#038 突撃お昼ご飯! ミーア先輩来ちゃいました!?
足りません。まだまだ足りません……。
目標は1万個です。それくらいのインパクトがないといけません。
数百個や千個くらいだとまだまだインパクトが足りません。
数は力です。みなさんが〈ハイポーション〉が足りないと思っている不安を払拭し、これからは欲しい数だけ手に入るんだ、と思うようなインパクトが大事です。
と、チエ先輩とメリーナ先輩は言っていました。
そのため、〈総商会〉の方に納品するときは1万個でないといけません。
私たち3人は頑張って作っていきます。でも足りません。
特に〈魔石(中)〉の作製がネックで、2回も『錬金』をしなくてはいけない関係上クールタイムが引っかかります。
『錬金』もスキルなので連続使用はできません。そんなに待つというほどのことでもないのですが、やはり少し待つ時間があるというのが作業を遅れさせている気がします。
どうにかスピードアップできる方法はないでしょうか? ゼフィルス君に聞けばいいアイデアを出してはくれそうですが、今ゼフィルス君はダンジョンにいるはずなのでチャットを送るのは迷惑ですよね。
〈魔石(中)〉を巨大錬金釜へじゃらじゃらと入れつつ私は何かないかと考えます。
そんな時でした、錬金部屋の扉がノックもなくいきなり開いたのです。
ビックリしました。ここは確か、今の利用はできないと、一般学生を立ち入り禁止にするプラカードが外にかけられていたはずですが。
そう思った私は、部屋に入ってきた人を見て納得しました。
「やほー。お待たせお待たせみんな捗ってるー?」
「ミーア先輩!?」
ミーア先輩来ちゃいました!?
そこに居たのは片手で扉を開いた状態で固定しながら入ってくるミーア先輩でした。
私は思わず聞いてしまいます。
「〈生徒会〉の活動はどうしたのですか?」
「やめて! 言わないでハンナちゃん!? またあの地獄の光景を思い出しちゃう!」
両手で自身を抱きしめるようにして目をバッテンにするミーア先輩。
よほどの事があったのかもしれません。ちょっと震えています。でもすぐに立ち直りました。
「そんなことよりもみんなお昼は食べているのかな? 私が手作り弁当を持ってきたよ!」
そんなこと、と流していいことなのかはわかりませんが、ミーア先輩がショルダーバッグ型の〈空間収納鞄〉から取り出したのは、いい匂いをさせたバスケットでした。お弁当みたいです。
瞬間お腹が「く~」と小さく鳴きました。でも大丈夫です。私のお腹は自己主張が小さい優秀な方なので周りには聞こえないのです。
「ぐ~」
「はう!?」
しかし、思いのほか大きな腹の音が錬金部屋に鳴り響き、私はとっさにお腹に両手を置きました。
まさかそんな。ミーア先輩の料理の香りに私のお腹が大きな自己主張を!?
「はわわ、お腹がなってしまいました!」
と思ったらシレイアさんが真っ赤になって悲鳴を上げていました。どうやら自己主張の高いお腹の持ち主はシレイアさんだったようです。私ではなくホッと息を吐いたのは内緒です。
「よかった。全員分作ってきちゃたからみんなで食べよう? 自信作なんだよ」
「そうですわね。もうお昼ですわ。みなさん一旦休憩にいたしましょう?」
「はい。賛成です」
「です!」
ということで、一旦手を止めてお弁当タイムになりました。
今回ミーア先輩が作ってきてくれたのはグラタンとミートがマッチしたとってもいい香りのするクリーミートドリアでした。
「「「いただきまーす」」」
「はい、召し上がれ」
「パク。ん~! 美味しいですわ!」
アルストリアさんが感激したというキラキラした目をして頬に手を当てて言います。
とても美味しそうに食べるアルストリアさんに、こちらもお腹が鳴ってしまいそうです。
シレイアさんと私も食べます。
「美味ひいでひゅ! ――ゴクンッ、美味しいです!」
「本当! これキノコの風味が効いていてすっごく美味しいですね!」
ミーア先輩は大きなお皿に乗ったドリアを三等分にして、まずその一等分を私たちに分けてくれました。それはとてもざまざまなキノコにベシャメルソースが絡み、上には焦げ目のついたチーズが、そして底にはあっつあっつのお米があり、とても食欲がそそりました。
食べてみると本当にアッツアッツでクリーミーで、幸せな味がしました。
「にしし、それはよかった。じゃあ今度はこっち側ね」
ミーア先輩がクルリと大きな皿を回します。三等分にされた二つ目です。
ここにはなんとお肉が入っていました。これは牛です。
その代わりキノコは入っておらず、言うなればビーフドリアでしょうか? 美味しすぎますよ!
「そして最後はお魚ね」
最後の三つ目はお魚のメインのシーフードドリアでした。
白身魚で何かは分かりませんが、骨抜きもしっかりされていてとても油の乗りもよく、柔らかくてこれもとっても美味しいです。
気がつけば私たちはあれだけあったドリアを全て食べ終えていました。
ミーア先輩は【調理師】系の高位職、【高位料理人】です。
さすがは料理の専門家です、素晴らしいお弁当でした。
これはギルドのみんなにも食べてほしいですね。今度ミーア先輩のギルドに頼んでみましょう。
「「「ごちそうさまでした」」」
「はい。お粗末様。それで三人とも、バフは乗ってる?」
「「「?」」」
一瞬何を言われたのか分からなくて首を傾げましたが、すぐにアルストリアさんが気がつきました。
「あ、今のは料理アイテムでしたのね。ハンナさん、シレイアさん、ご自分のステータスをお読みくださいませ」
そう言われて私も思い出します。
【調理師】系の生産職が作る料理は2種類あって、普通の料理と料理アイテムがあります。
料理アイテムのほうはアイテムなので文字通りアイテム効果が付きます。料理アイテムですとほとんどがバフで、基本的に数分から数時間もの間、継続してバフが付くのだとゼフィルス君から聞きました。
自分のステータスを見ようと念じると、自分にしか見えないホログラムと呼ばれる画面が出てきました。
そこには〈4時間・スキル速度10%上昇〉のバフと〈4時間・MP8%消費軽減〉のバフが付いています。
これが今の食べた料理アイテムの効果みたいです。凄いですね。本当にバフが付いています。しかも効果がすごい! さすがはミーア先輩です!
それに私は料理は得意ですが、【調理師】ではないので料理アイテムは作れませんから、純粋に羨ましいです。
「どう? どう? これなら生産作業も上がるでしょ?」
ミーア先輩がドヤ顔で褒めて褒めてという顔をしますが、うーん、多分これではまだダメだと思います。
「すみませんミーア先輩。お気持ちはとても嬉しいのですが、今最大のネックはクールタイムなんです。作業自体はとても進んでいるのですが、スキルの使用回数で引っかかっている感じなんです」
私は拙いながらもミーア先輩に伝えました。
今とっても苦労しているのは〈魔石(中)〉の錬金作業で、『錬金』のクールタイムと一度に作れる個数がネックなのだと。
すると、ミーア先輩がキョトンとしました。
そして次にニヤリとした怪しい笑顔になります。マリー先輩みたいな商人顔です。
そのままミーア先輩は話しだします。
「そうか、まだ1年生だし知らないよね。実はそれにはね、裏技があるんだよ」
「え? 裏技、ですか?」
「そうそう、一度のスキルで大量に作れちゃう、ウ・ラ・ワ・ザ。まあ、あまり腕がよろしくないと全部失敗してしまうんだけどね」
なんということでしょう。そんな裏技があるだなんて知りませんでした。ゼフィルス君なら知っていそうです。もー教えてくれてもよかったのに。
「ミーア先輩、その方法、教えてください」
「にゃふふ、もちろんハンナちゃんの頼みは聞いてあげるよ! でも今度は見捨てないでね? お姉さんとの約束ね?」
もしかしなくてもミーア先輩はそれが狙いですね?
本当に〈生徒会室〉で何があったのでしょう?
「えっと、一回だけなら」
「ぐ、なかなかやるわねハンナちゃん。まあそれでいいでしょう」
ゼフィルス君たちに日夜鍛えられていますから。なんだか私もゼフィルス君に似てきたのでしょうか?
でも教えてもらえることになったので問題ないでしょう。
そうして、またニヤリとしたミーア先輩は教えてくれました。
一度のスキル使用で複数の効果が得られる裏技を。
「ふふふ、それはね、〈錬金セット〉をたくさん使えばいいんだよ」
それは、かなりの力技でした。




