第七十二話 異界の拡張
第七十二話 異界の拡張
サイド 大川 京太朗
とうとう八月に入り、セミの大合唱が凄まじい事になってきた頃。
案の定というか、冒険者専門学校への編入試験はほとんどフリーパス。結構緊張して面接に向かったのだが、それはもう和やかというか……形式だけ簡単に聞いてはい終わりって感じだった。
いや、厳しい試験が待っていて落ちてしまいどこにも編入できず。なんて事になるよりはいいんだけどさ。
何はともあれ、引っ越しの準備なのだが……自分の場合、アイテム袋というチート級アイテムがあるので無問題。というわけで。
「エデンはここにあった……!」
プール、そして水着である。
魔力の光で照らされた十メートルほどのプール。そこで泳ぐ美女たち……。
「天国は言い過ぎではないでしょうか……」
そう苦笑しながら、レイラがプールから上がってくる。
紺色のビキニ姿は彼女の肢体を艶やかに映えさせ、滴る水は豊満な胸の谷間や引き締まったお腹、そして鼠径部へと流れていく。長い銀髪はサイドテールに纏められ、水気をおびてなんだか普段とは違う雰囲気を放っている。
惜しげもなく完璧な肉体を見せながら、彼女はプールサイドに座る僕の顔を覗き込んできた。
――たゆん。むぎゅぅ。
その際、当然ながら重力にひかれ下に伸び、そして膝に手をついた影響で左右から挟まれた胸。その谷間へと視線が吸い込まれていく。
「座っている者の顔を覗き込む時、座っている者もまた胸元を覗き込んでいるのだ……」
「また変な事をおっしゃいますね」
そうクスクスと笑いながら、彼女が隣に座って来た。
「せっかく主様の言う通りプールを作ったのに、入らないのですか?」
「もう少し、この楽園を見ていたいんだ……」
「そうですか。主様がそれで楽しめているのなら私は構いませんが」
視線の先では、雪音とリーンフォースがビーチボールで軽いトスを繰り返していた。
「これは、意外と、難しい、ですね……!」
そう言って熱中する雪音の水着は、白をベースに藍の差し色が入ったワンピースタイプの水着。だが、なんと胸元に縦一閃。深い切れ込みが入っている。
爆乳の谷間が上から下までがっつりと見えており、上を向いてボールを追う度にたゆんたゆんと揺れ、乳同士がぶつかりたぱんと音をたてる。
更には普段流していたりポニーにしている長い髪は後頭部でお団子にまとめ、白い首筋をはっきりと見せていた。華奢な肩や腰に反してむっちりとした太ももと安産型なお尻のラインも素晴らしい。
「弾道予測。落下位置の演算を完了。迎撃します」
そんな雪音の相手をするのはリーンフォース。あちらはなんと白の競泳水着である。
黒のラインが入ったそれは露出の少ない物のはずなのに、着ているのが彼女だけあってなんかもう色々凄い。
胸元は今にも弾けてしまうのではないかという程に内側から乳で押し上げられ、ハイレグな股間は尻肉に食い込み後ろはTバック同然だ。
こちらもまた上を向いて手をボールに向けて構えており、サラサラとツインテールにされた金髪が揺れている。
そう、ツインテールだ。この中で見た目年齢なら一番上な彼女の子供っぽい髪型に、なんだかいけない物を見ている様な背徳感がある。しかも本人が相変わらずの無表情だから余計に。
「ありがとう……ありがとう、レイラ……!」
「喜んでいただけてなによりです」
ニコニコと笑いながら隣で寄り添ってくれる彼女に、泣きながら感謝をのべる。
何を隠そうここは自室の異界である。エルダーリッチより手に入った杖を使い、拡張したのだ。
訓練場も作られた様だが、ついでにプールとでかい風呂も追加してくれと彼女に巧みな交渉術でお願いしたのである。
交渉風景?僕の土下座を詳しく思い出しても意味なくない?
ふっ……矢島さんを相手に華麗な話術を見せ、更にはレイラ相手に秒で了承をとりつけた手腕。もう僕はネゴシエーターを名乗ってもいいかもしれない。
「後でちゃんと『例の訓練』もしましょうね、主様」
「はい!!」
「良いお返事です」
笑いながらこちらの鼻をつつくレイラ。あかん、惚れる。あ、妻の一人だから惚れてもいいんだわ。惚れ直しているだけだから。
「旦那様ー!レイラ様ー!お二人も加わりませんかー?リーンフォースの守りはワタクシ一人では崩せませーん!」
頭を抱え半泣きで呼びかけてくる雪音。彼女に苦笑しながら、レイラに視線を向ける。
「行ってあげて、レイラ」
「主様は行かないのですか?」
「今、立てないから」
男には、動いてはならない時が存在するんだ。
「……今更では?」
「いや、こういう和気あいあいとした空気を真っピンクにするのもアレかなと」
「気にし過ぎですね。さ、行きましょう」
「待って!?レイラさん待って!?」
強引にこちらを立ち上がらせて引っ張るレイラに、残念ながら腰を引いた状態では抗えるはずもなく。
笑顔でプールの中に諸共ダイブする事になったのだった。
夏……最高……!
* * *
「あぎゃっぶ!?」
「だ、旦那様ぁぁぁあああ!?」
幸せな時間は永遠には続かない。
あれから三時間後、新たに作った訓練場で泣く事になった。
ふわりと隣に実体化したレイラと、慌てて駆けよって来た雪音が膝をつき倒れ伏している自分を覗き込んでくる。対面していたリーンフォースも駆け足で近づいてきていた。
冷たい石畳の床から体を引きはがし、どうにか四つん這いに。たったそれだけの動作で、全身に鋭い痛みが走った。兜の内側に落ちたのが涙なのか汗なのかわからない。
ここは異界の拡張によって作られた訓練場。小さめの体育館ほどもあるそこは、全面石のブロックを組み合わせただけの簡素な場所だった。所々に魔法の光が蛍光灯の様につけられている。
「ご無事ですか、旦那様」
「やはり、いきなり素手とは言え戦闘機動は無理がありましたか」
「はぁ……ひぃ……お、落ち着いてきた」
林檎の回復の力のおかげでどうにか全身の痛みはひく。治癒自体はもう数秒早く終わっていたのだが、痛みまではそうもいかない。
四つん這いから座り込む体勢に変わり、兜だけ解除する。空気が美味しい。どうやら、先ほどまで痛みやらなんやらで呼吸がかなり浅くなっていたらしい。
「うん、『アレ』はゆっくり時間をかけてやっていこう。急には、無理」
「そうですね。少しずつ慣らしていく必要があるかと」
どうも、一朝一夕とはいかない様だ。『あの時』は凄い自然に上手くいっていたんだがなぁ……。
あの時――レイラが僕の身代わりとなって消えてしまった時は、雑念が完全に吹き飛んでいたというか……上手く言葉にはできない状態だったのも影響しているかもしれない。
「あの……そこまで辛いのでしたら、やらなくてもいいのでは?今のままでも戦力は十分ですし、それでも不安ならもっと別の方法でも」
「勿論、他にいい方法があったらそっちにいくけども。それでも手札があるとないとじゃ全然だから……」
心配そうな雪音に、渋面を作りながら答える。
本音を言えばもう二度とやりたくない。彼女の言葉に頷き、このままふて寝したい気分だ。痛いのとかマジ無理。
だが、どうしてもファイアードレイクの追撃にあった時の光景や、ドラウグルの融合体との戦いを思い出してしまう。
痛いのも辛いのも嫌だが、彼女たちを死なせたくないし、なにより自分自身だって死にたくない。
だからこそアレを……ドラウグルの融合体を倒した時の『あの状態』を意図的にできる様にしないといけないのだ。
どうしてあんな綺麗な太刀筋を放てたのか、理由はもうわかっている。後は、それを普通にできる様にするだけ。
「生存のため、力をつける事は重要です。頑張りましょう、主様!」
「うん……」
「代わりにどんなプレイでも行いますから!」
「うん!!」
「旦那様……そういう素直な所、ワタクシは好きですよ」
飴と鞭って大事だと思うの。その点レイラは素晴らしい教官だと思う。
今後も頑張っていこう……めっちゃ嫌だけど。飴だけの方がいいけども。
* * *
冒険者専門学校の開校は今年の九月一日。寮には八月の二十五日までに入る事になっている。三週間ほど、まだ猶予があった。
未だ矢島さんからの連絡はない。確認の電話をとりたい気持ちを抑え急いては事を仕損じると自分に言い聞かせながら、それとは別にまたダンジョンへ向かう事にした。
今回はサラマンダーのダンジョンではなく、また別の所である。
目的は無論金策。だが、比較的家から近いダンジョンの間引きも兼ねている。金目の物がドロップしたらすぐに帰る、とはいかない。
今はもう周りに覚醒者である事を隠す必要もないと、隣の市へやってきた。山が多いこの場所は、あまり人通りがない。
この距離ならと自転車をこいで直接ストアに向かったのだが、やはり覚醒して体力がかなり上がっている。着替えなども入ったリュックを背負っていたのに、なんら疲れない。まあ、夏の暑さはきついしセミは五月蠅いのだが。
本当になんでセミって体当たりをしかけてくるのか。チャリOKの歩道をのんびり走っていたら、近くの畑から突っ込んできて滅茶苦茶驚いた。ギリ回避はできたが、昔からああいう虫は苦手なので勘弁願いたい。
そういや昔『セミは目が悪すぎて木と人の区別がつかない』とか聞いた気がするな。よもやセミにまで背景扱いされようとは……。
なにはともあれ、ロッカールームで支度を終え受付を通りダンジョンに。気持ちは既に切り替えている。
ゲートを通った先。そこは、中世ヨーロッパを思わせる街の中だった。
「レイラ、雪音」
「「はい!」」
リーンフォースをアイテム袋から取り出しながら、二人を実体化させる。そして自分もすぐにツヴァイヘンダーを抜剣。
このダンジョンのランクは『C』。安全マージンはとれている場所だが、油断はできない。ここは、『人への殺意』がとにかく高い迷宮だから。
『処刑街のダンジョン』
そう呼ばれるダンジョンの探索を、開始した。
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Q.異界突然でかくなったな。
A.前のは素材の味そのままって感じでしたが、材料が増えた事で相乗効果も発生しますからね。ただし、異界を作る魔道具の見た目は現在『木製の鼎にのったでかい角から削りだした黒い長方形の上に、銀色の小さい髑髏が置かれている』という、どこの邪教の祭壇だという感じになっています。
Q.京太朗はもう学校通う必要なくない?冒険者だけで食っていけるんじゃ?」
A.京太朗
「中卒は嫌でござる。後で困るかもだし。ついでに覚醒者同士のコネとかも欲しいし」
相原
「まあ、同じぐらいの年頃で『学校なんてくだらねぇ!冒険者一本で生きていくぜ!』って高校や大学に通うのをやめた奴もいるらしいけど」




