3-3
次に目を覚ましたとき、頬が濡れていた。
慌てて拭いながら見渡すと、礼拝堂の照明が落とされ、近くの蝋燭だけが頼りなく床を照らしているだけだった。
「…あぁ……。」
夢の中で、俺はまだカトラスとミラと共にいた。
2人とも笑ってて、俺も笑ってた。
目を覚ませば、2人のいない薄暗い世界。
他の人達も大体眠ってる。
…もう誰が誰だったか分からない。
分からないけど、メガネの恩人が今ここにいないってのは分かる。
カチューシャ女は…ミキシルだったっけか、話しやすそうという第一印象のおかげで一目で判別できた。
だが、その隣で一緒に寝ているもう1人の女は?
黒服のネ……ネム? はここで唯一のガキと一緒に寝てるし。
家族なのかな。
まぁいい。
さっきから外から断続的に聞こえる悲鳴でいやでも気分が悪くなる。
食欲も出ない。
「…トイレ行きてえな…。」
こんな時に限って……。
立ち上がろうとして全身の筋肉痛を思い出した。
悪戦苦闘しながら立ち上がったものの、移動するだけで骨が折れる。
ヒーヒーいいながらやっと礼拝堂の壁まで到着した頃には汗だくだった。
壁にもたれかかって一瞬休憩する。
左を見ると、もうすぐ扉がある。
体を引きずるようにその扉の方へ近寄った。
ようやく到着して扉を開けると、その向こうは通路だった。
右手に扉が3つほどあり、突き当たりは右に折れている。
結構長いし、どこがトイレかも分からない。
「ああ、クソ…。」
そこまでギリギリでもないから、手前から見ていくか。
壁伝いにずりずりと扉ににじり寄っていく。
クタクタになりながら1番手前の扉を開けた。
それほど広い部屋ではなかったが、中は驚くほど多くの武器で溢れかえっていた。
銃や弾薬はもちろん、色んな長さの刃物も多くある。
「おい、何やってる?」
左から声がして見ると、いきなりまばゆいばかりの光が目に飛び込んできて思わず顔を逸らした。
「クイル? どうした。」
また話しかけてくる。
どうにか声の主を視認した。
メガネの恩人だった。懐中電灯を持っている。
「あ、あの、トイレに…。」
「ああ、それならそこを曲がってすぐだ。」
恩人が突き当たりを指差す。
ああ、また歩かなきゃならない…。
「ありがとうございます…。」
扉を閉め、重い足取りでまた歩き出した。
「どこか痛いのか?」
「まぁ、全身痛いです。かなり走ったので。」
「ああ、そうか。どれ、肩貸してやる。」
恩人はそういって歩いてきて、肩を貸してくれた。
「あ、ありがとうございます。」
「何、困った時はお互い様だろ。」
……やっと思い出したが、名前はマイクで良かったっけか。
良い人だな、やっぱ。
少し背丈に高低差があるのがちょっと歩きづらいが…。
と、よく見たら3つめの扉が開いていた。
前を通り過ぎる時、中を見てみた。
やはりそれほど広くはない部屋に、今度は色々布らしきものがある。
棒にくっついていて、大き目の布が……
―――あれ?
俺はすかさずマイクの顔を見た。
それにつられてか、マイクも俺の方を見る。
……ま、間違いない。
―――でも、こんな良い人が…本当に……?
「どうした?」
気付いたらずっとマイクの方を向いていた。
はっと我に返って、ほとんど反射的に口が動いた。
「マイクさん……レジスタンスなんですか?」
そうだ、確かにこいつは、記念祭の時に殴り込みをかけてきたレジスタンスの一味だ。
何処かで見た覚えがあると思っていたら…。
「そうだが?」
マイクは事も無げに答えた。
俺は何にも返事できずに正面を向き直った。
が、口が開きっ放しになっているのに気付くのに5秒くらいかかったと思う。
「俺がレジスタンスじゃ、何か不満か?」
「いえ…。」
確かに、不満はない。
命の恩人に、持つ不満など何一つない。
じゃあ、何なんだ、この奇妙な反抗心は?




