#156 素材にフラフラするのは生産職の性なんです!
土曜日なので本日3話投稿!
まだ読んでいない方は2回バック!
ローダ先輩たちに付いて行った場所は一般向けの市場でした。
実はこの〈迷宮学園・本校〉には食材ダンジョンなどの資源を生み出す専門のダンジョンが存在しまして、そこは学生だけでは無く一般の会社も潜っています。
そこで取った素材や資源はこの一般向けの市場で売り買いされます。
今も競りが盛んに行なわれていますね。
さらに市場の周りには学生が出しているお店では無い、本物の商人が出しているお店がずらりと並んでいたりします。
学園祭に便乗して、〈迷宮学園・本校〉に集まるお客様を相手にここで商売をしています。
商魂たくましいです。
ただ、もちろんルールもあります。
それが学生の邪魔をしないこと。
もっと言えば学園祭の邪魔をしないこと。
やり過ぎて学園祭のお客様を必要以上に取ったらダメですよ、ということで、学園から離れたここでひっそりとやっているというわけですね。
とはいえひっそり、というには大規模なのですが。
「おうおう、今年はいつも以上にすんごいのじゃ」
「そうなのですか?」
フラーラ先輩が呟いた言葉にシレイアさんが聞いています。
「うむ。学園祭の今年の集客も上向きという予想が出ていたじゃろ? それは商人にも言えることじゃ。去年や一昨年より多くの商人が来とるようじゃの」
「基本的に食に関しての屋台は無いよ。そっちは学生がやっている学園祭に行ってねって感じだね。装飾加工されたものをメインに売っているみたい」
最上級生組のフラーラ先輩とローダ先輩が学園祭初参加組の私たちに教えてくれます。
「ほれ、あれを見よ。珍しい素材が売っとるのじゃ。あれは外の迷宮、〈陥没の友情ダンジョン〉で取れる素材たちじゃ。学園のダンジョンでは採れん素材じゃな」
「ほへぇ」
「ハンナさん、口がほへっていますわよ」
い、いけません。私はゼフィルス君がたまにするようにキリッとしました。
口を半開きにして歩くのは恥ずかしいですからね。
「む! あれは闇が強い気がする!」
「お? 糸売りか? どんなもんがあるんじゃ?」
そうして市場に入り込んだ時、即行でローダ先輩が離脱。
フラーラ先輩も興味のあるお店にフラフラ寄っていってしまいました。
「あ、あら? お二人とも、どこに行かれるんですの!?」
「うーん、食材はもっと奥かな?」
「見たことも無い素材がいっぱいでしゅ!」
「う、うん!」
アルストリアさんがなんとか舵を取ろうと頑張りましたが、ローダ先輩とフラーラ先輩はそのままフラフラ行ってしまいました。
そしてミーア先輩、シレイアさん、私も同じく至る所に目が行ってしまいます。
生産職の宿命です。
「ここは、すごいところですね」
「あ、あにょ。私、あそこ行ってみたいです。ハンナ様、付いてきてもらえませんか?」
「いいですよ~」
「あ、ちょっとシレイアさん、ハンナさん!? ちょ、お待ちになって! この人混み、はぐれちゃいますから!」
「私も行く~」
人混みがすごいです。
アルストリアさんの一言で止まった私たちは4人一緒に行動することにしました。
確かにはぐれたら合流出来そうにありません。さすがはお祭りです。
それから色々と回りました。
売っている物は全てこの学園では見かけない素材ばかり。
そりゃ商人さんも学園で採取出来るものは持ってこないよね。
へ~、外のダンジョンにはこんな素材があるんだね~。
私たちが露店の素材を見て意見を交していると、店主の女性が話し掛けてきました。
「こんにちは、ここの学生ですか?」
「あ、そうですよ~」
「学生なのです!」
この店主さんにはオススメなどを教えてもらったので素直に答えました。
外見は変わっているので問題は無いでしょう。
「いいですよね学生。みんな可愛くって愛らしくって」
「は、はあ」
「ねぇねぇ、ちょっとあなたたちにお願いがあるのですけど」
「お願い? ですか?」
「まああり得なくはないですわ。学園祭に参加している人は報酬さえ払えば依頼をしてもいいのですわ」
「なるほど~。どんなお願いなのですか?」
「実は今話題のアイテムがありまして、それを私は持ち帰りたいのです。ですがどこで手に入るか分からず。地元の学生さんなら分かるかなと思いまして」
先ほどの説明を思い出しました。
商人さんは物を持ってきて売って、大量に買ってから帰っていくって。
その買いたい物なんでしょう。
「どういう物がほしいのですか?」
「実は私も人づてにしか聞いていないから分からないことが多いのですが、〈転移水晶〉という、こう卵形をしたアイテムらしいのです」
ミーア先輩、アルストリアさん、シレイアさんの視線が私に向いたのを察知しました。
「そ、そうなんですね。あいにく私たちも分かりません。探すのはちょっと遠慮したく」
「そう、ですか。残念です」
咄嗟に誤魔化してしまいました。
お店の人は本気で残念がっていましたが、こればかりは仕方ありません。
私が持っていたら変装の意味が無くなってしまうかもしれないですし。
面倒事に発展する可能性もあります。
これは英断のはずです!
お店を離れると、ミーア先輩が言いました。
「大人気ね〈転移水晶〉~。チエちゃんやムファサ隊長が話を聞きたがっていたわよ? さっきメッセージが来てた」
「私も話を聞きたいくらいなんです……」
それもこれもゼフィルス君のせいです!
実は私のところにも何人もの知り合いからメッセージが届いていますが、全て読んでいません。今読んだら抜け出せなくなりそうなので。せめて学園祭が終わるまでは平穏を享受したいな、なんて。
幸いにもミーア先輩は冗談冗談と言って一緒に別の露店へと向かってくれました。
ミーア先輩やアルストリアさん、シレイアさんも気になっているでしょうに聞いてきません。
私はとても良いお友達を持ちました!




