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天才魔術師、ヒロインになる。  作者: コーヒー牛乳
第一部 男爵家編

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10/25

ヒロイン、遭難する 2


 あれは。


「へ、びぃいいいい!?!!??」

「舌噛むぞ!」

「だって真冬に、あんな、大群! 速いし!!」

「見るからにやばいから逃げてるっす!!」


 シュルシュルと蛇特有の音が気色悪く、情けない悲鳴を坑道に残しながら全員に加速の魔術をかける。


 しかし移動しているからなのか上手くいった気がしない!!


「こっち!!」


 アッシュの掛け声で右側の小さく細い横穴へギュルリと曲がった途端、吸い込んだ空気の冷たさでぐっと気温が下がったのがわかった。自分たちが向かっている先から聞こえる音が轟音になるにつれ、全員何が先に待っているのか気付いていたはずだ。


 ひらけた空間に出て、自然と歩みがゆるくなる。


 目の前には囂々と音を立てる川が流れていた。辛うじて川幅がわかる程度で、どこから流れているのか、どこまで流れているのかは見えそうにない。ただただ光りの届かない暗闇だった。



「恐らく、あの坑道の暖かさで蛇たちが活発になってたっす。ここの寒さがあれば蛇たちも動きが鈍って追ってこなく……っ」


 シュー……


 振り返ったアッシュの表情が凍る。

 坑道の細い横穴の向こうから腹に響く、一匹の声が聞こえたからだ。


「……でかくなってないか?」

「変よ……さっきまで追ってきてた蛇と全然違う!」


 光が届かない暗闇の中、蛇の赤い瞳だけが浮かんで見えた。


 そこでようやく私は思い出す。この蛇の正体に。


 動揺が出ていたのか、ユーリが私をチラリと見たのがわかった。


「……ここを、渡るぞ」

「っ、ここを渡るだなんて!冬の川なんて、入ったら死ぬわ!!」

「正確には3分で死ぬらしいっす」

「結局死ぬってことじゃない!」

「蛇に食われるか、凍死するかだったらどっちがマシかだな」


 キャンキャンと言い合うジョンとアニーの掛け合いに、ちょっと不吉なことを言わないでくれる!?と割り込もうとした時だった。ジョンがストンと私を下した。


「はあ、ちょっとタンマ」


 力自慢のジョンでもさすがに私を抱えて全力疾走は堪えたのかと思ったが、自体は最悪の方向へ進んでいるようだった。


 アッシュの持つ松明がジョンに寄せられ、ようやく気付く。


「ちょっと、なにこの血の量!かすり傷だって言ったじゃない!」

「かすり傷だろ。ピーピーうるせえな、騒ぐな」


 荒い息を抑えるようにジョンは細く息を吐き、私の方を見た。


「よし。覚悟はいいか?」

「どっちの!?」


「ははっ、オレと凍死の覚悟」


 ジョンは子どもみたいに笑った。

 ……うっかりときめいてしまったじゃないか。


 すわ”アンネリーゼのウキウキ★ドキドキ!?逆ハーレムの会(仮)”に入会希望かと現実逃避気味なことをチラリと過っただけなのに、ぐいっと手を引かれ視線を戻す。


「……俺が連れていく」


 ユーリがジョンを睨み上げた。


 ヒュッと息を飲み込んだ。

 ユーリがデレた。あのユーリがデレた!ぞ!!と、網膜に焼き付ける勢いでユーリの横顔を味わう。あ、でもちょっと待って。タイミングが悪すぎる。死に際にデレられても困る。なんだか不吉。


「いや、ユーリとお嬢様のペアは無理っすね。二人で流されて死ぬっす。いっそ二人を対岸まで投げるか……いや、さすがに無理か」

「アンネリーゼお嬢様は私とユーリで連れていくから、アッシュがジョンを連れてきて!」


 このデレを見るために今までの尖りがあった感動的なシーンも、危機的状況の前では合理的さが勝つ。光りの速さでユーリの案は却下されてしまった。それでもユーリは何かを言おうと口を開いたと同時だった。


 ゴッ!!と激しい音が言葉を遮る。いつの間にか大蛇になった黒い蛇が横穴に頭を通そうとしているようだった。


「ごちゃごちゃ言ってないで一緒に行くわよ!!皆で塊なんだから!!」


 ユーリと繋いだ反対の手の指先から光りの紐をシュルリと伸ばし、私たちの胴を囲み、ギュッと縛る。


「なんだ!?」

「なに!?」

「光ってる!火か!?」

「……!」


 そして釣り針を投げる要領で元平民の肩をうならせ、ひとかぶり。


 ……が、さすがに5人分を対岸へ投げるほどの腕力は無く、放物線を描きドドドドと流れの早い川へ落ちていく。


 あぁ、死ぬかもとふと過った時に手を強く握られた。それは恐怖で筋肉が収縮した反応では無い。私を守ろうとするような強さだった。


 私たちがまとめて川へ落ちるのと、大蛇が壁を壊すのは同時だった。川の中に落石があったが、音は鈍く聞こえ、暗闇の中を流され、私はいつの間にか魔力切れで気を失っていた。


 ────ヒロインに大切なのは思い切りの良さ、そうでしょう?

 


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