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と、話しているところへ、ドタドタと重々しい足音が近付いてくる。
今ここにいないアイツが来ているようだ。
「おい、今ヘリが通り過ぎなかったか!!?」
カールがメチャメチャ笑顔で言った。
初めてこいつの、こんなハツラツとした顔を見た。
珍しくコマーは来ていない。
「期待しない方がいいわよ。救助部隊かどうかは分からないから。」
ミキシルさんの言葉でまたカールは機嫌を悪くする。
「何故だ?」
急にまた低い調子で喋り出すから、そのギャップで笑いそうになった。
「機体に何の部隊なのか、名称が何にもかかれていない。SSFならそう書いてあるはずなのにね。」
「それがどうした!! こんな所にわざわざ飛んでくるんだ! 政府が異常を察知して助けをよこしたに決まってる! 部隊名だって、数が足りないから緊急で普通のヘリを飛ばしたかもしれん!」
なるほどと俺が納得しかけたところへミキシルさんが反論する。
「ヘリをよこすからにはこの状況がどれほどひどいか政府は認知してるはずよ。なら、尚更一般のヘリなんか飛ばすはずはない。大体SSFの所有するヘリ全部でこんな小さいソフホーズを捜索し切れなかったら、こんな国、コルゴサ戦争の時にとっくに滅んでるわよ。」
コルゴサ戦争…確か、母さんが言ってた、ソフホーズ施行直前にあった大きな戦争だ。
カールはいかにも面白くないといった表情で、わざわざドシドシと足音を立てて帰っていった。
「…でも、来ないかなぁ、助け。」
ミキシルさんがボソッと呟いたのが聞こえたが、反応しないでおいた。
明らかに、誰かに話しかけるような風ではなかった。
ミキシルさんも期待しているはずだ。
俺をはじめ、ここにいる全員がただ助かりたいだけなのだから。
別に、いちいち理屈を並べてカールやコマーに反論し、悪者扱いしたい訳ではない。
とにかく、死にたくない。
ただ、俺の中ではその希望は大分前に薄れきった。
今はこの状況がもう俺の日常になっている。
政府が気付けば、救助活動をしてくれると信じるしかない。
…政府が?
待てよ。
この惨劇に政府が関与してない保証は無いぞ。
もしそもそもの原因が政府にあったとしたら?
今俺たちは、外と全く隔絶されたソフホーズという檻の中にいる。
―――助けが来るはずがない。
救助ヘリを出す理由のでっちあげよりも、ソフホーズの機能を停止する理由のでっちあげの方が簡単だ。
いくら外の人間が怪しんだって、中の様子は結局分からない。
だから、だんまりをきめこんでおけばいい。
マスコミ連中がどれだけ騒ごうが、真実は誰にも分からない。
そうして事態が収束したら、こっそりと、人々の記憶の風化にかかる永い年月をつかって、証拠を隠滅し尽くせばいいんだ。
考えれば考えるほど、政府黒幕説の説得力が強くなる。
「どうしたの、クイル君? 怖い顔して。」
「え?」
急にミキシルさんに話しかけられて、俺の意識は現実の方へ引き戻された。
「あ、いや、考え事です…。」
「…そっか。」
ミキシルさんは深く突っ込まないでくれた。
どうせこんなこと言ったって、結局証拠がないから"有力な説"として受け止められるだけ。
そしてそれが的を射ていても、俺たちにできることは何もない。
ソフホーズは、本当の意味で監獄だ。




