表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/186

第五十四話 依頼

第五十四話 依頼


サイド 大川 京太朗



 徹夜明けで学校に行くはめになった翌日の夕方。学校も終わったしとりあえず晩御飯まで眠っていたい欲求を抑え、東郷さんに電話をかける。


「もしもし、京太朗です。今お時間いいでしょうか」


『ああ、京太朗君。知り合いから話は聞いているよ。またダンジョンの氾濫に巻き込まれたんだって?』


「ええ、はい……」


 電話越しに彼が心配そうな顔をしているのが伝わってくる。ちょっと申し訳ない。


『一応怪我はしていないと聞いているけど、大丈夫かい?この短期間で酷い光景を三度も見た事になるが……』


「そっちは、一応大丈夫です。美味しいご飯と安全な家。あとはまあ、家族とか友達とかと過ごせば、意外と」


 嘘は言っていない。『酷い光景を見た』という点では本当に大丈夫だ。ただ……大丈夫だからこそ、悩む事もあるだけで。


 ……時々、自分は薄情な人間なのではと思う。


 この悩みは、前に解決できたもの……の、はずだった。それがこうして再発するのは、自分の未熟か。それとも治った気でいるだけだったのか。


 ダンジョンの氾濫では、確実と言っていいほどに人が死ぬ。あふれ出した大量のモンスターによって殺される。そして自分は他人の死に対して、その直後はひどくショックを受けるのだ。それこそ一生心に傷が残るんじゃないかってぐらい。


 それでも、翌日には忘れてしまう。記憶から抹消されたわけではない。思い出そうと思えば『まだ』鮮明に思い出せる。


 だが、たとえば『お腹が空いた』とか『ご飯が美味い』とか『眠い』とか。色んな情報にショックを覚えた記憶が埋もれていく。


 いつか、あの亡くなった人達の事を思い出せなくなるのだろう。あの断末魔の悲鳴も。助けを求めて伸ばされた手も。恐怖と絶望にぬれた死に顔も。


 何より自分が薄情と思えるのは、『それでもいい』と思えてしまう事か。


 だって結局は知らない人だ。テレビの向こうで誰かが死んでも、聞いた直後は気分が沈み冥福を祈ろうと、一時間もすれば忘れてしまう。それの、多少きつい版。


 しょうがないじゃないか。だって、本当に知らないのだから。そして、知ろうとも思えないのだから。


 僕は生きている。背負わなければならない理由なんて、ない。


 そう『理屈』では自己解決できているはずである。だが、これは『感情』の問題だ。


『……なにか、悩みがあるんだね」


「僕は……いえ、なんでもありま」


『嘘だ』


 こちらの言葉を東郷さんがやや硬い声で遮ってくる。普段静かに話を聞いてくれる人なので、つい面食らってしまう。


『君が悩んでいる事はおおかた予想がつく。死んでしまった人達の事を忘れて、日常に帰る罪悪感かな?』


「………監視カメラとかないですよね?もしくは人の心が読める魔道具とか」


『ははっ、そんな物持っていないよ!……この国は災害が多い。職業柄、どうしても災害現場について知る機会は多いんだ。そして、生き残った方々と関わる事もある』


「そう、ですか……」


『一度、君はその罪悪感にケジメをつけたはずだったね。生きていれば、当然の事なのだと』


「……はい。そのつもり、です」


『悩みがぶり返してしまうのは、よくある事だ。隠す必要はない。人が人の死に思う所があるのは、本来当然の事なんだよ。だから君は正しい。今の君を意気地のない奴と言う者がいたら、そいつこそ人でなしだ』


「東郷さん……」


『あいにくと、僕はその悩みを一発で解決する言葉を持っていない。だけど、君の悩みを肯定してあげる事はできる。頼りない大人かもしれないけどね」


「……いえ。ありがとうございます。少しだけ、心が軽くなりました」


『それは何より。本当は、そういう災害に君達若者を……いいや。国民を巻き込ませないのが一番なんだけどね』


 電話越しに苦笑を浮かべる東郷さんに、頭を下げる。


 伝わらないのは承知であり、ただの自己満足でもあるのだが……なんとなく、こうしたかった。


『それで?こうして電話をしてくれたのは、お悩み相談だけではないんだろう?私はそれでも構わないが、君は人に頼るのが苦手だからね』


「あ、えっと。昨日学校の帰り道に花園加恋さんと遭遇しまして。一応そのご報告を」


『おや、彼女に会ったのかい?』


「はい。ただ、スマホの類は持っていないようで、とりあえず僕の連絡先だけ渡しました。次あった時、東郷さんの連絡先も渡した方がいいですかね」


『そうだね。お願いできるかな?ダンジョン対策課の人間として、やはり覚醒者の人とはある程度連絡できる様にしておきたいんだ。知り合いのお巡りさんも困っていたしね』


「わかりました。それと、操作が簡単な携帯とかお勧めしてみます。あの人、どうにも機械音痴ですぐに携帯を壊すらしく……」


『ああ、それで……私の方でも頑丈な機種を少し調べてみようかな。おっと、そうだった。彼女は元気そうだったかい?変な宗教の勧誘とか受けたかな?花園氏は前回のドラゴンの一件以来、様子を知る事ができなかったからね。少し心配だ』


「凄く元気でしたよ。こっちが大変なぐらい。イギリスの探偵少女っているじゃないですか。どうも『新しくできたご友人』から詳しく彼女の話を聞いたらしいんですよね、花園さん」


『―――』


「ファミレスとカラオケ梯子させられて一晩中百合の考察を聞かされるとは思いませんでしたよ。まあ、結構楽しかったですし興味深い内容でしたが」


 そして気づいたら奢らされていた。いや、いいんだけどね?命の恩人だしそれぐらい。


 それはそれとして、食事に関して山にクマやら猪を獲りに行くとか変な冗談は勘弁してほしい。一瞬本気で言っていると勘違いしてしまうから。


『それは災難だったね。次の日……というか、今日も学校だったんだろう?』


「はい。頑丈な体ですのでどうにか居眠りは堪えましたけど」


『いい子だ。学生の本分は勉強だからね。もっとも、勉学だけが全てじゃないが』


「はは……日本史の授業の時は、マジで意識がおちかけましたけど」


『わかるよ!歴史の授業は私も学生時代苦労したものさ。あの科目は凄まじい安眠効果があるからね」


「ですよねー」


 軽く笑いあった後、時計を見る。できれば、少しでも晩御飯前に眠っておきたかった。


「すみません。では、花園さんにまた会ったら東郷さんの連絡先を教えるって事で」


『ああ。すまないが、よろしく頼むよ。それじゃあ、おやすみ京太朗君』


「はい、色々ありがとうございました。東郷さん」


 通話を終え、スマホを充電器につないでベッドに寝転がる。


 覚醒者の体は頑丈とはいえ、肉体はよくても精神は別だ。前に駄騎士さんが動画で『72時間耐久ゲーム実況』とやらをやっていたけど、滅茶苦茶注意力散漫になっていたし。


 だからか、目を閉じたらすぐに眠りにおちた。



* *   *



サイド 東郷 美代吉――西園寺 康夫



 京太朗君との通話を終え、すぐに部下へ電話を掛けた。


 薄暗いパーキングエリア。少し遠くに大型トラックが何台か止まっているだけの駐車場で、車の座席を少し倒しながらコール音を聞く。


『はい、こちら南条』


「やあ、突然すまないね。そっちの方はどうだい?」


『間違いないですね。防衛装備庁が一部の陸自と一緒になって大川京太朗について調べています。そこまで本腰をいれた動きではありませんが、近いうちに接触するかと。冒険者から引き抜き……でしょうか』


「その可能性は低そうだ。彼にそういった気配はなかったから、ダンジョンの氾濫時に偶然関わったんだろう。陸自も未成年相手にそこまではしないさ。それよりも、至急調べてほしい事がある。『紅茶好き』の議員先生たちはどんな感じだい?」


『……最近、妙に大人しい様子でしたが』


「そうか。花園加恋に紳士……いいや淑女からかな?お茶会の招待があった可能性がある。すまないが、そっちを優先してくれ」


『了解。すぐに動きます』


「ああ。くれぐれも無理をしないでくれよ。それじゃ」


『はい。失礼します』


 通話を終え、車の天井を見上げる。


「牽制、かな。これは」


 有川が前にやった『お客さん達』の隠れ家を各陣営にばら撒いた一件。恐らく、その事の仕返しみたいなものだろう。


 自分達を出し抜いた気になるな、という意味だろうな。やったのは私達じゃないんだけどなぁ。当時は一切情報が降りてこなかったし。遅すぎる事後報告だけだった。


 ……まあ。あの国が牽制だけで終わるはずがない。もしかしたらそのまま、本気で引き抜いてくる可能性がある。そうでなくとも楔の一つも打ち込んでおくつもりか。


 花園加恋は劇物だ。制御不能の核ミサイルであり、下手をすれば国家が危うい。それでもなお手元に置きたい魅力が、今の世の中ではある。


 問題はどこから英国に彼女の情報が漏れたのか。今までならいざ知れず、有川の一撃で彼らも動きが鈍っているはずだ。だというのにここまで綺麗にジャブを打ってきた。そこに違和感がある。


 花園加恋の情報は一部の人間しか詳細を知らない。本人が無自覚にばら撒いている可能性はあるし、私の同僚や直属の部下達でやらかした奴がいる可能性もある。


 そうでないなら―――。


 ……ああ、嫌だ嫌だ。どうしてこんな時に学生時代の事を思い出すのかね。


 懐から出した煙草をくわえ、火をつける。窓を軽くすかしながら、シートにより深く背中を預けた。



―――仲間内で思考ゲームをする時、あいつはよくこういう手を使ってきていたな。



 紫煙を吐き出し、三秒だけ目をつむる。


「嫌な大人になってしまったな、本当に」


 どうして、友人を素直に信用する事ができなくなってしまったんだろうな。


 ライターを握る手に少しだけ力を込めて、もう一度、煙を強く吸い込んだ。



*  *    *



サイド 大川 京太朗



 なんやかんやあって、土曜日。未だお祓いの予約はとれていない中、自分はスマホの地図機能を頼りにとある場所に向かっていた。


「で、なんで君らまでいんだよ」


 歩きスマホは危ないので、歩道の端に立ち止まって画面を見た後振り返って友人二人に視線を向ける。


「お前が心配だったからな」


「同じく」


「子供か僕は……」


 熊井君と魚山君の言葉に、思わず苦笑を浮かべた。


 まあ散々氾濫に巻き込まれたから、こうして心配されるのも仕方がないかも――。


「お前が俺達以外の性癖に飲まれないか、不安でしょうがないぜ」


「僕の触手レーダーが告げている。君は何か別の性癖に汚染されている……!」


「帰れマジで」


 なんだよ汚染って。


 ……いや、今から訪ねる人物は確かにそういう事しそうではあるけども。前科あるし。


「思い出すんだ京太朗!筋肉は全てを解決する!真なる生命の象徴だ!いいや、高尚な言葉など不要。ただ筋肉のエロチシズムを思い出すだけでいい!」


「触手だ。触手はあらゆる形に変わりながら、しかし本質は不変。全人類が触手に包まれる時が来たんだよ、京太朗」


「黙れ馬鹿ども。性癖を押し付けんな」


 性癖は自由にあれねばならぬのだ。法律の範囲内で。


 そんな馬鹿話をしながら歩いて行けば、ほどなくして目的の場所へとたどり着く。


 比較的田舎と言えるこの辺としては住宅が多く建ち並んだ、新しめの住宅地。その中でも結構な大きさを誇る二階建ての家の前で立ち止まった。


 表札に書かれているのは『相原』の二文字。少し躊躇ってからインターホンを押す。間延びしたチャイムの音が鳴って、中からパタパタとスリッパの音が聞こえてきた。


「……よお、待っていたぜ。京太朗」


「ど、どうも……」


 玄関を開き、無駄に爽やかな笑みを浮かべてくる少年。クラスメイトにして変態の一人である、相原健介君その人である。


 彼を訪ねたのは他でもない。リーンフォースの鎧を、彼に依頼する為だった。





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


Q.本当に監視カメラとか盗聴器とかない?

A.東郷さん

「せっかく稼いだ信用をそんなんで無くすのは馬鹿らしくないかい?」


Q.京太朗のメンタルが強いのか弱いのかわからない。

A.強いて言うのなら、『両方』です。YES・NOでは答えられない感じですね。良くも悪くも彼の内面は凡骨な俗物なので。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] メンタルつよつよではないけど最高の癒やしがあるから回復力がすごいんやろw 次回性癖三つ巴!
[気になる点] 筋肉はどうして雪女をゲットしに行かないんだろう? 理想の姿で現れるはずなのに。 あれ、触手の場合はその願いは私の力を超えているになるのかな。 [一言] いい友人達だな、変態だけど。
[気になる点] まぁどうせそこ(変態)に依頼するんだろう、とは思っていたけどちゃんと依頼した通りのモノが出来るんですかね? 具体的に言えば、指定したサイズよりもふくよかにされたり、とか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ