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リア住怒りの鉄拳 ~仏の顔もサンドバッグ~  作者: 鵜狩三善
忘れじの君

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みっつの拒絶

 闇を裂いて、緑光が走る。

 光は白昼の如く夜を染め、山中の木々を薙ぎ払い、焼き払った。

 高熱を伴う強烈な攻撃的可視光は、超圧縮された霊素が熱線へと変じたものだ。複雑な霊術的儀式なしに斯様な破壊を現出させるこの閃光の正体を、ミカエラは知っていた。


 打神(だしん)。そう名付けられたアーダル十二洞府の産物だ。砲口の内外に複雑精緻な霊術紋を刻印し、術式を簡略化しつつ強大な霊術砲火を放つ巨砲である。カタログスペック上は凄まじい火力を誇りながら、それは今日(こんにち)まで実戦で用いられた(ためし)のない兵器でもあった。

 何故ならこれを手がけたは、学者馬鹿に堕した現在の工房であるからだ。

 自身の探求心のみに狭窄(きょうさく)した頭でっかちどもからは、破壊力に関する以外の配慮が抜け落ちている。ためにこの砲は、一射ごとに莫大な霊素消費を要求した。この砲撃コストを賄うには、祈祷塔や祈祷炉からの霊素供給が必要となる。そして安定した供給のためには、砲と供給源とが強固かつ精密な回路で固定されていなければならなかった。


 つまり打神とは、運搬どころか自由な回頭も覚束(おぼつか)ない兵器なのだ。

 更には命中精度が極めて悪く、射程が短い。子供が石を投げた方がまだ当たる、まだ届くと酷評されたほどだ。

 数を揃えることでこの欠点を補おうとすれば、再び射撃のコストが足を引く。固定砲台としてすら運用が難しい、使い物にならない張り子の虎に他ならない。

 

 が、今。

 ミカエラとネスを追い詰めるのは、張りぼてのはずのその巨砲だった。

 前述の通り、打神は欠陥だらけの代物である。しかしミカエラたちの眼前にあるのは、異形の霊動甲冑に装着されることで自身の欠点を克服した砲塔だった。

 確かに霊動甲冑の武装とすれば、打神の抱える問題は解決される。

 この巨大具足には、動力として飛空船に用いられるのと同型の祈祷炉が搭載されている。その出力は砲への霊素供給源として十分であろう。また甲冑そのものに武装を組み込むのだから、二者の回路設計にも問題はない。そして霊動甲冑の速力で機動しつつの射撃であれば、射程と命中精度を補いもできよう。


 だが、ためにこの甲冑は、おかげで甚く珍奇な形状をしていた。

 両肩に二門の砲塔を設けたがために腕の位置は不格好に下がり、また上体がひどく前傾している。砲火の衝撃を支えるためか、下半身は甚く太い。折りたたんだ足は人のそれより獣に近く、事実、それは前腕を用いた四つん這いの機動を行っていた。


 あり得ないことである。

 封入式霊動甲冑――カダインの甲冑と呼ばれ、成人男性の背丈の倍を優に越える巨大具足は、通常、人の似姿を取る。甲冑繰りとは霊術的精神同調により甲冑に接続し、具足を己の五体そのものが如く操る技であるためだ。甲冑が人の形を外れれば、搭乗者はそれを自身の肉体と認識しがたくなり、ゆえに同調難度は跳ね上がる。ネスの甲冑が盾籠手(シールドガントレット)程度の武装しか備えないのもこの理由からだ。

 もし霊動甲冑が汎用兵器であったなら、巨大具足が用いるに合わせたサイズの、やはり汎用的な武具が用意されもしただろう。しかしながら甲冑繰りの才はおよそ天与であり、資質を持つ者自体が非常に少ない。稀有な繰り手のために、アーダルはその技術を裂かなかった。

 否。裂いていないと公表してきた。


 つまりこの異形具足は秘匿されてきた技術であり、その存在が意味するのはアーダルの闇である。

 魔皇討伐に運用した以上の兵器を、極秘裏に保持していたことの証左だった。

 異形具足に登頂可能な繰り手の確保、打神を具足で運用すべくのチューン。これらの支度は一朝一夕で調えられるものではない。アーダルという国が密やかに備えてきた軍事力に相違なかった。

 何のために用いるつもりの戦力であったか、ミカエラに全てを憶測することはできない。

 だがひとつ確かなのは、自分たちの発見した時限呪、心魂工房による死の刻印は釣り絵であったという事実だ。

 これの解呪に成功した作品(・・)たちは、欣喜雀躍することだろう。そして自由を得た信じ、下克上を為しうると錯覚する。となれば少なくとも、これまでの待遇の改善を、奴隷に近しい扱いの改正を求め出そう。

 だが、それは鳴子縄だ。

 増長した彼らの奢りを叩き潰せるだけの手駒を、国は準備している。成功と希望の足元をすくい、自分たちが物に過ぎないと思い知らせる仕組みを、(かね)てより用意している。

 全てはアーダルという国家の手のひらの上というわけだ。

 この認識が、ますますミカエラに(ほぞ)を噛ませた。自らの見通しの甘さを恥じざるを得ない。


 が、わずかな救いもそこにはあった。

 となれば友の、セレストの翻心(ほんしん)もまた、王城の仕掛けのうちということになる。ならばあの大雑把な男の本心はそこにない。霊術か我法かは知れないが、アーダルが施したろう向精神作用を除けば、まだ彼を取り戻しうる見込みはある――。



 セレスト・クレイズが敵に回ったあの夜、友の火術に、遠慮会釈のない攻撃の意志に晒されたミカエラは、状況ただならぬを察して駆けつけたネスの霊動甲冑により守られ、そのままアーダルを逃れた。

 国自体が敵に回ったことは最早明らかである。

 ならば庇護を求める先は、ミカエラたちにとってもっとも有効的なテトラクラムしかあり得なかった。この新造都市は三国合同の出資を得ており、実質的には独立国家に近い。アーダル国軍といえども、他国へは干渉しがたかろうからだ。何よりその地に集まる顔ぶれを頼れば、セレストを救い出すことも不可能ではないと思われた。

 が、無論ながら追手がかかった。

 追うは二領の霊動甲冑。

 一領は、打神を装着した異形具足。

 もう一領は通常の人型甲冑だった。打神をダウングレードしたようなだが小型の霊術砲を備えてはいたが、こちらの役割は攻撃ではなかった。ネスの機体に装着されたものよりふた回り以上大きな盾籠手(シールドガントレット)を備え、異形具足の盾として立ち回るのだ。

 それでもこの二領がただの霊動甲冑であったなら、ミカエラとネスは追撃を打ち払ってのけたろう。


 けれど、違った。

 ふたりを追う両名ともが我法の使い手であったのだ。

 これもまた驚嘆すべきことである。ただでさえ希少な繰り手に、より希少な我法使いを()てがうばかりか、何よりも自身の観念を、個を優先する我法使い同士で徒党を組ませ、命令に順守させているのだから。

 アーダルの用意周到を重ねて思い知らせる支度であり、それだけにこの二領の連携は厄介だった。

 異形具足の繰り手が至るのは、追うことに特化した法であるらしかった。おーん、と犬の遠吠えめいた異音とともに撃ち出される砲火は、異常の誘導を見せ、ネスの回避を嘲笑うかのように装甲を抉った。打神による霊術射撃のみではない。犬鳴きを纏った投擲物もまた、同じく異常な追尾を見せた。

 射線が通らずとも降り注ぐ遠隔攻撃は、逃げるふたりの神経を甚く削った。


 大盾具足の我法は、これと噛み合って嫌らしい。

 異形具足のものと同様に、こちらも怪音を発する法である。ごりごりと臼を挽くが如き鳴動の直後、闇が広がる。一切の視線を通さぬ、夜よりもなお暗い漆黒である。これがためにミカエラは、弓による攻勢を行えなかった。流石の彼の目も、法の闇を見通せはしない。それは我法執行者の、昏黒の精神性の具現だからだ。人の心の闇など、どんな視力も見抜けはしない。

 当然ながら、異形具足の砲撃はこの黒の中からも来る。闇は追手たちの視界も塞ぐようだが、遮蔽も射線も、この機体の追尾我法には無関係なのだ。

 対峙は幾度となく生じたが、いずれもミカエラたちはじりじりと劣勢となり、逃げ延びるしかない結果に終わった。

 ネスフィリナを守り切れない不甲斐なさを、相手が見えずとも面で焼き払う相棒の不在を、ミカエラは幾度も噛みしめねばならなかった。


 そして、おそらくは異形甲冑の法の機能に()るものだろう。

 追手は常に、ミカエラたちの現在地を把握するようだった。ゆえに彼らの襲撃は余裕を持って自在であり、つかず離れず、見失うことなく長距離の追撃を継続し得た。

 この法による追跡がなければ、ネスの甲冑を捨てるなり、二手に分かれるなりの手段も取れたろう。しかし我法の前で(ろう)する策は、ただの戦力分散になりかねない。どういう対策もできず、ミカエラとネスは十分な睡眠も食事も取れぬまま、ただ削られながらの逃避行を続けるより他になかった。

 明らかに、嬲られていた。あちらがその気なら、討ち取る機会も捕らえる機会も幾度となくあったろう。


 けれど、彼らはしなかった。

 くすくす、くすくす、と。

 人型具足の繰り手が折に触れ笑いを漏らす。少女のものらしきそれには、明らかな愉悦があった。遊んでいるのだ。

 それは数瞬前に山肌を焼いた緑光にも言えることだった。

 おーん、と我法の響きを宿した霊術砲火も、ネスを掠めるのみに留まっている。樹木を焼き払い、岩土を爆ぜさせる破壊を示しながらも、だ。

 そうなるように、わざと外しているのだ。獲物を弄ぶ猫のようなやり口だった。

 それでもミカエラは、この傲慢に感謝している。テトラクラムまでもう間もなくの地点まで来ていると、彼の目が教えるからだ。後は自分が死力を尽くして殿(しんがり)を務めれば、ネスフィリナだけでも頼れる仲間のもとへ送り届けるが叶おう。


「ネスフィリナ様。いや、ネス君」


 仲間としての信頼を込め、(あるじ)の名を呼ぶ。

 セレスト・クレイズに対するミカエラの評価は、諦念5割、尊敬5割で構成される。後者の中でもっとも重きを成すのは、ネスへの扱いだ。

 当初、ミカエラは彼女を貴人として遇し、王族として接した。王の言葉が発端なれど、自ら仕うべきと思い定めた相手である。彼にとっては当然の行動だった。

 それを一蹴したのがセレストだ。

 彼は他愛のない遊びも、生きる知恵も。正面から向かい合ってネスフィリナに教え込んだ。

 そのさまを見て気づいたのだ。何よりも、彼女が子供であることに。守られるべき、愛されるべき存在であることに。

 自分がセレストに教わった何より大事なことはこれだったと、ミカエラは思う。

 だから。


「これより私が血路を開く。テトラクラムまではあとわずかだ。迷わず駆けたまえ。君ならば必ずたどり着くと、そしてあの男を取り戻すと信じている」


 二領の具足に目を据えたまま、ネスの甲冑の掌上に立ってミカエラは告げる。

 だから、この決意は諦念ではない。未来を繋ぐための意志だ。

 これまでの移動にはずっと彼女を、彼女の繰る甲冑を頼ってきた。繰り手であるネスも、相当疲弊していることだろう。だが、そのおかげで自分は温存できた。

 殺意なく、ただこちらを嬲るつもりの霊動甲冑であるならば、ネスが距離を稼ぐのに十分な働きができるはずだ。


「!!??」


 その思いに対し、ネスが否定を意志表示する。

 守られてばかりだと、ネスフィリナ・アーダル・ペトペはそう思う。それで、小さな拳をぎゅっと握った。

 他者の心に(さと)いこの娘は、ミカエラの覚悟を感知している。

 それは駄目だと彼女は考える。それは自分の役目だ、と。

 だって彼は、自分の騎士は、自分よりずっと強くて、ずっと賢い。あの人を助け出す手立てだって、いくらでも打てるはずだ。何よりセレスト・クレイズのとして、ミカエラは誰よりも有能なのだ。

 なら、いなくなるのは自分がいいに決まっている。

 それは初陣の時にもできた決断だった。

 ただし、あの時の境地は覚悟ではなかった。あの時はただ、惜しくなかっただけだ。死ぬのは怖かったけれど、強く生きたい理由もなかった。

 あの頃の自分は物に近かった。言われるがまま、命じられるがままに動く作品だった。

 両親の顔は知らない。覚えていない。世話をしてくれるのは王城の女官長だったが、それもまた事務的なものだった。向けられるのは実験動物に対する厚意であり、実験動物に対する細心だった。

 事実ネスには、ミカエラとセレストに出会うまで、自分の名を呼ばれた経験がない。だからふたりは初めて自分を呼んでくれた人々だった。ネスフィリナを人として、子供として扱ってくれる家族だった。


 ――寄りかかっていいぞ。お前はまだまだガキなんだからよ。


 言いながらぐしゃぐしゃと、乱暴に撫でてくれた手を覚えている。


 ――なにせ。オレは特別だからな。


 傲慢を気取って(うそぶ)く、その背中を覚えている。

 

 あの人がここに居てくれたなら、どんなに心強いだろうかと思う。

 けれど今、彼女の太陽はここにない。ならその間は、自分がせめてもの代わりを務めたいとネスは思う。

 彼らのおかげで、自分は生きていたいと思えるようになった。

 そうしてくれた人たちのために、死地へ臨むは幸福だろう。

 ずっと嫌だったのだ。

 嫌なことを嫌とも言えず、ただ頷くしかできない自分が、大嫌いだった。

 だから彼女は、ミカエラの言いに(がえん)じない。

 彼女の意固地な拒絶を見て、ミカエラは困ったふうに笑う。そうして(げん)を重ねようとするより早く、ネスは甲冑の腕を振り、手の上のミカエラを投げ飛ばした。当然、彼ならば問題なく着地できる速度と高度を選択している。

 そうしてできた距離を、その状況を、彼ならば無駄にはしないはずだった。

 信じているからその後を確かめもせず、ネスは二領へ機体を向け、身構える。


「気に入らない。気に入らないなあ」


 そのさまを霊動甲冑の知覚経由で感知して、人型具足は少女の声で吐き捨てた。

 あれの中身が、アーダル第三王女だと少女は教えられている。

 だから、庇い合うその姿が余計に気に入らなかった。

 絶望なんてしたことのないだろうお姫様。死ぬほどお腹を減らしたことも、動けなくなるほど喉が渇いたこともないだろう、幸せなお姫様。

 そんな人間の覚悟の姿など、少女には唾棄すべきものとしてしか映らない。ぬくぬくと守られたまま、立場と状況に酔ってする小芝居としか思えない。


 ――ほんっとうに、気に入らない……!


 少女が生身であったなら、苛々と爪を噛んでいたことだろう。


「ねえ!」


 苛立ちのまま、僚機へ声を張り上げる。


「駄目だ。どっちも殺すなって、王様が言っていただろ」


 それだけで少女の意を汲み、異形具足の中から少年が答えを返す。

 確かに少女は、そのような指示を受けていた。

 追い、しかし殺すな。テトラクラムへ必ず追い込め。生かしたままそうすれば、獲物は土産を連れて、再び舞い戻ってくる。


「でもさあ」


 ねだる響きで、少女は食い下がった。

 どういう人間かよく覚えていない(・・・・・・)。だが少年が、自分にひどく甘いことを彼女は知っていた。

 ため息のようなひと呼吸ののち、少年の(いら)えがあった。


「片方だけ、霊動甲冑の方だけだぞ。手加減を仕損じたことにすれば、王様もそんなには怒らないだろう」


 うん、と少女は弾んだ声を上げ、それからじろりと強くネスを()めた。


挽法(ばんぽう)空臼(からうす)


 ごりごりと、臼を挽く音が始まる。

 黒が広がる。それは光の遮蔽で生まれる影などではない。濃霧めいて立ち込める心の闇、半ば実体を持ち粘りつく漆黒だ。

 それは少女と少年の機体のみならず、ネスをも包んで闇に閉ざす。


「太陽の下で守らてたお姫様がさ、日が沈んだ後に何ができるのかな。だぁれも、暗い夜から逃げられないのに」


 甲冑のうちで、少女が唇を歪ませる。


「猟法・犬無し」


 少年の声が続く。おーんと、遠く、犬が吠えるような響きが生じた。獲物を嗅ぎつけたかのように、見定めたかのように。そうして法が、異形具足の打神に宿る。

 闇に何もかもを隠し、狙い撃つ。

 攻撃の予兆どころか砲撃の来る砲口すら掴ませない、必殺の構えだった。

 これまでと異なり外す気のない、真正の殺意がそこにある。


 対してネスは、自身を抱くように体へ腕を絡めた。

 手足や頭を撃ち抜かれたって構わない。胴を、封入部分を守り切れさえすれば、まだ動ける。まだ盾になれる。もう一射分、時を稼げる。

 それは、そうした捨て身の防御だった。

 無論犬無しの誘導は、そんな防ぎに左右されない。霊術砲火は異常の曲線を描いてその腕を掻い潜り、装甲の薄きを穿って搭乗者を射止めるだろう。

 その瞬間が見れないのが残念だと少女は考え、ひとつ思いついて酷薄にまた笑んだ。


 そして、打神の発射音がした。

 光線の照射に、通常、音は伴わない。焦げ臭く、そしてキーンと甲高いそれは、大量消費される霊素の悲鳴だ。

 法の圏内で放たれた緑光は、砲口の向きとはまるで関わりなく上空へ飛んだ。そして空臼の闇を抜けると同時に反転。頭上から霊動甲冑の頸部可動部分、人体で言うなら(ぼん)(くぼ)を貫く軌道で落ちかかる。

 その発射音と同時に、少女は我法を解いていた。見たかったのだ、死の瞬間を。

 従って視界が開けはしたが、ただ一瞬のことである。それでネスに弾道を知覚できるはずもない。気づけたところで、彼女に反応は叶わない。

 が。

 打神の閃光は、直後、不条理に消失した。

 まるで初めから存在しない夢であったかのように。或いは、何かに手ひどく拒まれたかのように。


「えっ?」

「な!?」


 愕然と声を上げたふたりの新型甲冑繰りは、次いでありえぬ影を見た。

 打神の砲火の余韻も残さず、ネスの霊動甲冑、そのわずか上の中空に、ふわりと揺蕩う人影を見た。


「女の腹より出でしもの――この身、傷つくること(あた)わず」


 歌うように、美しい声が告げた。

 宣誓を。干渉の拒絶を。


「気鬱晴らしに散策と洒落込めば、思わぬ再会があったものだ。手助けはいるかな、カダインの甲冑繰り」


 その影の名はラーフラ。

 魔皇ラーフラといった。

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魔皇様ぁ! 気鬱の原因が分かりやすい魔皇様じゃないですかあ!!
出落ち魔王!出落ち魔王じゃないか!?今日はもっと格好つけていいぞ!
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