13 漆黒のグリフォン
(来た――)
レクリエーションイベントでの敵モンスター、漆黒のグリフォン。もちろん訓練用モンスターなどではない。
学園所有のフィールドは外からモンスターが入り込めない結界があるが、空までは覆われていない。そこから入ってきたのは、移動スピードの速さ、移動範囲、攻撃範囲の広さ、すべてが厄介な野生モンスターだ。
「ミリアム、防御を頼む! カイル、援護を!」
「了解」
「りょ、了解です!」
エドワードの指示にカイルは静かに答え、一歩前に出る。
魔力が風と共鳴し、突風を巻き起こす。漆黒のグリフォンの突進を押し返し、弱めていく。
ミリアムは地面を操り、強固な土の壁を作り上げる。強固な壁はグリフォンの強風攻撃を防ぎ、一行を守る。
彼らの連携は完璧だ。
(さすが、王子の護衛)
少し安心した瞬間、グリフォンの強風がまるで牙のようにロザリンドの方へ伸びる。
それがロザリンドに当たる寸前、カイルの風のヴェールが薙ぎ払った。
「――気をつけろ」
カイルの冷静な声が注意を促す。
「ありがとうございます」
エドワードだけではなく自分も守ってもらえるとは思わなかったので、驚きつつ礼を言う。
(漆黒のグリフォンに限らず、鳥類モンスターの弱点は、飛び道具)
ロザリンドはゲーム知識の中からグリフォンに対抗する手段を選びながら、クリスタルワンドを手に取りグリフォンに突きつける。
「マジックショット!」
グリフォンの眉間に向かって魔力を放つ。
精度は完璧。
(よし、スタン――)
クリティカルが発生して、グリフォンの動きが一瞬止まる。ロザリンドはすぐに足元の石を拾い、魔力を纏わせた。
「バレット――ショット!」
翼を貫く。
グリフォンの突き刺すような叫びが轟き、耳を塞ぎたくなるほどの不快な音を放ちながらグリフォンが落ちる。
そのタイミングで、エドワードが剣を抜いた。
まるで閃光だった。
カイルの風で加速して高く飛び上がり、光の魔力を纏う剣でグリフォンの翼を斬り落とす。
片翼を失ったグリフォンが地面に落ちる。
巨体が斜面を滑り、下に落ちていく。
だが、まだ倒れない。痛みと怒りで暴れる巨大な獣は、まだ戦意を失っていない。片翼を失っても、もがくように暴れまわる。
「止めを刺そう。手負いのモンスターを放置すれば、他の生徒たちにも被害が及ぶ」
「エドワード様、近づくのは危険です」
斜面を下りようとするエドワードを、ミリアムが引きとめる。
「誰かが危険を冒さないといけないなら、それは僕であるべきだ。カイル、援護を」
「了解」
「――ちょっと待って! この距離なら届く!」
「ロザリンド?」
――地形効果は逆転している。
ロザリンドは暴れるグリフォンがよく見える位置に移動する。雨の影響で足場が悪いが、ウイングブーツで地形影響を軽減できている。
先ほど入手したばかりの一角ウサギの魔石を手にする。
【特殊能力】インサイトリンク:Lv.1(絆を感じ取ると、一時的にステータス向上)
「――みんな、グリフォンへ一斉攻撃を! 私がリンクさせる!」
「――わかった」
カイルの風、エドワードの光、ミリアムの土、そしてロザリンド自身の魔法が一つとなり、魔力の渦が生まれる。
「バレット――」
ロザリンドは囁くように言葉を紡ぎ、彼らの異なる色の魔力を魔石に集める。その輝きは、眩しく、あたたかかった。
グリフォンを見据える。
【命中補正:特大】
「――ショット!!」
仲間たちの力を集約した強力な魔法をグリフォンに打ち込む。
すべてを吹き飛ばすほどの魔力が、グリフォンに衝突して激しい光を発生させる。
光が消えた時、グリフォンも消滅していた。
地面に魔石がころころと転がる。その小さな音が、戦いの終わりを告げた。
【絆】
・エドワード・グレイヴィル:★☆☆☆☆ new!
・カイル・スティール:★☆☆☆☆ new!
・ミリアム・アームストロング:★☆☆☆☆ new!
「なんて威力だ……」
エドワードが驚嘆する声が、静かに響いた。
いつの間にか雨は上がっていて、空は青く透き通り、光が山を照らし出していた。
雨上がりの新鮮な空気が、頬を撫でていった。
カイルが風を纏いながら軽やかにグリフォンのいた場所まで下りて、魔石を拾ってすぐに戻ってくる。そして、エドワードに魔石を渡す。
「そろそろ集合時間ですね。戻りましょう」
ミリアムが言う。
(あ……魔石なしになっちゃった。成績に響くかしら? 帰る途中でモンスターに遭遇できるといいんだけど)
獲得した一角ウサギの魔石を使用したため、いまのロザリンドは魔石のない状態だ。
帰り道で魔石をゲットできることを願いながら、エドワードたちに小さく頭を下げる。
「それでは、私はこれで」
「待ってくれ、ロザリンド。これを――」
エドワードがロザリンドのところにやってくる。
そして、ロザリンドの手にグリフォンの魔石を渡した。
「い、いただけません」
慌てて断ると、エドワードは微笑む。
「君の戦果だ」
「あ、ありがとうございます」
その笑顔で言われると断れない。
受け取った魔石はいままでで一番大きく、一番煌めいて見えた。
「君さえよければ一緒に戻ろう」
「はい」
そうして四人で集合場所に無事戻り、魔石を提出したロザリンドは、教官にとても驚かれた。
「これは……もしや漆黒のグリフォンの魔石か? 目撃情報はあったが、まさか君一人で倒したのか?」
「いいえ。エドワード様と、カイルさん、ミリアムさんの力があってこそです」
ロザリンドは正直に、誇りをもって言う。




