最終章:救いの手
マイクさんは戻ってきて、あの2人が出ていったのを報告した。
外では盛んに銃声が響いている。
ミキシルさんはすっかり落ち着いて、ただボソッと「良かった」と言っていた。
―――外で、しかもかなり近くで、悲鳴がした。
「喰われたか。」
マイクさんは真顔で言った。
何というか、俺もこの時、心地良さを感じずにいられなかった。
人間なんてそんなモンなのか。
「クイル、お前はズーナ教信者か?」
「え?」
急にマイクさんが話しかけてきた。
「いえ、違います。」
「そうか。神の存在は信じるか?」
なんだ? 突拍子がなさ過ぎる…。
「別に…俺的にはどっちでもいいですが。」
「神……まぁ、ズーナ教の女神のラス・ブラムに関してはだが、善人にはかならず救いの手を差し伸べてくれる。逆に、悪人にはそれなりの制裁を下す。」
「はぁ…。」
「分かりやすすぎるくらいの善悪観だが、それが今実証されたな。」
そういって、ニヤッと笑った。
マイクさんはズーナ教信者なのか…。
「アジトを防衛用に教会に似せて造るという案も、最初は反対したんだ。神への冒涜だってな。でも、いつでも自分のアジトでラス・ブラムを拝めることになったんだ。結果オーライってやつさ。」
「そうですか。」
あの2人が外で喰い殺され、俺たちは中で生き延びるのが、善への救済と悪への制裁だと言っているのだろうか?
―――どうなんだ?
少なくとも俺は、決して善人なんかではない。
人の死を確認して心地良さを覚えるような人間だ。
それがどんな悪人の死でも、それに心地良さを覚える人間を善人と呼べるのか?
そもそも、あの2人も悪人と言っていいのか?
今思えば、彼らには彼らなりの正義があったのかもしれない。
人の歩んできた人生なんてそれぞれ違う。その中で構築する自分の信念もまたしかりだ。
何を基準に善と悪だ?
そう考えると、外を走り回る人喰いたちも、悪と呼ぶのは早計かもしれない。
…いや、自分たちを殺しうる存在はまず、俺らからすれば悪だ。
でも、その悪に殺された善が悪と化してまた善を襲うこの状況。
もし神様が実在するなら、いつ救いの手は差し伸べられる?
バ―――――――ン
「!!?」
銃声と、窓ガラスが割れる音が同時に響いた。
音の方向を見やると、何体もの死者に組み付かれて傷だらけのカールが、窓の向こうでこちらにショットガンを構えている。
そしてその銃口から煙が漂っている…!
…間違いない。
「ハハハハハハッ!!! お前らも道連れだァアッ!!!」
そのまま異常なテンションで高笑いしながらカールは引きずり倒され、断末魔を発した。
カールを貪るヤツらの中に、コマーの成れの果ても混じっている。
マイクが叫んだ。
「全員2階へ上がれ!!! 窓から脱出する!!!」
―――とりあえず、現時点でカールは紛れもない悪だ。




