閑話 バケモノをケモノに
アルトゥール
訳有りのブラジル出身男性。第十五話、十六話にて登場。
ジュリア
アルトゥールの彼女でパーティーメンバー。弓使い。スペイン系。
パウル
アルトゥールとパーティーを組む男性。口ひげが凄い。ドイツ出身。
エミリア
パウルの妹。同じくパーティーメンバー。魔法使い。実は京太朗と歳がそう変わらない。
閑話 バケモノをケモノに
サイド アルトゥール・サントス
「はぁ……はぁ……っ!」
息を切らせながら、スケルトンに足払いをかけて転がし、踏みつけてその頭蓋に剣を叩き込んだ。
二度、三度と振り下ろす事で頭蓋骨を砕き、顔を上げる。
「おおおおおおお!!」
パウルがメイスで強引にスケルトンの剣を退けた所に、ジュリアの矢が飛んでいく。頭蓋骨に当たってバランスを崩させたところに、フルスイングされた鉄槌が側頭部を打ち砕いた。
「皆、下がって!」
エミリアが杖を掲げ、こちらに向かってくる二体のスケルトンに魔法を放つ。
「『ファイヤーボール』!!」
放たれる拳大の火球。それが二体の中間地点で炸裂し、まとめて上半身を火だるまにした。
痛覚はなくとも身の危険を感じたか、立ち止まって藻掻く奴らにパウロと止めをさしていく。
「くっ……!」
「エミリア!」
崩れ落ちそうになったエミリアを、ジュリアが支える。慌てて自分達も近づけば、彼女の顔は血の気が消え失せあぶら汗がダラダラと流れているのが見て取れた。
魔力切れだ。もう彼女は戦えない。
「……撤退する。どうにか避難中の人達と合流しよう」
「しかし、ヤジマさんがまだ」
「わかっている。けど、全員もう限界だ。お前だって魔力は底をついているんだろう」
「それは……」
防衛装備庁魔導装備研究部部長、矢島孝太郎。
自分達は休日だと言うのに、彼の研究の手伝いのためとある基地に向かっていた。だが、その最中に今回の氾濫に巻き込まれてしまったのだ。
彼と護衛の山崎とはいつの間にかはぐれてしまい、現在捜索中である。
あの人を死なせるわけにはいかない。なんせ故郷に帰れない自分達にとって、この国で暮らすには彼の助けがいる。
そう思ってここまで戦ったが、死んでは元も子もない。
「それに。もう彼も避難を済ませているかもしれない。この国の津波文化で、そんな感じの事を言っていただろう」
「たしかに、そうだな……」
パウルも納得してくれた様で、渋々といった様子ながら頷いた。
「よし、撤退しよう。ジュリアは周囲の警戒を頼む。パウルはエミリアを支えてくれ。俺が護衛につく」
「わかった」
「任せて」
ぐったりとしたエミリアをパウルが背負い、ジュリアが弓に矢をつがえながら周囲を警戒する。
それにしても。とんでもない状況だな、これは。
改めて街の状況を見回し、眩暈を覚えそうになる。そこら中にスケルトンが徘徊し、道路には血と臓物が散らばっている。まるで地獄の門でも開いてしまったようだ。
だが、更に眩暈を覚えるのは。
「おらぁ、邪魔だぁ!」
「ばあさん、大丈夫か?」
「あーもううざったい!」
連携も何もなく、魔装を纏った『日本の覚醒者たち』の暴れ具合だ。
個々の力だけで。それも戦い慣れしていないのかへっぴり腰で振るわれる剣や斧。それが、恐ろしい速度と威力でもって化け物たちを蹂躙する。あそこの若者なんて、老婆を背負ったまま荷物をどかすようにスケルトンを蹴り飛ばしているのだ。
これでは、いったいどちらが化け物かわからないな。
「っ!アルトゥール!スケルトンの集団が近付いて来てる!」
「くっ、駆け抜けるぞ!」
ジュリアの警告に足を速めるが、疲労が足にきている。思ったように速度が出ない。
ガシャガシャと音を立てて、背後から化け物共が迫ってきていた。その数は、およそ十。
「神よ……!」
最悪だ。引き時を誤った!まさかここもこれだけの数がいるなんて!もう――。
「『氷牙』」
だが、それら全てが気づいた時には氷づけになっていた。突如蒸し暑い空気を引き裂いて、冷気が兜の下まで流れてくる。
ようやく思考が追い付いて、近づいてくる二人組に視線を向けた。
「なんだよあんたら。やけにちんたら走って」
槍をかついだ色白の小太りな青年と、その三歩後ろを歩く中学生ぐらいの着物を着た美しい少女。
顔立ちからどちらも日本人。だが、あの少女は……まさか『雪女』というやつか?
「マスター。彼らは外の国の覚醒者かと」
「あ?ああ。ただの雑魚か。怪我していたわけじゃないのな」
こちらに興味をなさそうに言われたその言葉に、兜の下で歯を食いしばる。
息を落ち着けて、まだ上手く喋れない日本語を使いながら頭をさげた。
「……助けてくれて、ありがとう、ございます」
「いいよ。それより邪魔だからさがってろ。雑魚がでしゃばっても何もできないんだから」
「……逃げている、途中です」
「そ。じゃ、俺達はいくぞ」
「はい、マスター」
去っていく二人組を見送り、その背中を強く睨むジュリアの肩を叩いて小さく首を振る。
彼にはたぶん、悪気はない。ただ事実を言っただけのつもりだろう。それでもかなりキツイものがあるが。
「行こう。今はエミリアを」
「……わかったわ」
それから、どうにか避難民の集団に合流。魔装を解除して紛れ込み、そのまま天蓋の外に出た。
魔力切れのエミリアを心配して話しかけてきた自衛官に尋ねれば、矢島は既に脱出していたらしい。なんでも、バケツ頭の覚醒者に助けられたとか。
……脳裏に、ここまでの道中で見た以上の『本当の化け物』の姿が浮かぶ。
この考えは流石に恩人に対して失礼だと、理性ではわかっている。それでも、あの桁外れの戦闘能力と、まるで自分こそが常識人だというズレた態度が不気味で仕方がなかった。
蘇るトラウマを振り切り、自衛隊のテント端で突っ立っている矢島を見つけたので駆け足で近寄る。
「矢島、さん。無事です、か」
「……ああ、アルトゥール君。君達も無事だったのか。よかったよかった」
何やら熱心に書き込んでいたメモから顔を上げ、矢島がこちらに視線を向ける。
少し妙だ。普段から薬でもやっているのかと言いたくなるテンションの彼だが、今は妙に落ち着いている。
「あの、山崎、さんは?」
「ああ。山崎二曹なら救急車に運ばれて行ったよ。命に別状はないらしいから、安心してくれ」
「そうです、か。よかった」
「君達ももしも怪我があるのならすぐに医者に診てもらいなさい。『これから』忙しくなるのだから」
「これから?」
まさか、救助活動を手伝えとでも言う気か?
既にこちらは限界だ。日本の覚醒者ほどタフではない。しっかり休みをとらないと、再度戦うのはきついぞ。
「私達。戦えません。疲れてしまいました」
「ああ、いや。この場はもういいんだ。応援も来ているし、指示系統の違う我々がでしゃばっても混乱を招くだけだからね」
そこで、ようやく気付く。
眼鏡越しに見える彼の瞳が、異様に血走っている事に。
「これからは、未来の話さ。本当に忙しくなるぞぉ。ああ、昨日までの自分を殴り飛ばしてやりたい!目が覚めた様な気分だ!!」
突然叫び出した彼に、周囲の視線が集中する。
「そうだ!そうだとも!!今まで心のどこかで、この超常が日常となった世界に私達の力が及ぶものなどありはしないと思っていた!!だがそんなものはただの諦めだ!先人たちへの侮辱に他ならない!!」
「矢島、さん。落ち着いて」
「落ち着いてなどいられるものか!!やるぞ!我々が変えるのだ!歴史を!社会を!化け物を獣に堕とし、鉛玉でその頭蓋を砕き脳髄を掻きだしてやるのだ!!」
この男、ついに狂ったか?
明らかに引いている自分達に気づいた様子もなく、彼は続ける。
「彼には感謝しなくては!!そうだとも!人類は成長を続けている!かつての神代では一握りの英雄しか化け物を倒す事はできなかった!だが今は違う!今の神代では、人類は多くの知識を蓄えてきた!それを!いかす!時なのだよ!!」
血走った目のまま、こちらの肩を矢島が掴んできた。
その握力は覚醒者である自分でさえ痛みを感じる程で、狂気さえはらんだ笑みは怖気を感じさせる。
「鉄と電気と戦士でもって!『英雄』ならぬ存在でもって!化け物どもを駆逐するのだ!!君達にも手伝ってもらうぞ、アルトゥール君!!!」
「は、はい」
気圧される自分をよそに、矢島はまたメモに何かを書きなぐっていく。
「ああ、早く研究所で計算を……スマホではダメだ。足りない。スパコンの使用を申請して」
「矢島さん」
その時、彼の肩を叩く人物が現れた。
迷彩服に十字を描いた腕章をつけた自衛官である。彼女はニッコリとほほ笑みながら、しかし額には青筋が浮かび上がっていた。
「どうかお静かに。避難してきた住民の方々が不安になってしまうので」
「は、はい……」
どうやら正気に戻ったらしい。
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