第七十七話 その魔眼は未来を視ない
第七十七話 その魔眼は未来を視ない
サイド 大川 京太朗
「いやぁ、待たせてすまなかったね」
「どうぞ。ハーブティーだよ」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえー」
ピンク髪の女性が高そうなカップに入ったお茶を出した後、微笑んで正面に座る赤城さんのもとに。
室内にあった高そうなソファーが二つ対面しているわけだが、ピンク髪の人はそのまま赤城さんの隣に座った。『ここが私の定位置ですが?』とばかりな自然さで、お盆を膝に置き笑みを浮かべている。
それに赤城さんも気にした様子もなく、彼女はお茶で唇を湿らす。
「見苦しいものを見せてしまったが、彼女らも普段は……普段は……来客時はもっと理性的なのが普段なんだ」
それ普段って言えます?
何故だろう。ここまでひたすら遠い世界の住民に思えてならなかった赤城さんが、今は酷く身近な存在に感じる。具体的に言うと変人に囲まれて苦労している所が。
「改めて自己紹介だ。まず、私の隣にいるピンクのが『桜井桃花』」
「萌恵ちゃんの恋人兼パーティーメンバーの桜井です」
丁寧にお辞儀をしてくれる桜井さんにこちらも頭を下げながら、『やっぱりかー』と少し心の中でため息をついた。
見覚えがあると思ったが、桜井自動車の公式ブログに偶に出ていたよこの人の写真。苗字でわかるけど、会長のお孫さんである。つまり桜井一族の直系だ。
つまり自分が就職したがっていて、冒険者として契約する企業を将来担う人材である。
……やっぱ選択間違えたかな?
「で、あそこの黄色いのが『黄瀬薫子』、緑色のがその妹で『黄瀬翠』」
「よろー」
「よろしくお願いします!」
何故かあるバーのカウンターみたいな所で並んで座る女性達。黄瀬薫子さんがドワーフで、黄瀬翠さんが推定ハーフエルフである。
……姉妹なのに種族が違う事に関しては、たぶんツッコまない方がいいな。家庭の事情というやつだろう。
「最後にクロヒョウの獣人なのが『荒川葵』」
「どうも。荒川です。このチームでは頭脳担当をしています」
窓際の机でパソコンの前に座る眼鏡の女性。青いメッシュの入った黒髪の人が荒川さんらしい。
どうしよう。キラリと眼鏡を光らせている姿は凄い理知的なのに、先ほどの酒瓶片手に姉妹喧嘩を肴にしていた姿しか浮かばない。
それはそうと、あのお酒なんだったのだろうか?この人、見た所かなり強そうだけど……そんな覚醒者が、酔うお酒?
ちらりと、黄瀬姉妹が座るバーの奥に視線を向ける。当然酒の種類なんてわからないが、どうにも微妙に魔力を感じる。そう言えば、未成年だからと見せてもらえなかったけど人工異界の中に酒蔵がどうのって所もあったな。
どうやら、本当にここは手広くやっているらしい。
「誰が頭脳労働よ」
「寝言は寝て言ってください」
「葵ちゃん、嘘は駄目だよ?」
「はっはっは!ごめんね、彼女は少しだけ頭が残念なんだ」
「解せぬ」
何を見せられているんでしょうね、僕は。
案の定全員から否定されているのに、荒川さんは本気でわからないとばかりに黄色の瞳をパチクリとさせていた。素面なのだろうか……素面っぽいな。
「こんなんだけど全員腕はたつ奴らさ。腐っても我が社のエース部隊だよ」
「腐ってもってなによ、腐ってもって」
「姉さんの脳みそか趣味の事じゃないですか?」
「あ゛?あんたの性根の事じゃない?」
「あ゛?何言っているんですか?私そういうのわかんないなー」
直後、メンチをきりながら胸倉を掴み合う黄瀬姉妹。
そっと赤城さんに視線を向ければ……凄い笑顔だ。
笑顔とは本来以下略。
「馬鹿姉妹。ここで喧嘩するなら一カ月酒抜きだからね?」
「愛しているわ、妹よ」
「私もだよ、お姉ちゃん」
ひしと抱き合う姉妹。いい姉妹愛だなー。
「…………不安に思う気持ちはわかるよ、うん。でも心配しないでくれ。桃花以外は私の子飼いみたいなもので、会社の運営には関係のない人員だから」
「つまり私は萌恵ちゃんの特別……きゃっ!もう、駄目だよお客様もいるのに」
「そうだね。お客がいるのを自覚しているのならもう少し自重しようね?」
「………?」
「とりあえず会長に言っておくから」
「心の底からごめんなさい」
すげぇ。赤城さんは笑みを浮かべたままだ!僕なら今頃キレ散らかしている自信がある。流石だぁ……。
「少し、その。個性的な方々だとは思いましたが、はい。大丈夫です」
「ありがとう、大川君。なぜか君の視線が異様に優しい気がするが、気のせいだと思う事にするよ」
まあ、実際多少変人たちがエースパーティーだとしても問題ない。
雰囲気でわかる。ここの『頭』は赤城さんだ。次に桜井さん。気安い雰囲気の中で、しかし上下関係がハッキリしている。
ならば問題ない。赤城さんがまともなうちは、このパーティーは大丈夫だ。
それに、変人ばかりだからといって犯罪行為をしていないのなら別に気にする様な事でもないだろう。自分に害が出たら別だが。
「さて……本当は彼女らから普段うちから出される依頼について話してもらうつもりだったが、そういう雰囲気でもなくなってしまったね」
「は、はぁ……」
「だが。私は君に桜井自動車と契約してほしいと思っている。悪い話ではないはずだよ」
「……一つ、お聞きしたい事があります」
「なにかな」
深呼吸を一回。
正直、桜井自動車と契約する事に否はない。それに言っては何だが、企業専属と言っても大きく見ればただの『バイト』だ。
気軽に縁を切れる立場でもある。わりと自由な身分だ。普通のバイトとは色々と異なるけど、それでも本質は変わらない。
だから、聞きたいのはもっと別の事。
「見学中、赤城さんはかつての様にダンジョンも覚醒者も消えない様な事をおっしゃいましたよね。その真意を、お聞きしたいです」
何を知っている?この先の世界について。
もしかしたら藪蛇なのかもしれない。それでも、ダンジョンや覚醒者の有無は今後の人生設計に大きく関わる。知れる機会があるのなら、逃したくない。
赤城さんは静かにハーブティーを飲んだ後、ゆっくりと瞳をこちらにむけた。
「……最初に言っておくと、これはただの予測だ。確証まではとれていない」
「はい」
「生物は生きているだけで微量ながら大気に魔力を放出し、それが大地にしみ込んで龍脈の一部となる。そして、人間は生物の中では特に魔力が多く、なおかつ肉体と魂の結びつきである精神が……『道』が太い。そういう生き物だ」
前に、レイラに魔法を習おうとして聞いた事がある。
龍脈は星の血管であるが、その上で生きる人間と相互に影響していると。そもそも龍脈が死んでいる土地も存在するが、必ず何らかの影響はある。
「そして……かつて神話と言われていた時代。この時代の正確な人口はわからないが、はたしてそれは今の時代の何分の一だろうか」
「それは……」
「ダンジョンがうまれるのは、龍脈から漏れ出た魔力。そして、覚醒者もまたその誕生に龍脈からの大きな影響を受けている」
彼女が言いたい事が、少しだけ読めてきた。
「つまり、この時代はかつての龍脈よりも」
「ああ。かなり力強いんじゃないかと、私は思う」
赤城さんは、真剣な面持ちで言葉を続けた。
「モンスターによって人が減り、龍脈の力も衰えてダンジョンもモンスターも消えて行った。だが、また周期がきて龍脈が活性化している。その時上にいた人間の数は、かつての比ではない。ならば」
ごくりと、そんな音が自分の喉から出る。
「今度の『神代』は終わらない。たとえ人類が滅んだとしても、あまりにも龍脈が力を持ちすぎた。故に、ダンジョンも増え続けるだろう。覚醒者も、ね」
……絶対の保証はないはずだ。だが、それでも信じてしまう圧が彼女にはある。
彼女の僕よりもはるか遠い未来を視ている瞳が、その考えに確信を持っている事がわかった。
「桜井自動車の専属冒険者になるか、もう一度両親と話し合ってみます。けど、たぶん契約して頂く事になると思います」
「そうかね。心から歓迎するよ」
「はい。ありがとうございます」
立ち上がって深く頭を下げながら、考える。
彼女の話が……予想が、正しかったとして。
世界はどの様な道を進むのだろう。それがわからない。未来を教えてくれるはずの眼は、しかし何も答えてくれなかった。
読んで頂きありがとうございます。
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以下、本編に関係ない情報
どことは言わないけど大きさ順。
桜井桃花>>赤城萌恵>黄瀬薫子>>>>>>>>>荒川葵>『壁の壁』>黄瀬翠
突然ですが、今作のドワーフ女性はロリ巨乳です。上の順番には全く関係ない情報ですが。




