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その日、夜。
照明は落とし、明かりは蝋燭だ。
外のヤツらを刺激しないためである。
「ベルト、何食べたい?」
ネムさんがいつもみたいに缶詰の山のふもとでベルトに問いかける。
いつもなら、ここでベルトが何でもいいと言う(いつも何でもいいなのに、毎日この問答は繰り返される)ハズだが、今日はベルトは何も言わない。
しかも珍しく、塞ぎこんだような顔をしている。
「…ベルト?」
この異常事態に、ネムさんが笑っていられるはずはない。
「いらない。」
低めの調子でベルトが答えた。
こんな時に反抗期か? と俺はコンビーフを食べながら見ていた。
「いらないじゃないわよ。食べなきゃ。」
「いらないよ! もうこんな缶詰いらない!」
叫ぶと、ベルトは癇癪を起こしたカールかコマーみたいに何処かへ走り去っていった。
「あ、ベルト! 待ちなさい!」
ネムが後を追う。
2人とも明かりを持っていかなかったから、いつ何かに躓いて転倒するか分からない。
「見てくる。」
マイクさんが蝋燭の立った燭台を片手に歩いて2人の後を追った。
「ベルト君どうしたんだろ…。」
心配そうにマイクさん達の行方を見つめるミキシルさん。
「けっ、ガキが贅沢言いやがって。」
クチャクチャ音を立てて不愉快そうに飯を食うカール。
「アイツの気持ちは分からんでもないな、私は。いい加減飽きた。」
ターネックさんも誰にともなく呟く。
恐らくはベルトやターネックさんだけじゃない。
俺だってそうだし、他の皆も、きっとウンザリしかかってる。
ベルトなんか多感な年頃だし、我慢できなくなったんだろうな。
それで喚いて不満を発散できるのはまた羨ましいモンだ。
簡単な食事が済んで全員が静かになった。
話すこともないし、焼け溶けるロウの臭いをかぎながら物思いにふける以外、やることがない。
と、しばらくして暗闇で扉が開閉する音がし、乏しい明かりと共にマイクだけが戻って来た。
「ネムさんたちは?」
俺は思わず聞いた。ホントに自然と口が動いた。
「しばらくそっとしておいた方がいい。」
マイクさんはいつも以上に優しい目をして言った。
俺もそれ以上聞くことを避けた。
何かいつもより礼拝堂内が暗く見える。




