第3章:生き残り
アテもなく何分走っただろうか。
ただでさえ、さっきもう限界を超えるほど走っていたのだ。
なのに、目の前で友達が生きたままむさぼられていくのを見た後だからか、ヤツらに対する恐怖心が増幅され、そのおかげでどれだけ足が痛くても足は止まらなかった。
とにかく早くどこかに逃げ込まないと…。
民家はダメだ。
仮にまだ中が安全だったとしても、それを守ろうとする住人が、俺みたいな見ず知らずのガキを入れてくれるはずはない。
扉の前で懇願している間に喰われてしまう。
でも、そうすると逃げ場が無い。
「クッ…!」
泣けてくる。
そのせいで、呼吸が荒れる。
もう逃げ切れないかもしれない…。
諦めかけた時、教会が見えた。
ソフホーズ内で唯一の宗教、ズーナ教のための教会。
あそこなら建物も頑丈だから中の人にも余裕があるかもしれない。
もし入れなければ――――――そこで俺は追いつかれて死ぬだろうな。
一か八か。
俺は正面の大きな門の横にある通用口に駆け寄った。
そして、鍵が開いていないのを確認すると、扉を激しく叩いて叫んだ。
「入れてくれ!!! 誰かいたら開けてくれ!!!!」
ドアの叩き方は多分アイツらのそれと大差ないだろう。
今はエサを求めるアイツら並に俺も必死だ…!
「誰か――――――!!! 早く―――――――――――!!!!」
さっきまで走っていて急に止まったから、肺も心臓も足も激烈に痛い。
だが生きたまま喰われるなんてまっぴらごめんだ。
早く開いてくれ……!!
数十秒もしないうちに、すぐ背後にヤツらの咆哮が迫ってきた。
ダメか……
ガチャッ
いきなりドアが開いて、引っ張り込まれた。
急に無理矢理動かされたせいで、全く重力に耐える隙も無く倒れてしまった。
「大丈夫か? よく生きてたな。」
若い男の声だ。
振り返って見上げると、ニット帽を被ってメガネをかけた青年が手を差し出してきた。
その手を借りてどうにか立ち上がり、礼を言った。
扉は閉まっていて、先ほどの俺の代わりとばかりにヤツらが叩きまくっているが、頑丈なかんぬきで固定された鉄扉はビクともしない。
…立ち上がって改めてその青年を見ると、なんか何処かで見た覚えがある。
「咬まれてないか?」
「いえ…。」
「そうか、良かった。知ってると思うが、アイツらにちょっとでも咬まれたらそのうちアイツらと同じになっちまうからな。」
「……。」
やっぱり、全身を喰い千切られて死んでいったカトラスとミラもそのうち…なるんだろうな。
「俺はマイクだ。お前は?」
「クイルです。」
「よろしくな、クイル。こっちに来な。他の生存者も集まってるし、食いモンもある。ゆっくり休めるぞ。」
「ありがとうございます。」
2人で薄暗い石造りの通路を進んでいき、突き当たりで左の扉を開けた。
立派な礼拝堂だ。
正面にはズーナ教で信仰されるラス・ブラムの女神像が神々しく立っている。
…その足元の所に、大量に積まれているダンボール。
更に、その付近で固まっている、生きた人間達。
視線が完全にこっちに向いているし、何人かは警戒して武器を手にしている。
急に緊張してきた。
「よお、生存者。」
上から女の声がした。
驚いて見上げると、2回の回廊の手すりの所に身を乗り出し、こちらを見下ろす女がいる。
「こいつはクイルだ。」
「なるほど、よろしく、クイル。私はターネックだ。」
「は、はい…。」
名前だけ名乗ると、ターネック…とやらは手すりから離れ、見えなくなった。
まぁとりあえず、色々苦労はするだろうが、ここは安全なようだ。
現段階で重要なのはそれだけだ。
…しかし、マイクは確かにどこかで見た覚えがある。
何処だっただろうか…。




