高値で買い取ってもらっている他、防具関係も大体ここで購入させて貰っています。
ただ、ちょっとゼフィルス君とマリー先輩が仲良すぎるのが少し不安なのですが。
いえ、ゼフィルス君は誰とでも仲良くなっちゃうんですけどね。
マリー先輩は高位職ですし、とてもお世話になっています。私と比べられちゃうと、負けちゃうかもしれません。そんなことをご本人の前で言えば無の表情で色々訴えられるので言えませんが……。
「ハンナはんやん。ということは、例のアレのことかいな? 兄さんから話は聞いてるで」
マリー先輩の言う兄さんとはゼフィルス君のことです。早速ゼフィルス君が話を通してくれたみたいです。
「はい。装備を更新したくて、その、この〈アーリクイーン〉と同じ感じの服装備でお願いしたいのですが」
「にひひ、任せや。どんな要望にもお応えする、それが〈ワッペンシールステッカー〉や。んじゃ、あれから二ヶ月以上経ってるし、また採寸しとこっか」
マリー先輩が手でおいでおいでするので店の奥へおじゃまします。
途中で立ったまま寝ている先輩にマリー先輩が店番を頼んでいましたが、大丈夫なんでしょうか? 少し心配です。
「大丈夫や。あれはまだ本気を出していないだけや」
「ほへぇ」
私の心配な気持ちが伝わったのでしょうか、マリー先輩が答えてくれました。
意味はよく分かりませんでしたが、大丈夫というなら大丈夫なんでしょう(?)。
それからいつもお邪魔している一室に案内されて採寸します。
今は6月下旬。前回は4月の中旬頃採寸したので二ヶ月以上経っています。
私は成長期。きっと身長だって高くなっているはず。
期待を込めて採寸を受け入れます。
そして採寸を終えたマリー先輩は、なんだか眼が死んでいました。
「…………なあハンナはん、なんでここだけ大きくなっとるんや?」
「えっと、そんな事を言われても……。私だって身長が欲しかったんです」
「……ままならんもんやな」
結局、ほとんどサイズは変わっていませんでした。ですが、胸だけは1cm大きくなっていたみたいです。それは、その、嬉しかったです。
マリー先輩は自分の胸をペタペタ触って視線を向けてきていましたが、私にはどうすることも出来ません。
「なあ、ハンナはん、なんか秘訣とかあったら教えてくれへんか? 割り引くで?」
「そう言われましても、私にもこれと言って何かしていることは無くてですね」
マリー先輩が明らかな越権行為を仄めかしている気がしますが、私にも身に覚えがないのでなんとも言えません。
とりあえず、この話からは離れた方がいい気がします。
「あの、それよりも防具についてなのですが、HPと防御力を中心に上げてくれませんか? スキルは二の次で良いので」
「ふう。そやな。――兄さんからもその辺聞いたわ。なかなか尖った性能なんやけど、ハンナはんがどんなダンジョン攻略しているのかとても気になるわ」
マリー先輩が私の要望や、ゼフィルス君からの注文などをメモに纏めて私に確認してきます。
「こんな感じでええやろか? 素材は週末に届くらしい〈バトルウルフ(第三形態)〉と一部〈バトルウルフ(第四形態)〉で製作。レシピはこの3種類の中から選んでや。残りはこっちで調整するわ」
いくつかのメモを受け取って悩みます。
このレシピは〈バトルウルフ(第三形態)〉と〈バトルウルフ(第四形態)〉の素材を使って作れる軽装装備で、1つ目はステータス系で防御力特化、2つ目は平均的に能力が上がり、一部攻撃力なんかも上がるタイプ、3つ目はスキルがメインのタイプですね、防御力を犠牲にしてスキルを多く乗せています。
この中だと1つ目が良いと思います。
スキルはすでに足りていますし、ステータスを上げないと中級ダンジョンでは1撃でやられてしまいますから。
「これでお願いします」
「了解や、次は付与する能力な。『+HP』を付けるとなると、〈毛皮〉系が大量にいるねんけど、兄さんにその心配は不要やな」
「むしろレアボスの毛皮を大量に持ってくると思いますよ」
「違いないわ~」
マリー先輩はすでにゼフィルス君のことをとても理解しているみたいです。
ゼフィルス君、土日に本気で狩ってくるって言っていましたから多分とんでもない量になるはずです。マリー先輩の悲鳴が聞こえるかのようです。
「とりあえず、このレシピをベースに出来る限り全部乗せで製作。『+HP』と防御力の数値をメインにステータス特化型タイプ、そんで作製するのは、頭、体①、体②、腕の4種で良いんやな? ここまでオーダーメイドで話してもうたけど、他の防具も見せたほうがええやろか?」
「あ、そうですね。では見させてもらってもいいですか?」
「オーケーや。こっちに今作製済みのリストがあるから、選んでみてや」
マリー先輩の計らいで、一応別の防具も見せて貰うことになりました。
おそらく最初のオーダーメイドで決まりだとは思いますが、服のカタログを見るのは女の子の楽しみなのです。嬉しい申し出でした。
「うちは店に行っとるから、決まったら教えてや~」
そう言ってマリー先輩は店番に戻っていきました。
女の子の買い物は時間が掛かるものなのです。
部屋でカタログを読ませて貰っていた私ですが、それから2時間後、1つの腕装備を購入することにしたのでした。
「おおきになハンナはん。それじゃ、オーダーメイドの分は素材が届き次第作製に入るわ~」
「お願いします。マリー先輩」
結局、〈バトルウルフシリーズ〉で頭、体①、体②、腕の4種類を注文し、錬金用に腕装備を追加購入したのでした。
お値段を聞いた私は、〈学生手帳〉を落とすかと思いましたよ。
素材持ち込みにも関わらず、あのクエストの報酬の3分の1が吹き飛びました。
装備ってお高いです……。




