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第五十三話 呪い

第五十三話 呪い


サイド 大川 京太朗



 二度ある事が三度あっちゃった日から、数日。


 教室では夏休みの計画について話す声が増えており、かつての自分なら嫉妬の炎を心の内で燃やしていた頃である。



 だが今は違う!!!



「ぐふっ……ぐふふっ……マイクロビキニ……いいやあえてスク水……」


「京太朗。お前そのうちマジで捕まるぞ」


「顔面と言動だけで警察が動くレベル」


「うるせえ変態ども」


「今はお前に言われたくねぇ」


「同じく」


 失礼な。ちょっと顔と口に出ていたのはまずかったが、思考だけなら健全な男子高校生共通のはずである。


 心外だと軽く睨んでいると、魚山君が顔を近づけてきた。


「それで。三回目がきちゃったらしいけど、どうなの」


「……メンタルはわりと問題ない」


 一応、規定としてまたクリニックに通う事になったが、お医者さんの話からしてそう重いもんではないらしい。


 まあ、帰って来て早々は流石にくるものがあったが。それでも翌日の朝にはわりとどうにかなった。


 しっかり寝て、美味いもん食って、家族と語らいこうして友人と話しながら日常に帰る。お医者さんも、そういうのがいいと言っていた。


 ……まあ、一番効いた薬は『ワタクシも獣でしょうか?』と悪戯っぽく笑いながら犬耳をつけた雪音や猫耳のレイラ。うさ耳のリーンフォースに美味しく頂かれた事だと思うが。


 やっぱフロイト先生って凄い人だったんだなって、そう思った。


「それよりお祓いの件はどうなってんだ、お前」


「やっぱちゃんとした所がいいよなぁって。けどそういう所って覚醒修行で人気らしくって……」


「あー……」


 熊井君に答えながら、遠い目をする。


 こういうので妥協したら逆に変な祟りもらいそうだし、なんなら面倒な勧誘もあるかもしれない。


 となれば、多少大変でも大きな神社にやってほしい。毎年初詣で行く神社とか、一応空きがないか電話で尋ねてはいるのだけど。


「行けるのは最速でも一、二週間後かなぁ」


「マジか。それまでの間にまた巻き込まれないようにな」


「なんなら神社に行く道中でまた氾濫に……」


「いや。いやいやいやいやいや」


 顔が引きつるのを自覚しながら、首を横に振る。


 いくらなんでもそんなまさかHAHAHA!!


「……実は。世の中には四回ほど氾濫に巻き込まれた不運な人もいるそうな」


「なにその人呪われてんの?」


「お前もそうなるんだぞ」


「まだ決まってねぇから!?」


 不吉な事いうなよマジで!?言霊的な事が発生したらどうするんじゃい!


 え、そんなオカルト気にしているのかだって?この世界が既にオカルトですけど?


「よし。そのツッコミ具合はいつもの京太朗だな」


「大丈夫そうで安心した」


「僕の安心感が削られたんだけど……?」


 君らその確認方法やめない?僕常識人だからね君らと違って。


 なんにせよ、お祓いを受けるまでは遠出しない様にしよう。そうすればまた氾濫に巻き込まれるなんて事は起きないはずだ。


 まあ、そもそも三回もこんな短期間で巻き込まれて、更にもう一回なんてあるはずがない。どんな確率だという話だ。


 ……それはそれとして、この前使った包帯は買い足しておこう。ついでに、閃光弾や照明弾が手に入らないか調べてみるか。



*  *  *



 その日の帰り道、友人達とわかれて一人のんびりと歩く。


 神社でお祓いに行くとして、ちゃんと効果は出るのだろうか。ぶっちゃけ今の世の中、『普通の呪い』なら自分で対処できてしまうし。


 黒魔法とやらが実在し、そしてそれを用いた犯罪も海外で報告されている昨今。少しだがその辺の情報も自分の耳に入っているし、レイラや魚山君からも軽くレクチャーを受けている。というか、そういうのを使うモンスターの『リッチ』とも戦ったことあるし。



『黒魔法』


 使い手が少ないとされる魔法ながら、その認知度は高い。そしてその危険度もよく知られている。


 基本的にあの魔法が扱うのは『呪い』と『死霊術』だ。他者を蝕む霊的な毒を呪詛として投げつけたり、死んだ者の肉体や霊魂を操る邪法……と、されている。


 派生と言うか、細分化と言うか。『呪術師』やら『ネクロマンサー』とかもあるらしいが、そこは割愛。


この魔法を特に危険視しているのは、モンスターと戦う覚醒者よりも非覚醒者だったりする。


 なんせ呪いの類は魔力の塊を飛ばすようなもの。覚醒者ならある程度視認できるし、魔力を用いれば干渉もできる。なんなら『抵抗』のランク次第では何もしなくてもレジストが可能だ。


 しかし非覚醒者の場合、そもそも呪いをかけられた事すら気づけない。だからこそ、『黒魔法』持ちは酷く警戒されるそうな。



 ……逆にそれが犯罪に走らせそうな気もするけど、これもまた僕には関係ない。


 何が言いたいかと言えば、そういう呪いなら自分は『白銀の林檎』の効果で常に遮断できるので、誰かに助けてもらう必要はない。


 怖いのは覚醒者が使うそれではなく、もっと概念的なと言うか……運命とかそういう感じな?上手く言葉にできない。


「何か悩み事ですか?シルバー」


「……お久しぶりです、花園さん」


 冷や汗が頬を一筋伝う。マジで気づかんかった。


 ゆっくりと振り返れば、そこにはニコニコと微笑むシスター服を着たダイナマイトボディの美女が立っていた。二メートル前後の日本人ばなれした長身と、これまた日本人ばなれした爆乳のハーフエルフなど、この人しかいないと思う。


 どうしよう。胸が高鳴る。これは恋?いいえ、恐怖です。


「あの、できれば突然背後に立たないで頂けると嬉しいのですが……」


「あら、シルバーはもしや殺し屋をおやりに……?」


「違います。ただ驚くだけです」


 考えてほしい。学校の帰り道、一人で歩いていたら突然後ろから不しん……変しつ……ちょっとアレな人が話しかけてくる恐怖を。


 恩人とは言え、この人がヤベェ奴なのは覆しようのない事実である。


「……ここでお会いしたのも何かの縁。最初に、どうかお礼を言わせてください。あの時は、助けてくださりありがとうございました」


 何はともあれ、まずはこれを言うべきだろう。感謝はできるうちにしておきたい。なんせ、こんな世の中だ。


 そう思い、腰を折り曲げて深く頭を下げる。


「シルバー?」


「ファイアードレイクから助けて頂いた御恩、忘れません。貴女のおかげで僕も、僕の仲間も生きて帰る事ができました」


「……良いのです。同士を助けるのは聖騎士として当たり前の事。さあ、顔をあげて」


「いえ、同士ではないです」


「これからも共に百合カップルを見守りましょう!」


「そもそもやった事ないです」


「百合に挟まる男がいたら一緒に排除しましょうね!」


「すみません僕も挟まりたい派です」


「プレスしますよ?」


「ひぇ」


 笑顔で拳を打ち合わせないでほしい。空間が拳で圧縮される音という日常生活でまず聞かないものを出さないで下さい。怖いから。


「おほん。冗談はさておき、どうやら心身ともに大丈夫なようですね。安心しました」


「え、心配してくれていたんですか……?」


「勿論です。命を救えばそれで終わりなど、聖職者の名折れ。時間は空いてしまいましたが、それでもその後の経過は心配しますとも」


「花園さん……!」


 この人、いい人だったんだなぁ……聖職者ではないけど。


 自称聖職者だけど。なんなら世界中の本物のシスターに謝った方がいい存在だけど。


「それよりもシルバー。何か悩んでいるようでしたが、どうしました?」


「ああ、いえ。あまりにもダンジョンの氾濫に巻き込まれるので、お祓いでも行こうかと」


 周囲に人影はない。周囲の家に建つブロック塀で人の視界も遮られているしと、普通に喋る事にした。これなら僕が覚醒者って、近所の人にバレないだろう。


「お祓いですか。私がやりましょうか?」


「いえ。お手数をかけるわけには」


 ある意味効きそうだけど代わりに変なのが憑りつきそうだからノーサンキューである。


 失礼は承知だが、それはそれ。これはこれ。


「……ですが、いっそこう考えるのはどうでしょうか。シルバー。氾濫によく巻き込まれるのは、ある種の『祝福』であると」


「はい?」


 何言ってんだこいつ。自分はマゾヒストではないぞ。


 むしろ、いったいどこの世界にミノタウロスやドラゴンに殺されかけて『祝福』と思う輩がいるのか。更には、視たくもない死体を散々目にする羽目になるのに。


「貴方がそこに巻き込まれたから、救えた命があった。悪い事ばかりではありません。消え行く生命を守る機会があったと思えば、神に感謝もできましょう」


「………」


 否定は、しない。


 英雄になれない身ながらも、どうにかこうにか助けた命はあった。それに感謝された事もある。


 それでも。


「すみません。そう思えるのは、『何も知らない人』か『本当の英雄』だけだと思います」



 命の火が消える所を知らないから。己がそうなる可能性が多分にあると知らないから。気軽にその様な事が言える人。


 真の英雄だから。他者の命を心の底から尊び、その人生を救う事に多大な充実感を得て満足できてしまうヒーローか。



 たぶん、目の前のシスター擬きは後者だ。ただの直感だけど、そう思う。


 だが僕は『愚者』である。それでいて、生き死に対して無知であるつもりもない。経験から、それを知ってしまった。


「僕は、他人の為に死ねない」


「……それもまた、良い事でしょう。己の命を軽視しない者こそ、他者の命を尊べるのだから」


「すみません、花園さん。貴女の言葉を否定する事になりますが」


「いいえ。私達はあくまで対等な同士」


「同士じゃないです」


「どういう百合に命を懸けるかは、己で決める事です」


「そんなこったろうと思ったよ」


 やはり狂人である。


「あー……それはそうと、お礼もしたいですし、今度何か奢らせてください」


「なるほど……百合について語り合いたいと」


「そこはナンパを疑う場面では……?」


「……?同士ですよ?」


「違いますよ?」


 うん。やっぱりだが会話が嚙み合っているようで噛み合っていない。なんだろう、性癖について話している友人達や相原君みたいな感じだ。


 つまり僕の知り合いでまともなのは東郷さんだけでは?緒方さんはあれ以来特に交友はないし。


「ですので電話番号か何か教えてほしいのですが」


「シルバー・リリィ」


 突然、花園さんが真剣な顔でこちらを見つめてきた。


 高校生になってからはあまり経験がない、女性を見上げて会話するという状況。それに加え、本人の顔の良さもありどうにも圧迫感を覚える。


 ただ、敵意の類は感じない。その美しい瞳に映るのは心配の色のみ。


 自分が知る限り最強の彼女が、その様な目をする。その事態に、硬い唾を飲み込んだ。


「――携帯電話は、何もしなくても壊れます」


 さては貴様機械駄目な人だな。


「何か勘違いしているようですが、決して私の力加減が下手なせいではありません。『神代回帰』よりも前からそうなのです」


「一応お聞きしますが、携帯を買った後ちゃんと説明書とか読んでいますか?」


「……やはり、駄目だったりします?」


「必要だからあるんですよ?説明書」


「つ、次からは気を付けましょう」


「そうしてください……とりあえず、こちら僕のスマホの電話番号とメアドですので」


 鞄からノートと筆箱を取り出し、スマホの設定画面を見ながら書く。普段こういうの書かないから、ちょっと新鮮である。


 そうして切りとったページを渡すのだが、花園さんは目を白黒させていた。


「あの、すまほとは?」


「……最近の携帯電話です」


「なるほど!」


 ……この人、普段どういう生活をしているんだろうか。気になるけど、なんか怖いから効かないでおこう。


「それはそうとシルバー!私、最近できた新しい友人から『探偵少女』で有名な『シャーロット・バートン』さんの特集記事を頂いたんです。一緒に視ましょう!」


「は、はあ」


「日本ではあまり手に入らない英国の雑誌なのですが、友人が私の為に日本語訳のものをくれたのです!」


 シャーロット・バートン。たしか『自称ホームズの生まれ変わり』だったか。


 まだ十代前半ながらかなり強力な覚醒者であり、己をかの名探偵の生まれ変わりだと名乗って様々な事件を解決しているとか。一番有名な事件は、『英国のハーメルン』だ。


 日本でも時々彼女の活躍が報道され、顎のラインで切りそろえた黒髪に碧眼の美少女という事も有りかなり人気である。


「彼女とその親戚である『ジェーン・渡来』という元軍医で現在は女医をやっている方の関係性や、その友人である女性の百合百合しい日常の一幕についてもくどくならない範囲で書かれているのです。間違いありません。これは営業百合ではありませんね。間違いなく無自覚系のガチです」


「お、落ち着いてください花園さん」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!脳が再生、拡張されるのを感じます……!これが、百合園の御加護……!」


「ひぇ……」


 眼が血走っている。前にテレビで見た重度の麻薬中毒者のそれと同じだ。


「こうしてはいられません!近くの喫茶店かファミリーレストランで語り合いましょう!朝まで!!」


「ちょ、まっ」


「行きますよシルバー!!百合の女神様も微笑んでいらっしゃいます!!」


「は、はい」


 本能が察した。これは逆らえんやつだ。


 奇行とは言え命の恩人のやる事。被害が自分だけというのなら無下にもできん。ついでに言えば、この『最強の狂人』とのコネクションを大切にしたいという下心もある。


せめて制服から着替えてからという事は納得してもらい、親に帰りは朝になると伝えておいた。たぶん、『朝まで語らう』というのは本気だ。


 普通高校生の息子がこれを言ったら怒られるだろうに、何故か泣いて喜ばれた。ちゃうねん。これ、どう考えてもそんな色っぽい話ちゃうねん。


「シルバー!!やはり百合の華は尊いですねぇ!百合の間に挟まる男は排除すべきですが、百合の間に挟まる女性……それもまた、いい……!」


「ソッスネー」


 まあ、そこに関しては否定しないけども。


 オネロリ三角関係……なるほど。奥が深い……。






読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


Q.シャーロット・バートンってどんな子?

A.実質『英国の花園加恋』です。

 両者の違いは花園加恋の行動原理が『百合』なのに対し、シャーロットは『ホームズ』です。

 一般的な範囲で幸福な家庭に産まれた彼女はかなり夢見がちな性格で、自分を本気で『ホームの生まれ変わり』と信じるタイプの狂人です。ただ、花園加恋との相違点は制御方法を国が確立している事ですね。

 ぶっちゃけ、彼女はホームズシリーズのある事件の影響で『英国王』からの依頼を断りません。それが『モンスターの間引き』や『犯罪者の確保』であればむしろノリノリで動きますし、なおかつ『完璧な探偵』ですので周囲の被害にも気を配りますし警察とも連携します。

 年齢とかで彼女を動かすのに批判もありますが、MI6を始め色々動いてメディアを操作するのは英国の十八番なのでなんとかなっています。

 まあ突然の奇行をしますがそれは半強制的にワトソン役をやらされた親戚の女医さんの胃がいじめられるだけですし。どちらかと言うと王室の力が強くなりすぎるぐらいしか問題がありませんね。

 お薬やタバコ?最強クラスの覚醒者にはただの煙ですので……それはそれとして女医さんは本気で説教をしますし取り上げようと格闘しますが。



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― 新着の感想 ―
不憫百合、そう言うのもあるのか。
[一言] やはり覚醒者は変態しか居ないのでは疑惑が。
[一言] うーむ? 何故主人公をシルバーリリーと呼び、同志として扱うのだろう? 多分、ギャグじゃすまない、何か深い伏線があるような気がしてなら無い。 勘違いなのか、それとも本当に愛馬であるべき存在…
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