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満月の夜3  作者: 桐生初
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ネタは全て揃った。


取調べには、調書を書く役には内田に入って貰い、太宰達は1人づつ入る事にした。


其々のネタとキャラで…。



甘粕は乱暴にドアを開け、ドサッと金田の目の前の席に座り、長い脚を組んで、大抵の女性がうっとりとする微笑みを浮かべた。


甘粕の予想通り、金田は落ち着かなくなり、真っ赤な顔で目を逸らして俯く。


金田に自覚は未だ無いのかもしれないが、いくら切断マニアとは言え、リスクの高い体格のいい男だけをターゲットにして来たというのは、どうも妙だ。


白川に何らかの弱みを握られ、命令されての事にしても、拷問の様に切断して殺害し、内臓を抜き取る行為を男性にしていて、きっちり快楽を得ているという辺り、性の対象は男性なのだろうと、甘粕は踏んだ。


しかも、金田よりも相当いい男で、尚且つ、被害者の様な優しげな顔である事が条件だろう。


甘粕は昔から優しそうな人と思われて来た。

それはこの顔のせいだ。


だから、好きではない自分の顔を武器にしてみたのだったが、予想以上にビンゴだった様だ。


但し、正常な関係では、当然の事ながら無い。


性的な関係は、彼にとっては苦しめながら切断する事だ。


だったら、甘粕はその何倍もの精神的苦痛を与える。


「絶対バレないって思ってた様だけど。」


そう言いながら、デスク一杯に撒き散らす様に地下室の様子、証拠品の青龍刀、漂白剤、遺体が入れられていた物と同じ黒いビニール袋の大量のストック、防腐剤や、脳みそを掻き出した器具等、あそこにあった全ての証拠写真を乱暴に放った。


「床一面に残されていた被害者の内臓や血液は、全て発見された被害者の物だった。

お楽しみ部屋のDVDに写っていた顔で、両方の被害者の身元も割れた。」


金田は本気で地下室は見つからないと思っていた様だ。


真っ青な顔でただ、固まっている。


「自分が捕まっても、携帯と車が真っ白なら、何もバレないと思ってたのか。」


あまりに稚拙だが、子どもの頃、猫っ可愛がりされて、ひたすら甘やかされたものの、成長するに連れ、親や周りの要求と躾が厳しくなり、何をしても褒められて来た自画像と、現実のギャップについて行けず、過剰な万能感を持ったまま歪んだ大人になるという典型ではある。


子どもの内は誰しもが持っている現実離れした万能感を持ったまま、その幻想に縋っているのだ。


自分は努力も何も無しに、何でも出来る、何でも思い通りになると。


甘粕はデスクを力一杯拳で殴った。

静かな密室の取調べ室に、ガン!という大きな音が鳴り響き、金田は腰を浮かせた。


そして甘粕は立ち上がって、上から威嚇する様に怒鳴る。


「生憎だが、うちはマニアの集まりなんだ!。

車のトランクから、被害者の血痕も出たんだよ!。

お前が地下室に撒き散らしてた血液と内臓も全部分析済みなんだ!。

お前が変態的に殺したのは、遺体の一部を捨てた人達だけじゃねえじゃねえか!。

行方不明者2人のDNAがきっちり出てんだよ!。」


金田は黙ったままだ。

甘粕は新しく判明した被害者の顔写真を金田に突きつける様に見せ、畳み掛ける。


「この2人の身体はどこだ!。お前が殺したのは分かってんだよ!。お前のお宝DVDに入ってたからな!。」


「ー言わない…。」


「何だあ!。はっきり言え!。」


「い…言わない…!。」


甘粕は金田の顔を至近距離で覗き込み、ニヤリと笑う。


「言わなきゃ、立件出来ないとでも思ってんだったら、とんだ間違いだ。

青龍刀の刃は被害者の切断面と一致。

地下室からは4人の被害者の血液と内臓、お前の指紋、DNAと文句無しに出まくってる。

これだけ物証が揃ってりゃ、どんなヘボ検事が担当になったって、無期懲役は確定だ。

だが、お前には残念な事かもしれないが、このヤマの担当検事は、別名死神検事って呼ばれてる人でね。

死刑求刑して、通らなかった事あ、無いんだよ。」


金田は俯き、震えながら何も言わない。


正確には何も言えなくなっているのかもしれない。


「俺達舐めんなよ。お前が黙ってたって、この2人の被害者の身体は必ず見つけ出す。」


その時、甘粕は不思議な感覚に襲われた。

確かに金田は目の前に居るのに、居ないかの様に感じたのだ。


ー気配を…消してる…?。


虐める側だった金田は、バチが当たったかの様に、虐められる側になった。

その虐めは、金田の言動の不気味さ故、金田への嫌悪感もあってか、かなり酷い物だったと近所に住んでいた同級生からの証言があった。


その頃の生きる術だったのかもしれない。


そして、この気配の消し方のお陰で、貴也達も気付かなかったし、他の被害者もいとも簡単に拉致されてしまったのかもしれなかった。


だが、気配を消した所で逃れられない事は、知らしめなくてはならない。


甘粕は、金田の目の前、数センチの所で、両手をパン!と叩いた。


「おい。俺達にそんな手は通用しねえんだよ。黙ってたってお前みたいなガキ程度の知恵しか無い奴のやった事なんて、全部暴いてやる。

だからこっちは、お前が喋らなくたって構わない。

だが、裁判官と裁判員の心証は悪いだろうな。

自供無しってのは、反省の色無し。

イコールこの日本じゃ死刑だからな。」


死刑と言う度に、金田は更に震える。


「あんな酷いいたぶり方して、人を殺しておいて、お前は死ぬのが怖いのか。

まあ、そうだろうな。地獄行きだろうしな。

死ぬのなんか怖くねえって言ってた死刑囚でも、あの部屋入ると、死にたくねえってしょんべん漏らして泣き喚くっていうしな。

なんでだか分かるか。」


金田は泣き始めているが、甘粕は攻め続ける。


「毎晩毎晩、殺した人達が夢に出て来るんだってよ。された事をやり返して来るんだと。

毎日毎日。

起きてても凄え形相の幽霊でずっと独居房に居て、ずっと恨み辛みを語ってんだそうだ。

死んでもやってやるって、大抵の奴が言われるらしいぜ。

お前は、生きながら身体を切り刻まれて、内臓出されて、脳みそ出されるんだな。

痛い思いだけして死ねず、毎日、毎晩。」


「ーい…嫌だ…。」


「人にやっといて?。そんな虫のいい話があるか。」


「嫌だあ〜!。痛いのは嫌だああ〜!。」


「被害者は痛いなんてもんじゃなかったんだよ!。

死ぬより苦しい思いをさせられた挙句、お前の快楽の道具にされて、辱められたんだ!。

少しでも楽になりたいんなら、せめて正直に言え!。」


金田はパニック状態になり、泣き叫んで話にもならなくなった。


しかし、これは甘粕の目論み通りだ。




取調べ室に、終始無言の監視の警察官2人と共に残された金田は泣いては震えている。


マジックミラー越しにその様子を見ていた太宰に、戻って来た内田が苦笑で言った。


「甘粕、化けましたね。前は自分の容姿使うってだけで嫌がってたし、どっかで優しくなっちまってたのに。」


「霞ちゃんとの事、かなりキツイ状況だったけど、その分、色々吹っ切れたんだと思う。」


「そうなんすか。」


「うん。なんであんなに自分の容姿嫌うのかも、俺に話してくれたしね…。」


「なんでなんすか。」


「それを俺が内さんに直ぐ言っちまってどうすんのよお。」


「あ、そっか。課長との信頼関係で話したんですもんね。」


「そうなの。甘粕がサラッっと言える様になるまで、俺と甘粕の秘密なの。」


「はいはい。じゃ、今度は夏目っすね。」


「宜しくねえ。」



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