#046 〈生徒会見習い〉兼任、お手伝いします!
事の発端はSランクギルドの一つ、〈キングアブソリュート〉の上級下位ダンジョンの攻略が始まり、それに三大組織と呼ばれる、〈救護委員会〉〈秩序風紀委員会〉〈生徒会〉のメンバーも数人ずつ付いて行ったことです。
ダンジョンで戦闘不能や、その他行動不能に陥ったときに学生を救助する
〈救護委員会〉。
警備兵の目が行き届かない学園の校舎で、秩序と風紀を守る
〈秩序風紀委員会〉。
市場や生産品等、学生がダンジョンへ行くときのサポートを調整する
〈生徒会〉。
この中でも〈救護委員会〉と〈秩序風紀委員会〉は規模の大きなギルドです。
〈戦闘課〉が主に多く在籍し、卒業生なども仕事として在籍しているので屈強です。
でも〈生徒会〉だけは生産職、支援職がメインの活動なので、学園の運営するギルドの中ではかなり小規模のギルドです。他のところとは違い、卒業生のリーダーなどがいるわけではなく、直属の上司は教師ですし、サポートメインなので比較的、いえ、比較するまでもなく小さいギルドです。
今回の上級下位ダンジョン攻略、他の三大組織であれば人数的には問題ありませんが、元々人数が少なかった〈生徒会〉は、この攻略に大きく人員を持っていかれてしまい、未曾有の人材不足に陥ってしまったそうです。
そうしてやってもやっても終わらない仕事に爆発したミーア先輩が、私を助っ人に呼んで今に至った、とのことです。
「チエ先輩、新たに〈生徒会〉メンバーを補充できないのですか? それに確か、〈生徒会〉って他にもメンバーがいた気がするのですが……?」
私は疑問に思ったことを確認しました。
確か、〈生徒会〉のメンバーは全部で9人。役職のある5人の他に4人のサポートメンバーがいたはずです。
そのうち生徒会長と副会長を含む5人が出張という大変な事態ですが、全員集合しないのでしょうか?
この〈生徒会室〉にはチエ先輩とミーア先輩しかいません。
「それが、残りの2人に連絡はしたのですが、1人は自分の事で手が離せないと断られ、もう1人なんて現在どこにいるかも分からず連絡も付かない状態です」
何か複雑な事情があるみたいです。
「連絡が付く1人に関してはとある珍しい素材の供給が始まったとかでそっちの生産に注力しているみたいだよ」
ミーア先輩がチエ先輩の言葉を引き継ぎます。
どこも忙しいみたいです。
「でも、やっぱり2人しかいないのすごくキツくて。なんとかメンバー補充もしたいけどそんな暇も無くて。そこで前々から〈生徒会〉メンバー第一候補に上がっていて、今回白羽の矢が立ったのがハンナちゃんなんだよ!」
なんでしょう。さらっととんでもないことを言われた気がします。
「えっと。つまり最初に言っていたとおり、お手伝いを探していたということでしょうか?」
「もう一つ上げて、まずは〈生徒会員見習い〉という形で加入して、ゆくゆくは生徒会メンバーになってほしいの!」
「〈生徒会〉のメンバー……」
かなり話があっちこっち行っていた気もしますが、つまりはそういうことみたいです。
――〈生徒会〉。
生産職でも優秀な一握りの学生しか所属できないギルドです。
とっても優秀な職人を輩出するため、「本校の〈生徒会〉に所属していた」というだけで実力の証明になるとも言われています。
就職にも有利で、というか逆にスカウトが掛かるレベルですね。
「ここ働かせてください」ではなく「是非うちで働いてください」とお願いされるのが〈生徒会〉所属の人材です。
つまりはとっても名誉なことです。
所属すればエリート街道まっしぐら。人生の勝ち組が決定している。そんな組織。
〈生徒会〉に所属を誘われて、別にデメリットはありません。
むしろ、とてもありがたいお話でもあります。
それに、お世話になったミーア先輩やチエ先輩も困っています。
どうしましょう。助けてあげたいとも思います。でもゼフィルス君はギルドを掛け持ちすることを許してくれるでしょうか?
あ、なんだか想像したら普通にいいよって許可しそうな気がします。
でもゼフィルス君には迷惑を掛けたくはありません。
私が葛藤しているとチエ先輩が助け舟を出してくれました。
「そこまで難しいことじゃないですよ。規則によって〈生徒会〉の手伝いには見習いの肩書きがいるだけですから。見習いなので終わったらいつでも退会できますし、〈生徒会〉に正式に加入したときのメリット、デメリットもおいおい把握していけばいいです」
「えー、私はハンナちゃんと〈生徒会〉やりたいよチエちゃん」
「チエちゃんではありません。先輩と呼びなさい。それにミーア、あなたさっきから全然書類が片付いていないじゃないの。また終わらなくても手伝わないわよ」
「ええ! チエちゃんそれは殺生だよー」
チエ先輩に突き放されてブワッと涙が溢れるミーア先輩です。その姿に少し前に〈総商会〉で凛々しかった姿はどこにもありませんでした。でもそれを見てホッとするのはなぜでしょう?
ミーア先輩が言ってくれたことは嬉しいですが、私は〈エデン〉でやるべき事があります。
なので、まだ〈生徒会〉へ加入はできません。でも手伝うことは出来ます。
ミーア先輩にはいつもお世話になっていますし、裏技を教えてくださった恩もあります。それにミーア先輩のギルド〈味とバフの深みを求めて〉には、私のギルド〈エデン〉が祝賀会するときはいつも腕によりをかけた豪勢な料理を振る舞ってもらっています。
それを抜きにしてもミーア先輩は友達です。友達が困っていたら助けてあげたいです。
「〈生徒会〉に加入するのはわからないですが、お手伝いするくらいなら構わないですよ。任せてください」
「はう。ハンナちゃん超天使!」
「ありがとうハンナさん。とても助かります。ではこの見習いの腕章をお渡ししますね。これでとりあえずハンナさんは〈生徒会〉の一員となります」
「あ、はい。受け取りました!」
チエ先輩からは、あの〈総商会〉の時にミーア先輩が見せていた腕章が手渡されました。
これが〈生徒会〉のギルドエンブレム。
これは、〈空間収納鞄〉を模しているのでしょうか? 確かに、道具を扱う〈生徒会〉らしいエンブレムです。
そしてしっかり〈見習い〉の文字があります。
私はササッと装着すると、お二人が格闘している書類を少し貰い、ミーア先輩に教えてもらいながら夜まで作業したのでした。
でもこのお仕事。結構辛いです。
やってもやってもなくならない書類は目がくらくらしました。
そんな作業をずっとやっていると、思いました。
これは、私が加わったくらいじゃダメだと。
もっと人数が要ると思います。
「いやぁ。ハンナちゃんに手伝ってもらって助かったよ」
「いえ、それほどでも。……でも、ちっともなくなりませんね。むしろ増えているような?」
「減ることは減りましたよ。ですが向こうの部屋にまだまだあるのです」
「ひえ!?」
チエ先輩が無表情にとんでもないことを言います。
まだまだある、とおっしゃいました。
ミーア先輩が情けない悲鳴を上げます。
私も、手伝うと言ったことを少し後悔しそうになりました。
これは、多分私だけではダメですね。
もっと人数を増やさないと。
ということで、私は翌日、友達に応援を頼むことにしました。




