#166 ハンナ弟子入り!初の疑似生命体はスライム?
土曜日なので本日3話投稿!
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レシピの名は――〈鋼鉄ゴーレム作製レシピ〉。
そう、その名の通りゴーレムを作るためのレシピです。
ゴーレムって作れるの? と思うかもしれませんが、作れます。
ゼフィルス君曰く、ゴーレムとはアイテムなのだとか。
そのため【魔道具師】系や【錬金術師】系はゴーレムを作製出来るようなのです。
ですが、今までレシピが無くまったく手を付けることが出来なかった分野でもあります。
Bランク戦では文字通りBランクギルドの人たちと対戦しなくてはなりません。
Bランクギルドと言ったらあれですよ。僅か990人までしかその席が無いという、在校生2万人を超えるマンモス校の5%未満しか席に就くことが出来ないエリートさんたちです。
わ、私がいくら頑張ったところですぐに退場して終わってしまいます!
なのでゴーレムです。私の代わりにゴーレムに戦ってもらいます!
これならなんとかなる気がするんです。アイテム作りなら自信があります!
しかしです。困ったことに私はゴーレム作りには初挑戦の初心者です。
さすがに初めての挑戦でエリートさんを超えるゴーレムが作れるとは私は思っていません。
練度も低く、まともなゴーレムはできないかもしれません。
時間が足りないかも。
ですが、私には心強い先輩がいます!
教えてもらいましょう!
「それで私のところに来たのだねハンナ君」
「はい! ローダ先輩、どうかご教授の程、お願いします!」
「ははは。そう硬くならないでくれたまえ。もちろん可愛い後輩君の頼みだ。ゴーレムの作製くらいいくらでも教えてあげるよ」
「あ、ありがとうございます!」
そう、私が頼ったのは下級高位職、【闇錬金術師】に就くローダ先輩でした。
ローダ先輩が就いている【闇錬金術師】はゴーレムのような疑似生命体アイテムを作るのに向いた職業で、ローダ先輩は今まで何体ものゴーレムを作った経験があるんだそうです。
この学園でローダ先輩以上の適任者はいません。
「まあ1人も2人も変わらないしな。じゃあちょっと工房に行ってみようか?」
「1人でも2人でも?」
なんとなくローダ先輩その言葉に疑問を持ちつつも、ローダ先輩なら弟子の1人や2人は持っているものだと自己解決しました。
ローダ先輩に付いていき、〈生徒会〉が保有する生産職専用の工房へと入ります。
〈生徒会〉が司るのは生産職。そのためこうして〈生徒会〉専用の工房を自由に使って良い特典が与えられています。当然〈エデン〉のギルドハウスにあるのと同じ〈最上級錬金工房〉です。
ちなみに初めてローダ先輩と出会った時に使っていた部屋ですね。
この辺、廊下も含めてちょっとホラーっぽく感じてしまうのはローダ先輩のせいだと思います。
そうして工房に入ると、先客がいました。
「あれ、セルマさん?」
「あら、ハンナさんじゃない」
そこに居たのは1つ年上のクラスメイト。学園で2人目の【闇錬金術師】に就いているセルマさんでした。
〈生徒会〉メンバーではないですが、ここで何をしているのでしょう?
「ああ。適当な工房が無くてね。僕の権限でこの工房で修行をしてもらっているんだ」
「ハンナさんのおかげで無事ローダ師匠に弟子入りでき、充実した日々を過ごせています。ありがとうございますハンナさん」
「あ、いえ、どういたしまして!」
そういえばセルマさんに頼まれてローダ先輩を紹介したことがあります。
セルマさんはこの学園2人目の【闇錬金術師】。つまりは2人しか【闇錬金術師】がいないので、先達の教えを受けたいので紹介してほしいと私に相談してきたのでした。それでセルマさんをローダ先輩に紹介したのが、私です。
2人はどうやら師弟関係に落ち着いたようです。
「彼女のやる気はすごいよ。そのSP振りには僕も驚かされている。本当に必要最低限のSPしか振らずに地道にここで錬金してレベルを上げているんだ」
「全てはゼフィルスさんが示してくれた道通りよ!」
「え? あ。もしかしてお勧め育成論をもらったんですか?」
「! そうなのよ! さすがはハンナさん。〈エデン〉所属だしアレを知っているのね!」
もちろんです。
ゼフィルス君、またお宝をばらまいているみたいですね……。
シエラさんがなんて言うでしょうか? いえ、多分何も言わないのでしょう。シエラさんはゼフィルス君に甘いですから。
「じゃあハンナ君、早速始めよう。見本を見せるから向こうのスペースに行こうか」
「はい! よろしくお願いしますローダ師匠!」
「いや、ハンナ君師匠はやめてほしいな。僕は下級職だし。なんだかハンナ君にはすぐに抜かされそうだしね」
「そ、そんなことは無いと思いますが……」
セルマさんは良いみたいですが、上級職の私から師匠呼ばわりはダメみたいです。
生産人の心は難しいのです。
「じゃあ早速、簡単なところから。このスライム作製レシピを使ってやってみよう。確かハンナ君はスライムの作製が出来るんだよね?」
「ぜ、ゼフィルス君はそう言っていました」
「ははは。じゃあ、説明していこうか。錬金は大失敗を引き起こすと勝手にスライムが生まれちゃうくらいスライムとの親和性が良いんだ」
「ふむふむ」
私はローダ先輩の言葉に耳を傾けながらメモを取っていきます。
「まあその時出てくるスライムは失敗作のモンスターだけどね。今回作るのは疑似生命体。つまりはアイテムだ。まあ使い魔モドキみたいな感じかな。あと注意点、スライムのアイテムはあくまで練習用だ。ダンジョンで戦わせるとすぐ負けちゃうから注意してね」
「は、はい!」
「ではまず〈スライムゼリー〉と〈魔石〉を用意する。〈魔石〉の等級と数によって強さが変わるから、戦わせないなら小さい物1個でいい。それでまずはボディとなる水溶液を作っていこう」
そう言ってローダ先輩が取り出したのは、見覚えがありすぎるアイテム、〈スライムゼリー〉でした。
毎日ドロップするアイテムですが、なんだか正式に使うところを初めて見た気すらしました。不思議ですね。
「このスライムゼリーは今すごく安くてね。昔はもっと高かったんだが、ここ最近は在庫が飽和しているとかで安く手に入るので重宝しているよ」
「へ、へ~」
これも聞き覚えがあるような気がする話題でしたが、多分気のせいでしょう。
「この〈スライムゼリー〉と〈魔石〉はスライムの核となるから、まずはボディを作ってその後に内部に植え込むんだ。まずは透き通った〈蒸留水〉に〈ハバートカゲの酸〉と〈カタクリの根〉を加えて――」
はい、ここからが本番です。本番ですよ。
説明しながらローダ先輩が丁寧に、そして一定の流速でかき混ぜていきます。
さすがは生産隊長の代理を任せられる方です。その混ぜ方には一瞬の緩みもありませんでした。
「ここに〈スライムゼリー〉と〈魔石〉を投下してスキルを発動すると――『闇錬金』!」
ローダ先輩が仕上げに取りかかりました。
スキルが発動すると黒い闇っぽいものが錬金釜に纏わり付いてピカッとは光らず逆にググンと何度か黒くなりました。
「闇に染まったようだね。完成だ」
あ、これ完成なんですね。
出来上がった錬金釜を覗いてみると。
そこには手乗りサイズほどの小さなスライムが入っていたのでした。
直後に「打っ叩け」という衝動が私を襲いました。もし私が今何か棒状の物を持っていたら、このスライムは光に返っていたかもしれません。
せ、セーフ。




