#119 コンテスト入場準備! もう戦いは始まってる?
11時に目が覚めました。
起きて体の調子を確かめます。
「うん、快調かな」
どうやら調子は戻ったようです。お昼寝って大事ですよね。
それから準備をしていると、少しずつお腹が空いてきます。アルストリアさんとシレイアさんが心配になったので部屋を訪ねることにしました。コンテストが始まれば食べている時間はありません。
そのため13時までにお昼を食べ終えて会場へ行かなければなりませんが、アルストリアさんやシレイアさんのことです。直前まで没頭してお腹を空かせたまま出場、ということもありえます。
「アルストリアさん、ハンナです。いらっしゃいますか?」
しばらく待つと、慌てて取り繕ったみたいな格好のアルストリアさんが表れました。やっぱりです。私はお昼を食べに行こうと誘います。
「は、ハンナさん、ちょ、ちょっとだけお待ちくださいませ! 今用意しますから!」
「では私はその間にシレイアさんのところに行ってみますね」
うっかりしていた様子のアルストリアさんにそう言ってすぐにシレイアさんの部屋へ。寝ていたのか、まだぽやぽやしていたシレイアさんを起こすと支度をさせてアルストリアさんの部屋へ向かいました。
「うう、私としたことが」
「もう、アルストリアさんもシレイアさんもしっかりしてください。お昼を食べないとまたお腹を空かせますよ。コンテスト中にお腹がなりますよ。いいのですか?」
「よ、よくないです! ハンナ様、ありがとうございます!」
「ありがたくいただきますわ」
2人ともちょっと心配ですね。今後も気をつけておかないといけないかもしれません。
3人でご飯を食べて、英気を養います。
そうして準備を整えて12時半、私たちは〈生産専攻〉の校舎へと向かい、表に出ている一つの会場、その裏口へと向かったのでした。ここが〈錬金術課1年生〉のブースです。
「ハンナさん、アルストリアさん、シレイアさん、おはようございます。3人とも早いですね」
「「「おはようございますアイス先生!」」」
中には担任のアイス先生がいらっしゃいました。
アイス先生の姿を見た瞬間、背がピシッとするのはなぜでしょうか?
思わず背が伸びてしまうのです。
アルストリアさんもシレイアさんも先ほどとは違い、私たちがクラスの見本であり手本、という引き締まった表情をしていました。アイス先生の貫禄がすごいです。
「では3人ともこちらへ。ここに品を並べてください。今回3人とも個人出場ですからね。様々な作品の数々、楽しみにしていますよ」
そう言ってアイス先生は朗らかに微笑んでいました。
ですがその言葉はプレッシャーですアイス先生。
私たちはアイス先生から言われたとおり壁で遮られた場所で出品物を〈空間収納鞄〉から出して並べていきます。
全部で10品。
どれも今の私が出来る最高傑作です。選りすぐりを選びましたよ。
左右が壁に遮られているためアルストリアさんとシレイアさんの作品は見ることが出来ませんが、きっと2人ともとても良い物を持ってきているはずです。
ドキドキしますね。
私の作品たちは、君に決めた!
続いて最初の〈総評価ポイント〉で出す順番を決めるための番号札を品の上に置いていきます。
この順番が大事なんですよ。
続けて同じジャンルだと評価が低くなる傾向がありますから、それを避けてっと。
また、良い物を立て続けに出しても影響が出るとのことなので、緩急をつけるように高得点を狙えるもの超高得点を狙えるものをなるべく交互にしていきます。
とはいえこれはあくまでそういう傾向があるというだけで絶対というわけではないそうですけどね。また、観客席の方は心象で点数が大きく変化しますから、初心者の私には読みきれませんし。
とにかく出来る限りの事はしました。
1番から10番まで作品の順番を決めてから、私はそこを出ました。
すぐに係員の方が来て品の鮮度を保つためと持ち運ぶために〈空間収納倉庫〉へと入れていきます。
これで、準備は完了です。
「あら? ハンナさんは早かったですね」
アイス先生のところに戻ると、まだアルストリアさんとシレイアさんは来ていませんでした。時間を見ると、今の作業は3分も掛けていませんでしたからね。寮でもう順番を決めていましたから後はそのとおりに置くだけですし。
ですが、アイス先生の話でそれが普通ではないことがわかりました。
「この順番決めが評価に直結いたしますからね。初めて〈作品コンテスト〉に出場する人も多いですし、時間を掛ける人は多いのですよ。第5チーム目なんて12時にやってきたのに未だに戻ってきませんし」
「30分以上も掛けているのですか」
か、考えすぎと思うのは私が間違っているのでしょうか?
ゼフィルス君もこういうのは考えすぎてもドツボに嵌まるだけだって言ってた気がしますが。
アイス先生の話で1チームを除いて全員すでに集まっていると聞いて驚きました。
私以外誰も戻ってきていないんですもん。本当にみなさん真剣に決めているんですね。
わ、私ももう少し考えればよかったでしょうか? でもゼフィルス君ならぱぱぱっと決めてしまいそうなんですよね。私もゼフィルス君みたいになりたいです。
「お、終わりました~」
「あ、シレイアさん、お帰りなさい」
「ま、まだ始まっていないのに神経が磨り減りました」
そう言って私に抱きつき、寄りかかってくるシレイアさんを支えます。
思わず頭を撫でてしまいました。シレイアさんの目が細くなります。気持ちいいですか?
「もう勝負は始まっているようなものですわよシレイアさん」
「アルストリアしゃん?」
「とはいえわたくしも少し休憩がしたいですわ。……ハンナさん、私もよろしいでしょうか?」
「えっと、よろしいですよ?」
「その、失礼いたしますわ。~~~癒されます」
「そうでしょうか? それならよかったです。」
珍しいことに、シレイアさんをジッと見つめたかと思うとアルストリアさんまで抱きついて来ました。よほど神経が磨り減ったのだと思います。
私はアルストリアを片手で抱きしめて背中をすりすりしました。もちろんシレイアさんもギュっと抱きしめます。
すると、
「~~~~ぷはっ! お、溺れます! 胸で窒息するところでした!」
「あ、わわわ! ごめんなさいシレイアさん!?」
「大丈夫ですの!?」
シレイアさんをギュッとしたことでシレイアさんが私とアルストリアさんの胸に挟まって、いえ埋まってしまったのです。慌ててなだめます。
「はぁ、はぁ、もう、別の意味で大丈夫じゃないかもしれないです」
「「?」」
シレイアさんが羨望の篭った瞳で私たちの胸を見つめていました。
なんだかごめんなさい?
そんなことをしている間に時間は過ぎていき、最後の1チームも慌てて入ってきました。
どうやらお昼ごはんの混雑に当たってしまったようです。
そうして13時、やっと私たち〈錬金術課1年生〉の部が開幕しました。




