#051 『闇錬金』の見学。上級ホムンクルスの作製!
腰が抜けていたミーア先輩でしたが、話しているうちに回復したのか立ち上がることができました。やっと私の腕が解放されました。
「はあ、紹介するわね。この人はローダ、三年生であなたたちの先輩、職業【闇錬金術師】に就いている三年の生産職の中でもトップクラスにいる人よ。そして――、〈生徒会〉のメンバーの1人でもあるわ」
「「「ええっ!?」」」
ミーア先輩のとんでもない発言に私たちの心は一つになりました。
――【闇錬金術師】。
邪悪な物、闇系の物を作るのに特化した職業だってゼフィルス君が言っていました。
その特性上、【錬金術師】の骨子とも言われている回復ポーションの類を作ることが出来ないデメリットを抱えています。その代わり毒物とかバッドポーションなんかを作るのが得意です。何かデメリットがある代わりに上昇値が高いブーストポーションなんかも作れます。
また、通常の【錬金術師】では作れない、【闇の魔女】に至る邪悪なアイテムを作製することができるそうです。〈ホムンクルス〉とか〈使い魔〉なんかが有名ですね。
ですが、あまりに邪悪寄りな作品のため【闇錬金術師】に好んで就く人はほとんどいません。
それはいいです。
むしろ予想通りでした。これで【闇錬金術師】では無かった方がどうしようでしたし。むしろ光が漏れていた教室は〈錬金術課〉のエリアです。そうじゃないかとは思っていました。
私たちが驚いたのは最後の部分です。
「き、聞き間違えでしょうか? 今〈生徒会〉のメンバーと聞こえましたわ……」
アルストリアさんが自分の耳を疑い始めました。
私も同じだったので、私の耳だけがおかしい訳ではなかったようです。
「そうよ。〈生徒会〉の幽霊メンバー、ほとんど席だけ置いているメンバーよ」
「はっはっは、ごめんごめん。僕の活動って夜が主だから。日中って溶けちゃうんだよ」
「人間は溶けないわよ!」
ミーア先輩が珍しく激しくツッコミます。
あまり見ない光景なので新鮮です。でも、夏は暑いので溶けるというのは分かる気がしました。
でもローダ先輩? は春から来ていなかったように思います。
「ねえローダ、今〈生徒会〉が人数不足でピンチなのよ。戻ってきて?」
「それは無理だ。ようやく上級素材が安定してきたんだ。これなら生み出せる、上級の〈ホムンクルス〉が!」
「はあ」
ローダ先輩がカッと目を見開き腕を広げて思いを吐露しました。
ミーア先輩は断られるのは分かっていたのでしょう、ため息を吐いただけでした。
確かに、〈生徒会〉でも役職に就いていない方は基本的に〈生徒会〉に出動する義務はありません。ですが、非常時で頼まれたときは参加するよう決まっていたはずです。
断る場合はそれなりの理由が必要なはずでした。〈生徒会〉は内申点が非常に高いので、その辺怠惰は許されません。
ということはです。
今ローダ先輩がしている錬金は〈生徒会〉の作業を断っても問題ないほど重要な仕事ということになります。
ちょっと気になってきました。
「ようこそ僕の錬金工房へ。歓迎するよ」
やっぱりあの光っていた教室で作業をしていたみたいです。
ですが、ここって……、
「ここは、前に使わせていただきました三年生の錬金工房ですよね?」
「ハンナちゃん。気にしたら負けよ。ここにはローダしかいないから、今だけは彼女だけの錬金工房ということにしておいて」
私の疑問をくみ取ったミーア先輩が頭が痛そうにして答えてくれます。
よく分かりませんが、ミーア先輩がそう言うならそういうことにしておきます。
「『三年生の錬金工房で夜な夜な怪しい作業をする学生がいる』、あの陳情が言っていたのは、ローダ先輩でしたのね……」
アルストリアさんの言葉で私も思い出しました。
今日陳情の書類にまぎれていたものです。原因が分かりました。
間違いないでしょう。
錬金工房を見て、私は確信しました。
「ひう! や、闇……、闇ッ気が強いでしゅ!」
実はまだ私の左腕に抱きついたままだったシレイアさんがそれを見てビビリます。
中は、いったいなんの闇の儀式をする場所なのでしょうか?
夜で日の光が入ってこないのにもかかわらず、黒いカーテンのようなもので部屋は覆われ、中央には緑色に光る、怪しいロウソクがいくつも丸テーブルに置いてありました。
自然と注目は明るい丸テーブルに注がれます。
丸テーブルの中央には人の頭ほどもある大きな水晶。藍色のテーブルクロス、同色の座布団の上に置かれたそれがなんとなく不気味に見えます。あれはなんでしょう? 占いでしょうか? それにしては禍々しいような。
私たちがそれに集中しているとローダ先輩はただ1人脇にズレ、別の場所へ歩き出していました。
「待たせたね~〈アダンの棒〉よ~。そろそろいい感じに熟したみたいだから再開しようか」
そう言いながら近づいていったローダ先輩の先にあったのは、巨大錬金釜。
いえ、本当に巨大錬金釜でしょうか? なんだかカスタマイズされています。私が前にここで使わせてもらった巨大錬金釜と、形は同じですが、色は漆黒で、なんだか不気味に輝くラメ入りがなされて、脇には2つの杭が立っています。杭は私の身長くらいあって先が緑に燃えています。
そのせいでまったく別物に見えます。
そして中身です。
はわわわ、何で淡く緑色に光り、ぐつぐつ泡が立っているのでしょう?
すっごく怪しい料理?
しかもそれを混ぜるための〈錬金棒〉、ローダ先輩が〈アダンの棒〉と言っているそれは鬼の腕に見えます。手の部分でかき混ぜちゃっていますローダ先輩。
す、すっごく怪しく見えます。とんでもない危険なものを作ろうとしている気がしてなりません。
しかも―――、
「ケケケケケケケ―――――ッ!!」
「「ひぅ!!」」
また聞こえたあの邪悪な声にシレイアさんとミーア先輩が震え上がりました。シレイアさんが目を瞑って抱きつき、ミーア先輩はフリーのアルストリアさんに抱きつきます。
「あ、あれが発信源だったのですね……」
アルストリアさんの言葉に私も納得します。
それはローダ先輩がかき混ぜるために使っている〈アダンの棒〉の先に刺さっていた頭蓋骨。そこから発せられた声だったみたいです。
「ちょっとローダ、そんな不気味な〈錬金棒〉使わないでよ!?」
「失礼だね。この〈アダンの棒〉は『闇錬金』の成功率を飛躍的に高める激レアアイテムだというのに」
あ、あんな激レアアイテムがあるんですね。効果は、ちょっとすごいですね。普通の『錬金』の成功率を高める物だったら欲しいと思います。
でもあの見た目は遠慮したいです。もし私がゲットしたらすぐマリー先輩のところに持っていきましょう。
「もちろんベースの効果はそのままにカスタマイズして闇っぽく作ったんだよ。どうだいこの頭蓋骨? 可愛いだろ?」
魔改造だったみたいです。
そりゃそうです。あんな見た目では誰も使いませんよね。
でも可愛いの感性は、ちょっと私には難しかったです。
「それで、何を作っているの?」
「くくく、これはね。件の上級ダンジョンで採集された〈悪魔のフォーク〉という尻尾素材を〈ベース〉に〈ノーマルな髪〉、〈メリーさんの毛皮〉、〈闇の水〉を使い上級の〈ホムンクルス〉を作っているところなのだよ。偶然発見された〈ホムンクルス(闇)〉のレシピ。ここまでなんども失敗に失敗を重ねたけど、今回はいい感じなんだ。ほら~まざれ~まざれ~」
「ケケケケケケケ―――――ッ!!」
やっぱり〈ホムンクルス〉を作っているみたいです。しかも上級です。すごいです。
私は詳しくは知りませんが、〈ホムンクルス〉は使役系アイテムの一つらしいです。
「もうすぐ完成だ! ほら、だんだんと光が強くなってきた!」
「そ、そう? なんかその光かた、怪しくない?」
「ミーア先輩、もうすでに怪しくない部分を見つけるほうが難しいですわ」
「そ、それもそうね。わ、私たちは少し離れたところで見ているわね~」
ローダ先輩がテンション高めで笑いを強調しながらグルグルかき混ぜます。
その都度、明るい点滅を繰り返す巨大錬金釜にミーア先輩は戦きながら、私たちと共に工房の端に寄りました。
「でも、なんだかカッコイイでしゅね」
「ええ。確かに上級と言えば現在〈キングアブソリュート〉のみが攻略中と聞きますわ。上級素材を手に入れるとすれば、おそらくそこからでしょう。この錬金が成功すればきっと彼らの攻略の助けになりますわ」
「ああ見えてローダは成績優秀な高位職だからね。例の上級素材とか、優先的に買い取れるルートも確保しているみたい」
「上級ダンジョン素材ですか~」
そう言ってシレイアとアルストリアさんは見守るみたいです。
ちなみにミーア先輩だけ複雑そうな顔です。
私も上級素材に想像力を膨らませ、かけて今はローダ先輩の闇錬金の見学のほうが大事と思い出して集中しました。
さすが、〈錬金術課〉でトップクラスに優秀と言うだけあって色々学べるところが多いです。
そうしてどんどん巨大錬金釜の光が強くなっていきます。
「ふふふ。今日は気分がいい。この世紀の大開発の場面を、観客の前で行なえるのだから。――さあ見てくれ! 活目してくれ! これが完成した上級の――ホムンクルスさ! 『闇錬金』!!」
そう言ってローダ先輩がエフェクトに光る手を巨大錬金釜の上に翳した瞬間、
――ドッカァァァァァンッ!!
という大きな爆発音と共に、巨大錬金釜が爆発しました。




