表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【受賞&書籍化】モブ公爵令嬢ですが、ラスボス化予定の兄の破滅は阻止させていただきます!  作者: 朝月アサ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/46

38 道を開く





 ロザリンドは夕暮れが迫る中、中央棟から直接繋がっている図書館の三階に潜みながら、中央棟の西側に視線を向ける。

 急造にもかかわらず堅固な要塞に、敵が吸い寄せられるように集まっていっている。

 地霊グール、死霊戦士、そしてそれらよりさらに格上の、巨人のような死霊騎士。


 前線にはカイルや、魔法と武器を操る騎士見習たちが立ち、ミリアムが要塞を適時補強しながら、皆を石の盾で守っている。


 エドワードが出入口のすぐ内側から、指示を出しながら光魔法を放っている。彼の存在と指示、戦場の混乱を安定させている。


 ロザリンドは校舎内の安全な位置から、狙撃ポイントを見つけた。遠くからでも敵の動きがよく見える。


(ここなら、よく見える)


 距離はあるが、味方と敵の動きがよく見える。


「アーケイン・サモン――スナイパー」


 静寂の中にロザリンドの声が響く。

 スナイパーライフルがロザリンドの手の中に召喚される。銃弾化した魔石を装填し、窓をわずかに開け、銃身を窓から外に出す。


 照準を合わせる。


(――ショット)


 落ち着いてトリガーを引く。

 死霊騎士の頭が、流星に撃ち抜かれる。


 エドワードに魔力を込めてもらった光属性の魔石の効果は絶大だった。

 巨体は弾け飛び、消え去る。


 ロザリンドは落ち着いて次弾を装填し、他の死霊騎士を光で撃ち抜いた。撃ち続けた。冷静に。

 死霊騎士の姿が見えなくなれば、死霊戦士を。


 彼らは強いが、地霊グールのように無駄に増殖することはない。

 マルーン教官から借りている魔石が半分になったころには、大型モンスターは見つからなくなってくる。


 ロザリンドはこまめに位置を変えながら、大型モンスターを発見しては狙撃して倒す。


流石の地霊グールもかなり数が減ってきている


(――太陽が沈みかけている。そろそろね)


『――これから怪我人の搬送に向けて行動する。各自、準備をしてくれ』


 通念石を通して、エドワードの指示が聞こえてくる。

 ロザリンドはスナイパーを解除し、すぐに校舎の東口へ向かった。


 東出入口の前では既にメンバーが集まっていた。


 怪我人は四人。

 それを守るのは騎士見習いが二人、怪我人を運ぶ体力のある生徒が八人、怪我人の症状を安定させるための治療術の使い手であるエリナ。敵を焼き払う役割のソフィア、結界を破る役割のロザリンド。


 ――全部で十七人。


(これだけの人数がいれば、結界を破るための魔力は充分ね)


 正直、多すぎるくらいだ。陽動部隊の方は十人。下手をすれば魔物たちがこちらの方にやってくる。


(迅速な行動が必要)


 モンスターに追いつかれないぐらい早く。


 ロザリンドは通念石を手にした。


「脱出チーム、これより出発します」

『――ああ。くれぐれも気をつけてくれ』


 エドワードの声が響く。

 ロザリンドは深呼吸をして心を落ち着かせた。


 これから脱出地点に行き、突破口を開く。脱出チームは東側に開けた穴から怪我人を搬出する。結界は壊してもすぐに修復されていくため、それを確認して、そのまま助けを呼びにいく。


 ――決して、中には戻らない。

 脱出チームの脱出成功後は、学園内に残った生徒は校舎内に戻り、朝を待つことになる。


「では、行きましょう」


 鍵を開け、扉を開き、外に出る。


 モンスターが西口に集まっているおかげで、東側は静かだった。策略の賜物だ。


 夕焼けに染まる中を、警戒しながら早足で進む。

 モンスターの姿が見えない間は、戦闘要員も怪我人運搬を手伝う。


 いつモンスターが襲い掛かってくるかもしれない恐怖で、皆の顔には緊張と焦りが浮かんでいる。ロザリンドは決して急がせなかった。


 静かに、迅速に、進み続ける。

 普段ですら人気のない場所へ向かって、最大限警戒しながら歩き続ける。

 汗が噴き出し、呼吸が荒くなり。


 そうしてようやく学園の敷地端に到達した。

 そこには高い壁がそびえ立って、ロザリンドたちを見下ろしていた。


「ジュリアンさんに指定されたポイントはここです。皆さん、私に魔力を集めてください」


 全員が集中し、ロザリンドに魔力が集まる。

 ロザリンドは深呼吸をして、集中する。その場に溢れる魔力を束ね、共鳴させていく。


 強さが、輝きが、どんどん増していく。やがてそれらは色とりどりの光となり――


(これならいける)


 確信を持ち、打ち壊すべき壁と結界を見据える。


「――ハンドキャノン」


 皆からは見えない位置で、ハンドキャノンを召喚する。


「バレット」


 魔石に共鳴させた魔力を込めて。


「ショット!」


 魔力を放つ。

 激しい光と共に結界が破れ、壁が音を立てて崩れ、大きな穴を開ける。

 ――外への道が開かれる。


「よし、行ってください」


 銃をこっそりと分解し、振り返ったロザリンドは――

 驚きでぽかんと口を開けて固まっている学友たちを見た。


「な……なんて威力なの……」

「ロザリンドさんは、どれだけの力を……」

「そ、それよりも、早く脱出しましょう! 早く早く! 急いで!」


 ロザリンドは列の一番後ろに回り、前方を急かして穴をくぐらせる。

 そしてもちろんその間も警戒を続ける。怪我人を運ぶ生徒たちが穴を通って外へ出ていく。


「外だ! やった、これで助かるぞ……!」


 外から歓喜の声が響く。次々に喜びの声が上がり、脱出の実感と安堵が湧いてくる。

 全員の脱出を見届けて、ロザリンドも学園の外に出た。


(外の空気……!)


 清々しい空気を胸いっぱい吸い込み、ロザリンドはすぐさままた後ろを振り返った。


 結界に開いた穴が徐々に自己修復されつつある。

 だがまだ、この穴からモンスターが出てくる可能性はある。学園外に出たら大惨事だ。

 ロザリンドは警戒しながら結界が閉じ切るのを待った。


「――こちら、無事脱出完了しました。もうすぐ結界も閉じます。校舎内に戻って下さい」

『…………』


 返事がない。


(立て込んでいるのかしら)


 その時、壁を破った轟音を聞きつけて来たのか――あるいは既に周囲に展開していたのか、王都の警備隊がやってくる。


「君たち、大丈夫か!?」

「詳しいことは後で。生徒四名が呪毒に侵されています。早く治療を」


 ロザリンドが言うと、すぐさま怪我人が警備隊に抱えられていく。エリナと数人がそれに同行していった。これでもう、怪我人は大丈夫だろう。


(成功した……助けられた……本当に、よかった)


 込み上げる涙を軽く拭い、もう一度通念石に話しかける。


「――エドワード様、こちらは無事脱出完了しました。校舎内に戻って下さい」

『…………』


 やはり、返事がない。ロザリンドは耳を澄ませ、意識を集中させた。


(――かすかに、何か……)


 ざわついた物音が、通念石を通して聞こえる。戦闘音だろうか。

 安全な場所にいるはずのエドワードが返事をする間もないぐらい、追い込まれているのだろうか。


「エドワード様? ジュリアンさん? 誰か、返事を――」


 もう一度呼びかけてみても、返事はない。

 かすかに聞こえる物音は激しくなり、慌ただしい声が紛れる。


『……逃げてくれ……絶対、戻って、くるな……』


 ――その後、音が完全に聞こえなくなる。


 ロザリンドはもうすぐ閉じるであろう結界の穴に飛び込み、潜り抜けた。


「――ロザリンド!」


 結界の向こうからソフィアの声が聞こえる。だがロザリンドは振り返ることなく、中央棟へ向けて走った。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくださってありがとうございます。
少しでもお楽しみいただけたら↑の評価(⭐⭐⭐⭐⭐)を押していただけると嬉しいです!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ