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あっという間に扉は半壊し、もう向こうの群れが見えてきた。
こちらに押してくる力が強すぎる…!
「ミラ!! 早く逃げろ!!!」
まだ逃げようとしない…。
いや、多分逃げたくても逃げられないんだ。
恐怖と、俺たちを置いていくことの罪悪感も手伝ってだろうか。
だが、今逃げてくれないともう永遠に会えなくなるかもしれないんだぞ…!
「俺たちもすぐに行くから、お前だけでも先に逃げろ!!!」
カトラスも叫んだ。
ミラがグズグズしている間に、もうバリケードは内側に膨れ始めている。
チクショウ…、早く逃げてくれよ…!
バンッ
最悪だ。
さっきまで俺たちがいた廊下への扉が、いきなり開いた。
そして、ヤツらの大群がなだれこんできたのだ。
1番近くにいたのは、紛れも無くミラだ。
ミラは、抵抗する間も無く…いや、何をする間も無く、俺らの目の前で大群に飲み込まれた。
「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!! ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!!!!」
地獄のようなミラの絶叫が鼓膜を震わした。
それでも、ヤツらは華奢なミラただ1人目掛けて群がっていく。
ミラの部屋の窓から入ってきたのか…。
「クイル! 逃げるぞ! もうダメだ!!」
カトラスが言うのと同時に、俺たちは台所の方へ走り出した。
俺らが離れると、途端にバリケードを突破してヤツらが大勢入ってきた。
ミラに群がっていたヤツらも一部がこちらにやってきた。
ふと見たら、大群の足元にミラの血まみれの腕が見えた。
―――全く動いていなかった。いつの間にか声も消えていた。
ミラ……。
俺とカトラスは台所まで来て扉を閉めた。
もちろんすぐに突破されるはずだから逃げ場を探す。
ちょうど、少し高いところに格子のはまった窓があった。
小さい頃に3人でふざけて外し、出入りして怒られたことがある。
その時のことを思い出して、手際よく格子を外した。
窓を開け、俺が最初に外へ這い出した。
位置が高いから手間取ってしまったが、どうにか外に出ることができた。
続いてカトラスが手をかける。
「カトラス、早く!」
カトラスがようやく顔を出したところで、腕を引っ張って手助けをする。
急にカトラスの表情が強張った。
「…おい、カトラス……?」
「う……うヴッ………」
カトラスはそのままの表情で、吐血した。
嘘だろ…
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!」
カトラスが目の前で叫んだ。
鬼気迫る表情だった。
俺はいつの間にかカトラスの腕を引っ張るのをやめて、掴んでいるだけだった。
「に、逃げろ……」
カトラスがようやく叫ぶのを止めたと思うと、それだけ言って、家の中へ引きずり込まれていった。
そして、また絶叫が始まった。
俺は迷うことなく走り出した。
相変わらず世界は化け物だらけだ。
何なんだ……。
何なんだ何なんだ何なんだ…!
カトラスもミラも殺された―――。
―――クソオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!




