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その後俺は用を足して礼拝堂に戻った。
トイレでベルトにどんな顔して会えば良いのか悩んでいたが、ベルトはそこにいなかった。
不可解に思いながら戻ったら普通に寝てやがる。
みんなが寝てる間に戻ってきて寝始めて、それに俺は気付かずにトイレに行ったのか。
…そんなことはどうでもいい。
早く寝よう。
ネムさんも早く戻ってきて寝ればいいのにな。
そんなお節介を勝手に焼きながらタオルケットをかけ、早々に眠りについた。
――――――
翌日。
せっかくネムさんも戻ってきてまたいつも通りになったと思ったのに、カールとコマーがついにやってくれた。
「もう耐えられん! 俺たちはここを出る!」
急にそう叫んだのだ。
2人はショットガンを携えていた。
マイクさんは一向に冷静で、「じゃあ好きにしろ。」と、2人を一瞥さえせずに言った。
「ああ、好きにするさ! せっかく救援隊が来てるんだ! それが全滅する前に逃げ出す!」
「あのヘリが救援隊と決まったわけではないのよ。」
ターネックさんが言った。
「んなことは分かってるよ。でもこんな辛気臭ぇところ、脱出したほうがまだマシだ。」
コマーが言った。
「なら早く出ていけよ。俺もお前らが出て行ってくれるならせいせいするしな。」
「何だと?」
マイクさんの挑発にカールが簡単に乗ってきた。
いつも以上の形相でマイクさんに詰め寄る。
座っているマイクさんも眉をつり上げてカールを見上げた。
「俺は何より、お前のその態度が気にいらねえんだ。若造の分際で、何様だ。」
声の調子がいつ聞いたものよりも、低く、力強く響く。
ちょっとただ事ではない。
何となく周りの様子を見てみると、ターネックさんはマイクさんと同じように冷静に座って成り行きを見守っている。
ミキシルさんは唇をかみ締めてカールを睨んでいる。手も強く握り締められていた。
ネムさんとベルトはいつものように、寄り添って怯えていた。
一瞬2人が仲直りできた事に安心したが、それどころじゃないのにすぐ気付いた。
「何とでも言え。出てくんなら、助けてもらった恩ももう関係ないだろ?」
「そうだな。」
そこでカールはニヤッと笑って、いきなりマイクの胸倉を掴み、無理矢理立ち上がらせた。
さすがにこの不意打ちにはマイクさんも驚いたようだが、それを表に出さないようにしているのも分かった。
カールは確かにかなり力が強そうな体つきだし、実際そうなのだろう。
本気のケンカになったら、素手でマイクさんが勝てる相手ではないかもしれない。
「なら最後に1発、テメエのそのツラ殴らせろ。」
カールの握り締めた右手に青筋が浮かび上がる。
マイクさんはなるべく平静を装いながら、カールを睨み続けた。
そして、「なら殴れ。」ととんでもないことを言い放った。
カールがいよいよ右手を後ろに振りかぶり始めた。
これはさすがにヤバイ…!
かといってどう止めれば?
俺があの腕にしがみついたって、そのままマイクさんは殴られて俺も一緒に投げ飛ばされる。
そう思えるくらいの腕っぷしだった。
急にミキシルさんが動き出した。
で、歩きながら、足についた鞘から、あのでかいナタをジャギンと音を立てて抜いた。
「!?」
俺だけじゃなく、マイクさんもカールも、その音で異常を察知した。
カールはとっさにマイクさんを掴んでいた腕を離して後ずさったが、ミキシルさんの歩くスピードが全く緩まない。
「いい加減にしろやクソ親父!!!」
聞いた事もない怒声をあげながら振り上げたナタのその勢いに、躊躇がなかった。
「やめろ、ミキシル!」
マイクさんが後ろからミキシルさんの腹に手を回してミキシルさんを抑えた。
「離せ!! コイツを殺してやる!!!」
ミキシルさんとは思えないほど怒っている。
カールもその迫力に表情が強張っていた。
しばらくしてようやくミキシルさんはナタを降ろし、近付こうとするのをやめた。
息は荒いが、マイクさんが手を離してももうカールに襲い掛かることはなかった。
「ったく、こんな所にはいられねえ!」
カールがそそくさと、俺が最初に入ってきた通路の方へ走っていくと、コマーも慌ててその後を追う。
マイクさんも続いた。
2人が出て行った後に鍵をかけるためだろうな。見送りとは思えない。
で、ミキシルさんの方を見ると、怒ってはいるようだが、普通の表情だった。
何だったんだ、さっきのは…?
マイクさんが抑えなかったらホントにカールを殺す勢いだった…。
なんか、ようやくここのメンバーになじめてきたと思っていたが、よく話すミキシルさんのことさえ全然何も知らなかったんだなと思い知らされた。
久々に冷や汗というものをかいた。




