#010 〈筒砲〉を撃つの、少し楽しくなってきました。
明けましておめでとうございます!
これから3月10日の本編書籍1巻発売日まで70日間、毎日更新で頑張りますのでよろしくお願いいたします!
「――錬金砲、発射!」
「ギャッ!?」
私が右手に持つ〈筒砲:エナジー〉を使って打ち抜くと、トカゲモンスターは一撃で光になりました。
うーん、やっぱりオーバーキル。
中級モンスターには大きいダメージにならなくても、ここでは無類の強さです。
ちょっと楽しくなっている自分がいます。
「――錬金砲、発射! 発射!」
「ギギィ!?」
また三体を屠るとミーアさんが感心した様子で近づいてきました。
「ハンナちゃん凄いわねそれ。回数とかどれだけあるの?」
「これですか? これは失敗作なので回数は6回ですね」
「これで失敗作なんだ……」
ミーア先輩が、ちょっと引いていました。
そうでした。6回って多い回数でした。
今使っているのは練習に作った品なので品質は並の域を出ませんし、威力も普通。回数だけは6回になりましたけど、私が中級で使っている大成功作は高品質威力1.5倍に加え回数13回使えます。
それに比べちゃうと、と思ってしまいました。いけない、気をつけなくちゃ。
ゼフィルス君に聞いたところ、〈スキルLV10〉で作った物は大幅強化されるらしいので、生産職はステータスのSPをスキルに振るときは絞るのが基本と教わっています。
でも、普通の生産職の方はもっといろんな所にSPを振っているらしいです。
手を広げた方が不足が出たときカバーできるのが強みらしいですが、私は構成を特化型で組んでいます。ゼフィルス君にオススメされたからですが、特化構成は本当に良いのができますよ。
私が気を引き締めていると、ミーア先輩がまだまだ聞き足りないとでも言うように話を振ってきました。
「そういえばさっきの「錬金砲」って言ってたけどそれ〈筒砲〉でしょ? なんで錬金砲なの?」
「あ、それはですね。発動キーなんですけど、私の場合声を出した方が命中率が良いみたいなんですよ。最近発見しました」
ちなみに発動キーとはアイテムを発動するためのスイッチですね。
発動キーには様々なタイプがあります。ボタンを押すタイプ、引き金を引くタイプ、言葉が起動キーになっているタイプ、魔力を籠めるタイプ、ですね。
私は最初魔力で活性化させてアイテムを発動させていたのですが、これはMPを使うほか魔力を送り発動するまでにタイムラグがありました。
ですが、発動キーが声ならMPも減りませんし、私にあっていて使いやすいことがわかったのです。
それどころかなぜか命中率が良くなりました。
同じギルドの銃使いのシズさんに聞いてみたところ、撃つとき、自分に合った体勢があるそうなのです。伏射姿勢ですとか、腕をピンと伸ばすだとか、ですね。そして私に相性が良いのが声に出して撃つこと、だったみたいなんです。
そういえば錬金の時も何か言いながらやっていることが大半だった気がします。
あれをすると集中力が上がりそうな気はしていたのですが、実際上がっていたみたいです。
なのでここ最近作ったアイテムは全て発動キーを言葉に設定しています。
あ、でも狙撃系の〈筒砲:スピアー〉だけは未だに魔力起動です。あれは声を出したら気がつかれちゃいますからね。
「なるほどね。で、「錬金砲」って言うのは?」
「うう、別にいいじゃないですかーもー、錬金で作った〈筒砲〉なので錬金砲なんです! この方が強そうなんですよ。からかわないでください」
私はちょっとヤケクソ気味に応えました。ミーア先輩がにんまりしているせいです。
ゼフィルス君が筒砲より錬金砲の方がいいなって褒めてくれたのが決め手だったのですが。
それは言わないでおきます。
「別にからかってないよー。ただかっこいいなって思っただけ」
「え? そうですか? え、えへへ」
かっこいいって。女の子がこんな言葉で喜ぶべきではない気はしますが、褒められていることには違いありません。
それなら仕方ないですね。
「そういえばハンナちゃん、さっき杖を取り出してたけど、あれは使わないの?」
「あ、あれですか。本当は使った方が良いのですけど、今は色々と試してみたいことがあるので仕舞っちゃってます」
私のメイン装備である両手杖、〈マナライトの杖〉は確かにここが使いどきなのですが、MPが大事なのであまり使いたくはありません。
ちなみに私のMPは現在最大値の5割ほどです。これはダンジョンに来る前に生産に使ったからですね。
授業でもMPはそれなりに使うのです。
特にアイス先生、私だけ周りの子と足並みを合わせられないからって特別メニューを出してくるようになったのです。なんだか他のみんなに悪い気がするのですが、アイス先生は「ハンナさんのお陰でみんな意欲的に頑張るようになりました」と言って満足げでした。
とりあえず問題は起きていません。私の考えすぎ?
「そういえばミーア先輩は戦闘に参加しないのですか?」
「あ~、いや。私は必要なかったっていうかね」
私が聞くとミーア先輩は明後日の方向に向いて嘆息した。
「まさかハンナちゃんがここまで強いとは思わなかったからね。私も『包丁術』ってスキルを持っていてそれなりに戦えるんだけど、私の出番は無いかな」
「あ、えっと。それはすみません?」
「あはは、別に謝んなくていいよ、モンスターを倒してもらえると全員の作業効率も上がるし危険度が少なくなるしね、それにハンナちゃんが改めて凄い子だって分かったからねー」
「もうミーア先輩はすぐそうやって褒めるんですから、私はそんな別に……」
本当にたまたまの偶然、のはずなんですけど。
そう思っていたら、周囲で採集していた面々が集まってきました。
「こっちはあらかた回収し終えたよ」
「釣りポイントはまだまだありますが、この層で釣れる魚は大体釣れました。次、どうしますか?」
「そうですわね。これだけの戦力ですわ。今日はもう少し下層に潜っても良いかと思います。これだけの機会、なかなか無いですわ」
モナ君とタイチ君が報告し、アルストリアさんがみなさんに提案しています。
確かに、生産職と採集職のメンバーとは思えない戦力が集まって居ます。
ここで戻る選択は、ちょっと勿体なすぎますね。
私なら正直、ボスでもない限り大丈夫ですし。ボスでも大丈夫です。
つまり問題ありません。
結局アルストリアさんの提案が可決し、私たちはそのまま第8層の採集エリアまで足を伸ばすことにしたのでした。




