4-6
その湿った空気のまま、その日も就寝時間になった。
就寝になっても緊急時に備え、蝋燭はつけっぱなしだ。
もちろん、朝になれば燃え尽きているが、その日は蝋燭が燃え尽きる前に、尿意を催して目を覚ました。
周りは皆寝ているので、1人で勝手に蝋燭を持ってトイレに出かけた。
トイレへの通路へ入って、2、3歩進むと、すすり泣きが聞こえてきた。
「?」
寝惚けていた俺は、そこでようやく、夕食時にあった出来事を思い出した。
明かりを持って泣き声の方へ近付く。
どうやら、右側の3つの部屋のうち、扉が開いている真ん中の部屋から聞こえてくるようだ。
その部屋は、俺が初日にここを通った時、扉が閉まっていて唯一中を確認できなかったところだ。
扉の前に立つと、明かりで何もおかれていない小ぢんまりとした部屋の奥に、うずくまる人影が見えた。
更に中に入ると、それはやはりネムさんだった。
「ネムさん?」
寝ないでずっと泣いてたのか?
いくらベルトを溺愛しているとはいってもそれは…
「…クイル君?」
「すいません、トイレに起きてきたんですけど、声が聞こえてきたもんで、つい…。」
「ううん、私こそ、こんなとこで泣いてちゃ気味悪いよね…。」
ネムさんが涙を拭きながら謝ってきた。
「…ベルト君はそんなに、弟さんに?」
今思えば、聞かない方が良かったかもしれない。
でもネムさんは取り乱したりはしなかった。
「…うん。グレンっていってね。可愛い子だった。」
それから何も言えなかった。
顔も知らないグレンが、その後どうなったかは知っていたからだ。
それをネムさんの口から語らせるのはあまりに酷だ。
「でもやっぱりベルト君は、私の弟じゃないんだよね。」
「え?」
「あんなワガママ、グレンは言わなかった。やっぱり、ベルト君はベルト君なんだね。グレンに似てるからって、まるでグレンの代わりみたいに接してた…。ひどい話だよ……」
ネムさんはまたそこで顔を膝に埋めて、震え始めた。
なるほど、ベルトに怒鳴られたショックだけじゃない。
その様子で結局もう、グレンはいないんだということを再確認してしまったんだ。
普段あんなに笑顔でベルトと話していたネムさんとは思えないほど落ち込んでいる。
俺はやはり、何も言えず、部屋を出ることにした。
今はマイクさんが言ってた通り、そっとしておいた方がいい。
俺も同じように、身寄りを全員亡くしたのに、どうしてこんなに平気でいられるのだろう。




