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満月の夜3  作者: 桐生初
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反抗期中の息子というのは、得てして父親の言う事は聞かない傾向にあるらしい。


その日の尊は急な仕事が入ってしまい、貴也の下校時間きっかりには間に合わなくなってしまった。


LINEで30分程度待っている様にと送ったのだが、それを見た貴也は舌打ちし、勝手に帰ってしまおうと、学校を出た。


返事が無い事で、これは怒って勝手に学校を出たなと判断した尊は、貴也の学校の高等部で教師をしている篠原に連絡する。


「忙しい所申し訳ないんだけど、貴也追いかけて、学校に留めといてくんない?。」


貴也が事件に巻き込まれそうで、護衛が必要だという話は、学校にも、念の為篠原にもしてある。


なんだかんだいいつつ、面倒見が良く、貴也を可愛がっている篠原は承諾し、貴也を追った。


貴也は校門を出て行く所だった。


「面白くはないだろうが、学校で待っていなさい。」


「大丈夫ですよ。あんなヒョロヒョロの不審者なんか…。」


「そうは言っても、被害者は貴也位の体格の、貴也より年上の男なんだろう?。

つまりは貴也だって危険だという事だ。どんな手を使ってくるのか分からないんだから。」


「う〜ん…。はい…。じゃあ…、ちょっとコンビニ行ってもいいですか?。そこで待ってます。」


学校は人通り、車通りの少ない狭い道路沿いにあり、コンビニはそこを通って出なければならない、大通りにある。


篠原は辺りを見回した。


ここは小さな会社が多く、この時間帯は、日中よりも更に人気が無い上、街灯も暗い。


「駄目だな。学校に戻りなさい。」


篠原の事は貴也も信頼しているから、あまり抵抗もなく説得に応じ、学校に戻ろうとしてくれた時だった。


校舎の2階から、別の教員が叫んでいる。


「篠原先生〜!!。物理室でなんか燃えた〜!。」


「燃えた!?。何燃やした!?。」


篠原は物理部の顧問もやっている。


「先生、行って下さい。ちゃんと戻りますから。」


篠原は迷ったが、校門の真前だし、教員室からここはバッチリ見える。


まさかと思い、校舎に走って戻った時だった。


「貴也!。後ろ!。」


北条尊の低いダミ声が怒鳴るのが聞こえ、振り返ると、貴也の真後ろに2メートル近く見える男が金属製の様な棒を構えているのと、尊が車から降りて走って来るのが同時に見え、篠原も駆け戻って、貴也を抱き抱える様に手を伸ばした。


寸手の所で貴也が振り返る様にして避けると同時に、尊がタックルをして1メートル位吹っ飛ばして転ばし、更に大外刈りで投げて、男の動きが止まった。


職員に叫んでロープやら刺股等を持って来て貰い、拘束しようとするのだが、相当な怪力の筈の尊でも、男性教諭3人がかりでも手を焼いた。


力は強くない筈なのに、この2m近い体躯のお陰で、手脚も異様に長く、制御出来ないのだ。


尊は男を取り抑えながら、太宰に電話したが、太宰は相田に事情を聞いている最中だったので、電話に出なかった。

それで五課に掛けたのだが…。


「早くねえ!?。」


どういう運転をして来たのか、尊達、一般人には想像つかないが、桜田門から世田谷の学校まで7分で着くという夏目。

もうF1レーサー並みなのかもしれない。


「貴也君を襲おうと?。」


「そー!。」


まだ暴れている男を一瞥した夏目は、尊に避ける様に言うなり、顎を思い切り蹴って、気絶させてしまった。


そして、表情も変えず、腕時計を見て、手錠を掛けながら言う。


「18時53分、北条貴也君拉致未遂により、容疑者確保。ご協力有難うございました。

出来ましたら、本庁でお話を伺いたいのですが。」


あまり動じなさそうな3人だが、この時ばかりは言葉を失い、キョトンとしたまま、ただ頷くだけだったという。




ところが容疑者、金山正太の正体が分からない。


免許証から、この名前だけは分かり、そこから仕事先は判明した。


城南島にある倉庫会社に勤務しており、無遅刻無欠勤で、真面目に働いているらしい。

ところが、職場に申請している住所も、免許証に記載されている住所も元実家らしいが、空き地になっており、ヤサである現住所が分からない。


それに加えて、本人が何を聞いても、


「答えません!。」


と黙秘を貫いており、夏目の圧でも、一言も発しない。

押収した携帯から、原田が探ってくれているのが頼みの綱になってしまった。


北条貴也と篠原和彦の事情聴取に掛かろうとした時、太宰と甘粕が戻って来た。

貴也の母、花梨が真っ青な顔で一緒に居る。


「玄関で一緒になったんだよ。貴也君は?。」


「皆さんお怪我も無く、ご無事です。」


3人を待たせていた、五課のソファー席に連れて行くと、誰かが何か言う間もなく、母に抱きつく貴也。


既に母の背丈は超えているし、花梨は若く見えるので、年上の彼女を人目も憚らず抱きしめている若い男にしか見えない。


篠原は苦笑し、尊に至っては苦虫を噛み潰した様な顔になっている。


「大丈夫?。別に来なくて良かったのに。」


「来るでしょ〜?。襲われそうになったなんて聞いたら…。」


貴也から離れると、篠原に礼を言っており、旦那はほったらかし。

そろそろ何か言いそうだなと甘粕が思った瞬間にやっぱり尊は言った。


「ねえ、俺はあ!?。俺だぜえ?。犯人相手にしたの〜!。」


「ごめんごめん…。後でゆっくり言おうかと思って…。お怪我は?。」


「大丈夫。」


と言いながら花梨の手を引き、自分と貴也の間に座らせてしまう。


本当に子どもの様な男だが、ずっと貴也を気にしているのは一目瞭然だ。

問いかけると、五月蝿がられるせいか、言葉には出さないが、通報を受けて夏目が行った時も、

『貴也、向こう向いてろ。』

と言って、犯人を見せまいとしていたし、今も花梨が来るまで、時々心配そうな目をして貴也を見ていた。


貴也は不安そうな顔は一切見せなかったが、花梨が来て、安心しきった顔をした事で、矢張り怖かったのだと分かった。


男の子とはいえ、まだ15歳だ。

それが人体切断目的で拉致されそうになったのだから、恐怖を感じない訳がない。


3人別々に事情聴取をし、貴也には母親に付き添って貰い、太宰が話を聞いた。


「親父が叫ぶまで、全然気配を感じなかったんです。」


「普段から気配は感じる方?。」


「はい。1メートル圏内に入ったら、まず気付きます。

でも、もう既にかなり近かったんですよね。タックルしようとした親父の肩が俺に触る位だったから。

なんで気づかなかったのかな…。」


「それはお父さんも篠原先生もしきりと仰っていた様だね。夕暮れの薄暗がりとはいえ、2人共、急に現れた気がしたと。」


「そう、そんな感じでした。」


父親の剣道歴は別格としても、篠原も貴也もかなりの年数の剣道歴があるし、普段から気配には敏感らしい。

増して、今は厳戒状態だから、尚更過敏になっているだろう。

なのに、何故3人共気付かなかったのか、太宰も不思議だった。


「篠原先生の証言だと、既に棒の様な物を貴也君目掛けて振りかぶってたって事だから、それなりの距離だったのにね。不思議だね。」


「はい。」


想像した母親の方が怖くなってしまった様で、貴也の手を握る手に力が入り、貴也はその手を両手で包み込む様にして握り返した。


「大丈夫だよ。母さん。ていうか、太宰さん。」


「うん。」


「なんで俺の学校、バレたんでしょうね。制服も無いのに。」


「そこなんだよな…。奴の勤務は、朝8時から夕方5時半迄で、貴也君をストーキングするには時間が合わないし…。」


「俺は家の地下駐車場から親父と出て行ってるし…。」


「そうだよね。」


「共犯が居る?。」


それは、太宰の頭にはとっくに浮かんでいる。

白川愛美がどんな生活をしているのかは知らないが、ストーキングはお手の物だろう。


YouTubeでなのか、実際になのかは分からないが、貴也に目を付けて、調べながらストーキングをし、そして何を企んでいたのかと想像するのもおぞましいが…。


「まあ、そうかもね?。」


「教えてくれないんですか?。」


「うん。そんな事より貴也君はね。」


「ーん?。はい…。」


「今日はゆっくりして、お母さんに甘えて、よく休んで。ちゃんと警察が護衛するから。」


貴也は困った様な顔で笑った。


「ーそうですね…。あまり実感湧かなかったんですけど、母と太宰さんの反応見て、やっぱり怖かったなって思いました。」


「お父さんもだよ。何も言わないけど、君の心配しかしてないぞ。」


「そうですねえ…。あの人があんなに必死な形相すんの、初めて見ました…。なんで待ってねえんだって怒るかと思ったのに…。」


「それだけ心配って事だよ。」


黙っていた母も言う。


「そうよ…。理由の如何を問わず、遅れた自分が貴也を危険に晒したって責任感じてると思う…。」


「ふ〜ん…。」


可愛くない返事ではあるが、父の思いが伝わった様子は、太宰にも分かった。


甘粕の家とはまた別だろうが、この親子も色々あったのかもしれない。


単なるベッタベッタの甘え倒すマザコンとは違い、貴也は子どもなりに、母親を守っている様に見えた。


長年、仕事ばかりで母子家庭と誤解される程不在だった様だし、母の病気の事もあり、幼い頃から父の不在の中、自分が母親を守らなければと思って来たのかもしれない。


父親への反抗的態度にも、思春期というだけではない理由があるような感じだ。


恐らく、父親はそれを承知して、そして悔いている。


和解出来るといいなと思いながら4人を帰して、オフィスに戻ると、北条尊の聴取をした甘粕が顔を上げた。


「北条尊が抑えつけている間中、奴は『絶対バレない』と呪文の様にずっとブツブツ言っていたそうです。」


「なんだその確信は。」


その問いに答える様に、原田が足音けたたましく入って来ると同時に叫んだ。


「ヤバいよ、カチョー!。」


「どしたあ!?。」


「携帯のデータ、全部消してやがった!。しかも、クラウドには一切残してないっつー!。」


「つまり!?。」


「つまり、奴のネットデータは何も無いって事!。」


「なぬうううう〜!?。」


「まあ、でも、携帯番号だけは分かるからね…。そっから辿ってみるから、ちょっと時間頂戴っつー事よ…。」


「そっかあ…。悪いね、原田。宜しく頼む。」


しかし、そうなると、物証の類いは一切無く、貴也の拉致未遂でしか起訴出来なくなってしまう。


「こうなったら、何でもいい。どんな些細な事でもいいから、金田正太に関して調べまくって、揺さぶり掛ける。

それと同時に、夏目の読みに沿って、白川愛美との接点を探る。

金田と白川の関係性は掴めねえが、金田に関して調べを進めりゃ何か分かるかもしれない。

甘粕は俺と金田についての聞き込み、夏目は原田と白川との接点探ってくれ。」








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