第六十八話 防衛装備庁魔導装備研究部
第六十八話 防衛装備庁魔導装備研究部
サイド 大川 京太朗
「『防衛装備庁』、ですか?」
「うん」
夜。自室の異界にてレイラに今日あった事を話していた。
エルダーリッチの杖を使用した事により拡張された影響か、レイラの工房も少し大きくなっている。そこに並んだ『二機のゴーレム』を背に彼女は小さく首を傾げた。
「あまり聞き慣れない名前ですが、字面からして自衛隊の装備を管理、あるいは作成する組織でしょうか?」
「まあ、たぶん。僕に会いに来たらしい矢島って部長さんは『魔導装備研究部』って所の人らしい」
「……それはまた、効き慣れない名前ですが、ある意味わかりやすいですね」
「まあ名前聞いてもわからんって感じよりはいいんじゃない」
自分も少し安直な名前とは思うけど。
「ですが、『ある意味ちょうどいい』のでは?」
「まあ、うん……」
確かに丁度良くはあるのだ。本当に。
冒険者専門学校に入った後に手に入るかどうか、というものが得られるかもしれない。だからこの縁は本当にありがたいものなのだ。
ついでに仕事で出される報酬もかなりの額だった。守秘義務というか口止め料というか、そういうの込みで思わず目を疑ったほどの金額である。ダンジョン探索何回分だよと言いたい。
それはそれとして、そこの長である矢島さんがだいぶんアレな人なのがネックである。
「なんか試作品のテストに付き合ってほしいって言われたよ。ただかなり急な話で、明後日にまた会いたいとか」
ギラギラとした目で名刺を押し付けてきた矢島さんを思い出し、少しだけ『いきたくねー』とは思った。
だが本当に渡りに船っていうか……行きたくないけど行きたいという心が二つある状態……!
「凄い顔をしていますよ主様。何があったのですか?」
「言いたくない……後で記憶共有しておいて……」
「は、はぁ」
忘れよう。この件はもう明後日の朝まで忘れていようそうしよう。
視線を彼女の後ろに移し、話題を変える。
「それはそうと、それがうちの警備用?」
「はい。我々がここより離れている間、家とご両親の防衛のため残して行く警備用ゴーレム、『ガードウッド』一号と二号となります」
「君も大概ネーミングセンスアレでは?」
リーンフォースと比べて雑くない?なんか色々と雑過ぎない君?
「今後もっとマシな物を作る予定で用意した、間に合わせですので」
苦笑を浮かべて彼女がそう言った二機のゴーレム。その見た目を簡単に言うと、『でかいデッサン人形』だった。
木製の体に球関節。顔の部分には単眼と額に刻まれた謎の文字。指はミトン型と言えばいいのか、親指と人差し指は独立し、中指薬指小指は一つに纏められていた。
ぱっと見は大柄な男性ってシルエットをしているのが、マジマジと観察するとあんまり強そうに思えない。いやホラー映画に出る怪物枠ならそこそこ……?
「基本性能は『Dランク』相当。武装は相原様より購入した片手斧とバックラーとなります」
「Dかぁ……ちょっと不安、かな」
「そうですね。安定して捌けるのは『Eランク』相当のモンスターぐらいでしょう。同格が来た段階でかなり厳しくなります。せめて装備だけでも良いものを揃えられたらよかったのですが……」
「僕が家を離れるなら銃刀法とか色々あるからねぇ。斧も何か言われたら『父が突然キャンプに目覚めて色々凝ったせいです』で通すつもりだけど」
「メイスでも場合によっては法に引っかかりかねませんからね」
ウッドゴーレムを前に、思わず苦笑を浮かべた。
自分が冒険者専門学校の寮に住んでいる間、近場でダンジョンが溢れたり犯罪者の覚醒者が家を襲撃してきた時様に用意したのが、この二機である。
内部のフレームと制御部分のみ前に手に入れた『トレントの木材』の余りを使用。それ以外はホームセンターで買った物を使ったこれは、残念ながらそこまでの性能は期待できないらしい。
リーンフォースの予備パーツを使い込めばもう少しマシになるだろうが、そうしたら今度は燃費が大変な事になってしまう。
「行動範囲は龍脈から魔力を引っ張っている関係上この家の敷地内と、そこから十メートル圏内。もしもご両親がどこかに避難する場合は同行できませんね」
「まあ、それでも何もないよりはよっぽど良いよ。ありがとう、レイラ」
「いえ」
ゴーレムは、テレビで色んな抗議団体が言っているほど万能ではない。
まず簡単な命令しか実行できず、動きは単調。その上で戦闘能力は低品質なもので『E』、普通に作れば『D』。ついでに魔力の供給も考えると、行動範囲はとてつもなく狭い。
ぶっちゃけ、同ランク帯のモンスターと戦闘したら十中八九負けると思う。ゲームの雑魚NPCを想像したら一番近いかもしれない。動きが単調すぎるのだ。
……考えれば考える程、リーンフォースが破格過ぎるな。値段も破格だったけど。
まあ材料を拘りぬいた上に良質な装備。更には普通のゴーレムは太陽光パネルのっけて動いているのに対し、彼女はガソリンぶっこんでエンジンで動かしている様な物と考えれば性能差も納得がいく。
一番いいのはそんなリーンフォースをここに置いていく事だが……整備の問題があるしなぁ。
「なんにせよ、母さんたちを頼んだぞ。一号二号」
何も言わず、直立不動のゴーレム達そう告げる。当然ながら返事はない。
出来るだけ、こっちの方に顔を出す様にするか。せめて『Dランク』程度のダンジョンなら氾濫しても二人が籠城できるぐらいの備えができるまで。
「旦那様、準備が出来ました……♡」
ひょっこりと、雪音が部屋に顔を出してくる。
自分に出せる最速で振り返れば、そこには落ち着いた紺のYシャツに黒のタイトスカート。下は濃いベージュのタイツにハイヒール。そして黒髪をアンダーサイドテールにまとめ白衣を羽織った姿で、彼女が恥ずかしそうに笑いながら立っていた。
その後ろには、ナース服姿のリーンフォース。だが通常のそれではなく、ちょっとしゃがんだらショーツが視えてしまうミニのタイトスカートに白タイツ姿である。今やエロ漫画でしか見ない恰好だ。
「奥の部屋で先にまっておりますね」
「はい!!!」
今日一声が出た気がする。
何はともあれ、ね!そういう事でね!うん!
あの時の白衣のおっさんに迫られたストレスを癒してもらいつつ、雪音の言っていたご褒美というのが最優先事項だと個人的に思うのだ。
「私も機材を片付けたら混ざりますね。ナース服と患者着、どちらがよろしいですか?」
「ドスケベナースさんでお願いします!!」
「かしこまりました」
ニッコリとほほ笑むレイラに、深くお辞儀をする。
心の底から、ありがとう……!!
* * *
なんやかんやあって、約束の日。
言われた通り向かう先は――かの有名な『富士演習場』であった。
「やあやあやあ!よく来てくれたね京太朗君!!」
「ど、どうも」
駅から出るなり、この前遭遇した矢島さんが待ち構えていた。そのわきには山崎さんという自衛官の人もいる。
「本当に嬉しいよ!すまないね急にこんな依頼をしちゃって!!」
「いえ。両親にも話したら『いい経験だから、是非行ってきなさい』と言われましたので」
「そう言ってもらえると嬉しいねぇ。うちの仕事は、昔から冷たい声をあびせられるから」
ニッコリと営業スマイルを浮かべながら答える。自分の不格好なそれでも満足したのか、矢島さんはやけに嬉しそうに頷いていた。
……嘘は言っていない。色々と今回の仕事で親のハンコとかも必要だったから説明し、ついでに『自分の狙い』についても話しただけである。
まあ、流石に今回だけで本命が上手くいくとは思っていない。こうして防衛装備庁の部長職と繫がりをもてた。それだけでも十分すぎる。
ここで得たこの人とのコネクション。出来る範囲で大切にしよう。
「早速だが時間が惜しい!というか私が待ちきれない!すぐに行こうそうしよう!」
「よろしくお願いします」
「はっ」
矢島さんに急かされ、山崎さんが運転する車両で走っていく。
それにしても、自衛隊の施設なんて初めて来るので少し緊張してきた。なんかこう、空気が張り詰めているのだ。
たどり着いた先では、物々しい装備をつけた人達が周囲を警戒しているのが一目でわかる。それもそのはず、ここは日本でも有数な『危険区域』だ。
富士の演習が行われていたのは、『神代回帰』の前まで。今は『富士のダンジョン』と呼ばれる『Bランクダンジョン』が出現している。
元々の様子を自分は知らないが、ネットではその様変わりした姿に嘆いたり逆に喜んでいたり様々な反応で溢れていた。
更にはすぐ近くにもう一つ高難易度のダンジョンが発生しているという噂もあり、その危険度から今までの倍以上の警備が施されているとかいないとか。
まあ、それはそれとして分かり易いから未だに演習場呼ばわりされているのだが。
「すまないが、私がここで預かっている区域以外は君を連れまわせなくてね。息苦しい思いをさせてしまったらすまない」
「いえ、お構いなく」
とりあえず営業スマイル。相原君に相談したら『とりあえず笑っとけ』と言われたし、なんとかこれで通そう。
そんなわけで二つほどゲートを超えて、ボディチェックも受けた後入った窓の少ない大きな建物。
矢島さんがカードキーで開けた扉の向こうは、なんだか演習場の中と言うには随分と清潔で落ち着いた場所だった。
なんというか、でっかい製薬会社のエントランス的な?
周囲をキョロキョロと見回す自分をよそに、受付を済ませた矢島さん。彼が一枚のカードを差し出してくる。
「これを首からかけておいてくれるかい?一応警備上の問題でね」
「……はい。わかりました」
特に魔力の反応がないのを確認してから、首にかけた。鈍い自分でも手に取って直視すれば、魔法の類が仕込まれていないか確認できる。
警戒し過ぎだろうが、念には念を。あいにくと自分はそこまでこの矢島という人を知らない。
こっちは『白銀の林檎』なんて爆弾を抱えているんだ。自衛隊の施設内で気を抜けるほど肝は太くなかった。
「こっちだ!君に見てもらいたい物がいくつもある!!」
「は、はあ」
それはそうとなんでこの人こんなハイテンションなの?
笑顔が引きつるのを感じながら、矢島さんの後についていった。無言無表情で続く山崎さんも、微妙に怖い。
だが、そんな不安が続いたのはそこまでだった。
「おぉ……」
口から小さくそんな声がもれた。
白く長い廊下の左右に並んだ、分厚いガラス越しに見える何かの作業風景。テレビで見る様な分析室みたいな場所に、その反対側の窓からは射撃場みたいな場所で、的を相手にライフルを撃っている人も見えていた。防音がかなりしっかりしているのか、こっちまでは響いて来ない。
なんというか、こういう風景ってテンションがあがる。普段生活していれば銃なんて見れないし、それを発砲している姿となればなおの事だ。
「ふっふっふ。道すがら、少し見ていってくれたまえ」
「あ、はい」
白いLEDに照らされた廊下を彼に続きながら、左右の部屋にキョロキョロと視線を向ける。
はぁ……何しているかさっぱわからんけど何かすげぇ。あれって実弾なんだろうか?あっちではドロップ品と思しきナイフを変な機械に入れている。何をするのだろうか。
「私はね京太朗君。『神代回帰』以降、非覚醒者でもモンスターを倒せる武器を作る為に日夜研究していたのだよ」
矢島さんが眼鏡を光らせながら、何やら語りだした。
「だが、どうやっても上手くいかない。ダンジョン産の金属で作った弾丸も何故か効果が薄く、そもそもダンジョン内は魔力濃度とやらで非覚醒者では長居できない。それでもと自分を奮起させるも、偶然巻き込まれた氾濫では知っての通りの有り様だった。覚醒者でなければモンスターには何もできないと、心が折れたよ」
「はぁ……」
「しかぁし!そこに現れたのが君だ、京太朗君!!」
矢島さんがまるで舞台役者の様に、少し短めの手足を振り回して話を続ける。
「『バケモノをケモノに変えてきたのが我ら人類の歴史』!ああ、なんといい言葉か!目が覚める思いだった!いいや鱗が落ちたのか?そんな事はどうっでもっいいッ!!」
バサリと彼は白衣をたなびかせ、こちらに振り返った。
「今日こそお教えしよう。ケモノ狩りの業、その現在を!!」
「よ、よろしくお願いします」
……どうでもいいけど、あんまり『バケモノをケモノに』って連呼しないでほしい。恥ずかしいから。
あの時はそのまま頭に浮かんだ事を口に出していたが、冷静に聴くと中二くさい。他人に自分のそういう発言を繰り返されるのはどうにも背中がむず痒かった。
「まずはあれ!あの銃が見えるかい?」
「はい」
彼が指さした先にはさっきのとは別の射撃場があり、的を狙って拳銃を撃つ自衛官の後ろ姿が視えていた。
「彼が今使っている銃にはダンジョン産の金属を加工した銃弾が籠められている!あれならばモンスターの体を素通りせずにダメージを与えられるのだ!」
「へぇぇ」
「だが何故か計算上出るはずのものよりだいぶ与える威力が減衰しているんだよね。弾速は落ちていないはずなのに、金属に留まっている魔力量が落ちているとか」
「あぁ……」
そういやそんな話言っていたな。
「そしてあっちに見えるのは別のアプローチ!」
また別の部屋を指さした彼の視線の先には、アニメで見る魔法使いの部屋みたいな場所で白衣を羽織り眉間に皺をよせる男女の姿があった。
「質量をぶつけるのではなく、魔法薬をぶつければいいんじゃないか!?射出した金属の弾の中に魔力に反応する可燃性の魔法薬を入れて射出してみようという研究さ!」
「なるほど」
「まあダンジョンに入った段階で何故か密封してあったはずの薬品が発火してね。どうにも結界がないと魔力濃度の高い場所は駄目らしい。そうすると今度は予算と小型化が、ね……」
「あ、はい」
モンスターは魔力の籠った攻撃以外効かない。なら瓶詰した魔法薬ぶつけたら瓶だけ通り抜けて中身だけ浴びせられるんじゃないかと言う事か。
ただ、魔力濃度が高いとその瓶を何もしていなくても大気中の魔力が素通りしちゃったと。めっちゃ危ないな。
「更にはそこを見てみたまえ!あっちではなんと、そもそもぶつけるのは魔法で……いいやビームでいいんじゃないかという研究をしていたのさ!」
「おお!」
「なんか壊れちゃったけど」
「駄目じゃん」
期待を返して!?
指差された先には黒焦げになった部屋があり、中で防護服を着た人達がタブレットや変な道具で調査をしていた。死傷者が出ていないのを祈るばかりである。
そんな感じで研究を紹介されては駄目そうな事を言われて顔を引きつらせる事、五分ほど。突き当りに到着し、他のよりもなんだか分厚そうな扉の前で矢島さんが首だけ振り返る。
「さて。ここまでは未だ形にもなっていない物ばかりだったが、この部屋の先にあるのは一味違うよぉ」
「はぁ、そうですか……」
正直、ここに来たのを後悔し始めていた。
本当にこの人に自分が求めるものがあるのだろうか。なんかもういつ首になってもおかしくないんじゃない?駄目そうじゃない?
研究は失敗を繰り返してこそと言うが、それはそれとして予算も時間も有限だ。責任取らされて地位を追われるなんて事は、ざらにあるはず。
ちょっと胡乱気に視るこっちの様子を気にした様子もなく、彼がカードキーで扉をあけ放った。
「くぅれくぉそぉがぁっ!我が『魔導装備研究部』のメイン!」
広く白い部屋で、いくつもの機材やカメラが置かれそれらを操作する人々。その中央に立つ存在を、矢島さんが腕全体を使って指し示す。
「『高濃度魔力空間活動用試作外骨格兼外筋装置』、識別名『金剛』だっ!」
アポロで月面着陸した人達が着ていそうなゴツイ宇宙服。それを黒と濃い緑で彩った恰好をした誰かが立っている。あいにくと、その顔はわからない。
何故なら、その頭部は、『バケツ』みたいなヘルメットで覆われていたのだから。
読んで頂きありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
祝、20,000pt!!これも皆さまのおかげです。ありがとうございます!どうかこれからもこの作品を読んで頂けたら幸いです!




