第四章 プロローグ
第四章 プロローグ
サイド 大川 京太朗
最近完全に呼び方が定着した『十二迷宮災害』から一週間。テレビでは未だ行方不明者の捜索活動や追悼式典やらが行われている、七月の中旬と下旬の境目ぐらいの頃。
他の学校は夏休みに突入している中、うちの高校は再開の目途どころか今後の方針についても未定のままだった。
『ぬぁんで俺にばっか無茶な相談がくるんだよぉ』
自室でのんびりしながら、友人達とのグループチャットで相原君がそんな愚痴を描き始めた。
なお、彼が友人か否かについてはあの一件での協力関係からなし崩しでそんな感じになった。正直恐い。
『相談って?覚醒修行とかの?』
まあ無視もアレだし、興味もあるから聞くのだが。
『それもあるんだけど、それ以上に学校から二キロ圏内の住民から立ち退きをどうにかしてくれって相談』
「えぇ……」
あまりの内容にリアルで声が出た。
それは高校生に頼む事じゃないと言うか。行政案件では?
『なんか、俺や母さんみたいな覚醒者がゲートの近くにスタンバって間引きをし続けてくれれば避難しなくていいんじゃないか、みたいな考えが広まっているっぽい』
『いやそんなん一般家庭がどうこう考える事ではなくない?』
『それはそう。何か言うなら市役所……いやこの場合県庁?が妥当のはず』
魚山君も参加し、無茶が過ぎると書き込んでいく。
『俺もそう思うよ。けどあの人らも理屈じゃねぇのさ。今まで住んでいた家も土地も失って、多少の支援金と期限付きのマンションだけ渡されて別の土地に行け、だからな』
「むぅ……」
それは、まあそうだけども。
今回、不幸中の幸いな事に四人とも家が学校から二キロ以上離れていたので強制避難という事にはならなかった。
だが、その範囲内にいる人はたまったもんじゃないだろう。なんせ、生活を突然取り上げられるのだから。
『けど相原君がどうにかする問題じゃないしなぁ』
『かといって馬鹿正直に否定して逆恨みされるのも嫌じゃん?のらりくらりと躱してヘイトを例のおっさんと国に向けさせているけど、マジきつい。目が怖い』
『なんというか、ドンマイ』
いやそうとしか言えんわ。僕にその問題を解決する能力は皆無である。君に無理な段階で武力以外の解決は浮かばん。
それにしても、覚醒者が常駐すれば避難をしなくていい……ねぇ。
なんだかんだ、テレビやネットでも話題になっているのだ。ダンジョン周辺の土地から強制避難をさせている現状は、経済活動と国民の生活に多大な負担を与えていると。
土地不足、地方の過疎化、京都や奈良への人口密集化、失った財産への補填、避難民の住居や仕事、その他諸々。
パッと浮かぶだけでこれだ。近いうちに避難範囲の縮小なりなんなり考えないと、マジでこの国やばいのでは?
一応。アメリカとかではダンジョンを囲う様にして覚醒者の家々を建てて狭い範囲のみを避難区域とするとかやっているらしい。もしかしたら、相原君に相談しに来ている人達もそれを聞いたのかもしれないな。
だが、なんにせよ二人で間引きをし続けるとか無理だろう。僕たち三人も含めてもきつい。というか、熊井君と魚山君は『Cランク』である。こういう言い方はしたくないが、日常的な間引きは無茶だ。
特に魚山君は駄目だ。『人魔一体の儀』など、二度とさせたくない。
運良く彼は人間に戻れたが、あの禁術を使って廃人になったりモンスター化した人だってニュースで見た事がある。次も上手くいくとは限らない。
本人は何故かまたやるつもり満々だし、熊井君と相原君は『ああ、うん……そっかぁ』と微妙な顔をするだけで止める気もないらしい。
兎にも角にも、近隣の人らには悪いが無理なものは無理だ。
『お前らも気を付けろよぉ。変に同意して後で裏切られたって思われない様になぁ』
『いやそもそもそういう話きてないし』
『同じく』
『お前んちだけじゃね?』
『なぁんんでぇだぁよおおおおおおおおおお!!??』
南無。
……しかし、もしかしたらうちにも来ているのかもしれないな。
あの日以来、いつもより家の電話が鳴るのが多い気がする。気のせいかもしれないけど、もしかして似たような話が来ていたりするのだろうか?僕が知らないのは、両親が止めてくれているだけで。
よく考えたら、ほんの少し離れた所まで避難区域なのだ。その範囲にはあまり会わないけど親戚もいる。彼らから話がきていてもおかしくはない。
……本当に、住みづらくなったなぁ。
一応、家の事もあるからサラマンダーのダンジョンと、ストアが出来たらドラウグルのダンジョンも間引きをしに時々行くつもりではある。
だが、それだけだ。それ以上は大人達がどうにかしてほしい。偉い議員さんとか、警察とか。
そんな事を考えていると、スマホの画面ではいつの間にか性癖談義に話題が移行していたのでスリープモードにしておいた。机にスマホを置きながらベッドの目覚まし時計を見て、そろそろかと椅子から立ち上がる。
これから東郷さんと会いに行くのだ。失礼のない様に準備しないと。
* * *
今まで同様駅前の喫茶店。その一角に座る彼と待ち合わせしたわけだが……。
「だ、大丈夫ですか東郷さん」
「ああ、問題ないよ。少し寝不足で疲れてしまっただけさ」
そう言っていつもの様に余裕のある笑みを浮かべる東郷さんだが、目の下には薄っすらとクマができている。これ、化粧で誤魔化しているだけで本当はかなりえぐいクマが出来ていないか?
あの事件から一週間。県庁の人ってそんなに大変なのか……。
「それより、すまないね。呼び出してしまって。本当は私の方から君の家に伺うべきなんだが」
「いえ、そんな。東郷さんもお忙しいようですし」
というか、今のタイミングで東郷さんが家に来ると余計に厄介な事になる気がする。
自分が外出してご近所さんに変な話振られたり、事件の遺族に絡まれるのは勘弁である。今回は息をひそめてこそこそと移動したおかげか、そういうのはなかったが。
だが、このタイミングで『ザ・エリート』って感じの東郷さんが家に訪問してきたらどうなるのか。
……マジで予想がつかない。何も起きないかもしれないが、もしも何か起きるなら絶対に碌でもない事になる。僕の直感がそう告げていた。
「……随分、大変そうだね。今の状況はやっぱり息苦しいかい?」
「まあ……少しだけ」
メニューを持って来てくれたマスターにオレンジジュースを注文して、少し目を逸らす。
「私も非覚醒者だ。ダンジョンやモンスターに関しては君達冒険者に頼らざるを得ない立場にある。それでも、君が背負う必要はないと、言わせてほしい」
「……ありがとうございます」
「いいや。感謝をされるべきは君と、君の友人達だ」
ニッコリとほほ笑み、東郷さんがコーヒーを一杯口に含む。
「多くの命が、『十二迷宮災害』で失われた。その中で君達が戦った場所は、他の地区よりも遥かに被害者が少なかったんだ」
「それは……」
「ご遺族から不謹慎と誹られようと、それでも言おう。君達が頑張ってくれたおかげだ。そのおかげで、多くの命が救われた。この県で行政に関わる者として。何より大人として。京太朗君達勇気ある若者には心からの敬意を払いたい」
背筋を伸ばし、真剣に告げてくる東郷さんに少し照れる。
だが、おかげで胸が少し軽くなった気がした。
四回目の氾濫。未だ人の死に顔に慣れる事はなく、頭の隅で『もっと上手くやれたのではないか』と考える時がある。
家族や友人。そしてレイラ達と過ごす時間はその思いを風化させてくれるけど、完全に消えるには大きすぎるしこりだった。
それが、肯定された。どうやら、思ったより自分は単純な奴だった様だ。
「それはそうと、例の用務員の人。どうなりました?」
そんな照れを隠すために、少し強引だが話題を変える。
察してくれたのかどうかはわからないが、東郷さんは眉を八の字にしながら乗ってくれた。
「私も被災した人達への支援で忙しくて詳しくないんだが……どうにも警視庁の方で身柄を拘束する事になったみたいでね。テロとして扱う可能性もあるらしい」
「そうですか……まあ、やった事がやった事ですからね」
正直あのおっさんに同情はしない。
百人以上の人間が死に、倍する数が被害を受けた。これはもう普通の犯罪とは言えないだろう。
「どういう刑になるかはわからないが、二度と塀の外には出られないだろうと警視庁の知り合いが言っていたよ」
「……なんなら、その方が本人の為かもしれませんね」
「だね。被害者遺族からしたら、百回殺しても足りないぐらいだろうし」
でしょうね。僕が同じ立場だったら闇討ちするわ。
あの時ツヴァイヘンダーで手足斬り飛ばしてダルマにしてやろうかと、本気で悩んだほどだ。ご家族を亡くしたり一生残る傷を受けた人からしたら、火刑すらも生ぬるいと思えてしまうだろう。
覚醒者になりたかったという気持ちは察する。だがこれはこれ、それはそれだ。
「そう言えば、学校の方はどうだい?県庁には再開について学校側から報告は上がっていないけど」
「あー……たぶん、もう駄目なんじゃないかと」
まず、校舎は使い物にならない。
破損やそこで亡くなった人達の事もあるが、それ以前にゲートの出現位置である。取り壊すか再利用するかは不明だが、ストアがあそこに建つのは確定だ。
ではどこか別の所を使って……というのも難しい。
亡くなった生徒の家族への説明やらなんやらで学校側も忙しいらしいし、何より金も人もない。
たぶんだが、もう廃校じゃないかなとは思っている。通信制で続けるかどうかとか、在校生の今後はとか話し合いはしているみたいだけど。
……どっかに転校するにしても、どうしたものか。
思わず乾いた笑いが出てきた。受験めっちゃ頑張ったんだけどなぁ……編入とかってどうなんだろ。まさかまたあの時と同じぐらい勉強しなくちゃいけないのだろうか。ぶっちゃけその辺全然わからない。
「……もし良かったらなんだが、新しく通う高校についてお勧めさせてくれないかい?」
「はい?」
いっそ現実逃避も兼ねて冒険者業に専念しようかなどと考えていたら、東郷さんが一冊のパンフレットを取り出してきた。
「『冒険者専門学校』?」
表紙に書かれた文字を読み上げて、思わず東郷さんを見返す。
彼はただ、ニッコリとほほ笑んだ。
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