第五十話 今の世界
第五十話 今の世界
サイド 大川 京太朗
それから更に三分ほど進んでいけば、レイラが『自然魔法』で周囲の地中をサーチする。
「……主様から見て十一時の方向に魔力反応があります。数は三つです」
「わかった。リーンフォース」
「了解しました」
レイラが示す方向には森が続いている。そちらに武器を向けながら、リーンフォースが周囲を警戒。
じりじりと近づいた所で、ぼこりと地面が動く。
現れたのは石で出来た二メートルほどの巨体。リーンフォースよりもよほどゴーレムらしい姿のそれらが、のっぺりと目も鼻もない顔をこちらに向けてきた。
「標的を目視。事前情報から『ノーム』と断定」
無言のままこちらに突っ込んでくる大きな石を幾つも組み合わせた様な怪物たち。この角度なら二人がかりで迎撃できる。
念のため、自分も切っ先を奴らに向けて一歩前に出た。
オリンピック選手なみの速度で走って来たそいつらに、先制で一撃。片方はリーンフォースが頭から股まで両断し、こちらは鳩尾からうなじにかけてを抉り飛ばす。
あちらはそのまま動きが止まったが、自分の方はそのまま右フックを打ってきた。どうやら『はずれ』だったらしい。
右フックを左の裏拳で粉砕し、ならばと自分も素早く引き抜いた剣で縦に両断する。すると、石の巨人の腰当たりで何か別の物を切り裂いた感触。
視れば、真っ二つになって左右に崩れる石の怪物の向こう側。肩から脇にかけてを切り裂かれた『石でできた人形』がごろりと転がる。
『ノーム』
その大きさは二十から三十センチと小柄ながら、岩石の様に硬い体と黄魔法により地面を操り戦闘用の体を作り操る。また、地面の中に潜伏し奇襲を仕掛けて来るともされている。
残りの一体が自分に向かって殴りかかって来た。迎撃しようとするが、視界の端でリーンフォースがこちらに駆けてくるのが見えたので止めておく。下手に剣を振るうと彼女に当たりそうだ。
横合いから突進する様に剣を叩き込んだリーンフォース。石の怪物は一撃のもとに上半身を吹き飛ばされ、その中に半壊した石の人形が視えた。
それに軽く一閃。両断したそれを目で追いながら、剣を肩に担ぐ。
「リーンフォース。お疲れ様」
「いえ。当機の使命は貴方の生命の保護です。マイスター」
「お、おう」
中々距離感がわからない。どう接したものか。
……けどこういうロボロボした受け答えの相手が機械的に『セッ!』してくるのってそれはそれでいいと思うのだ。
僕は無表情物とタイトルに書いているのに途中からヒロインの顔に感情が出てきちゃうのは許せない系のオタク。
これはこれで、ヨシ!
そんな馬鹿な事を考えながら、念のため目だけは周囲に向けておく。
見えづらく動きが素早いシルフ。地中に潜り奇襲してくるノーム。それ以外にもいるが、このダンジョンが敬遠されるのは『戦いづらい』からに他ならない。
奇襲なんて当たり前。その上でこちらの攻撃が当たりづらいという、そりゃあ冒険者達もそこまで通おうとは思えない。
だからこそ、リーンフォースの探知能力の確認にもってこいなのだが。ついでに、ドロップ品も落ちてくれれば万々歳だ。
改めて粒子化するノーム達に軽く視線を向ける。
「……ドロップは、なしか」
まあ、そうそう上手くは行かないか。まだ探索を始めてからそれほど経っていないし、ここから落ちてくれればいい。
サラマンダーとは別に、ここのモンスターも魔石を落とす。それを使えばレイラの手札も増えるので、できれば回収したい。
「探索を続けよう」
「「はい」」
「了解しました」
それにしても、今の所リーンフォースに問題は見られない。強いて言うなら自分とのフレンドリーファイアが不安だが、それはお互いに慣れていけばいいだろう。
……これは、マジで自分のポジションを考えないとな。ヒモは嫌だぞ、ヒモは。
* * *
探索開始から約一時間。道中ノーム二十数体、シルフ十数体を倒した頃。ぴちゃりと水が跳ねた音を捉える。
「当機より十時の方角に水音を感知。距離は約五十メートル。物体が泳ぐ音はなし。魔力反応――有り、数は三。事前情報より『ウンディーネ』と推測」
「わかった。ありがとうリーンフォース」
本当に便利だな、その探知能力。レイラ曰く、人間では覚醒者であっても日常生活がきついぐらい五感を強化し、その上で魔力のソナーみたいなのを搭載したらしいけど。
彼女が自分に『これが必要だ』と胸を押し付けながらダンジョン産のアイテムについて説明してきたのもよくわかるというもの。
……決して色仕掛けに落ちたわけではなく、きちんと説明を受けて納得しただけである。
『ウンディーネ』
水辺に現れる精霊とされ、その身体は水で構成された女性の様な姿をしているとか。例のごとく水を操るモンスターである。このダンジョンはサラマンダーも含め四種の精霊が生息しているらしい。もっとも、サラマンダーは少ないらしいが。
道なりに進んでいけば湖とは言わずとも結構な大きさの池が視えてきた。穏やかな風が軽く水面を揺らす程度で、何かがいる様には思えない。
だが、こうして視界が開けたのなら自分の魔眼も相手の居場所を目視できる。純粋な眼の良さなら、魔眼持ちとして負けはしない。
「雪音」
「はい!『氷牢』!」
自分が指さした場所に容赦なく放たれる六つの氷柱。水面が凍り付き、悲鳴を上げながら三体のウンディーネが出現する。
「『ファイヤーボール』」
そのうちの一体に火球が直撃。水の体を弾けさせる。それを見ながら、こちらに二体のウンディーネが放ってくるバスケットボール大の水球をリーンフォースと共に受ける。
自分達の前でレジストされ散る水の球。それらを突き破り、氷と炎の槍がそれぞれ放たれた。片やはじけ飛び、片や凍り付き氷像になるウンディーネ達。
それらが粒子になっていくのを見ながら、ドロップを確認。すると、池の中に沈んでいくキラリと光る物を見つける。
「レイラ!あれ、あれ!」
「『水よ』」
レイラが杖を一振りすれば、池に不自然な流れが出来て光る石、『ウンディーネの魔石』をこちらに引き寄せた。
それを拾い上げて確認すれば、確かにドロップした魔石だとわかる。
「よっし。この調子で探索を続けて行こう。けど、それぞれ気を抜かずに」
「「はい!」」
「了解しました」
「……えっと、リーンフォース」
「はい」
「ダンジョン内だし、『了解』ってだけでいいんじゃない……かな?」
「了解」
短く簡潔な方がいいかなと思ってそう言ったが、なんかいちゃもん付けているみたいになってないかな?大丈夫かな?
困った。本気で関わり方がわからんぞ。いや、リーンフォースに不満はないのだけれど、それはそれ、これはこれ。どうしたものか。
「主様」
「レイラ?」
こちらの肩をつんつんと突いてきた彼女に振り返る。
「主様。リーンフォースはゴーレムですので、無理に気遣う必要はありません。スマートフォンに呼びかける程度の気持ちで問題ありませんよ?」
「そうは言っても……」
見た目完全に人なので、物みたいに扱うというのも気が引ける。というか、見た目どころかアレコレした時のも、はい……。
かといって愛想よくしろと命令するのも嫌だ。せっかくの無表情クールアンドロイド風ゴーレム美女なのに、それはあまりにも勿体なさすぎる……!
で、ではなく!そういうのは命令するものではないと思うのだ。
「……では、もっと亭主関白な感じで」
「ていしゅかんぱく」
なんか現代日本で下手に口に出したらフルボッコにされそうな単語が出て来たな。
「主様はこのパーティーの指揮官であり、要です。貴方が死ねば誇張なく全員終わりの身。『使ってやる』ぐらいの気持ちで、どうぞ」
「お、おう」
「ベッドで命令する時みたいな感じでお願いします」
「レイラさん???」
君さては僕の脳みそは下半身と直結していると思っているね?
……しょうがないじゃないか!!男子高校生は皆そんなもんだよ!!
* * *
何があれって、レイラに言われた通り振る舞ったらその後の探索が凄くスムーズにいったというのがね。はい。私は下半身に脳みそがある屑です。
途中ノームの集団に囲まれかけるなどもあったが、リーンフォースの探知もあり奇襲は受けることなく逆に蹴散らして終了。
ノームの魔石が二、ウンディーネ、シルフが一ずつ。マンドレイクは三つ採取。ノームの魔石を一個だけ売却するとして、儲けは討伐報酬もあり三十八万と八百円。
本来なら四人パーティーで一人頭十万もいかない額だが、僕の総取りとなるのでかなり懐が潤う。使い魔とゴーレムに初期費用を費やせた冒険者ならではだろう。
……いや。少し金銭感覚が狂っているかもしれない。一日で十万近く稼げるならかなりの儲けだし、三十万オーバーはどう考えても真っ当な職じゃ無理だ。
やばいな。これ、マジで将来は普通の職につけないかもしれないぞ。
更に言えば、マンドレイクを始めその内養殖が可能になる素材も出てくるだろう。魔石の類も、近いうちに値下げが始まるはず。財布のひもはそろそろ厳しくしないといけないかもしれない。
……何はともあれ、リーンフォースの性能に問題はない事が確認できた。四精霊の魔石も揃ったし、レイラの手札も増える。今度はまた『エンプティナイト』のダンジョンに行き、鎧目当てで探索をしよう。
そんな事を考えながら、ダンジョンストアを出る。バス停の時刻表を見てため息をついた後、スマホを弄る事にした。こういう時彼女らを出して話し相手になってもらえたらいいのだが、ストアで働く一般の人らもいるのだ。余計なトラブルはごめんである。
美女や美少女を引き連れたモブ顔の男とか、ネットにあげられてボロクソに言われそうだし。レイラや雪音は見えないかもしれないけど、リーンフォースは普通に実体があるからなぁ。かといってレイラ達だと今度は独り言が痛い人に……。
適当にネットの記事でも見ているかと画面をスライドさせていけば、いつも通り話題の大半は覚醒者やダンジョンに関わるものばかり。
『オリンピック委員会が本日正式に覚醒者の競技参加を禁止する事を発表。ハーバー会長は覚醒者のみで行う競技も検討を進めていくと会見で――』
『人気RPGシリーズ。『キャプテンドレイクと運命のダンジョン8』が開発中止に。昨今増加を続けるダンジョン被害もありモンスターやダンジョンを扱う作品の自粛が――』
『アメリカで非覚醒者差別に対するデモ隊がホワイトハウス前で抗議活動を実施中。日本から移り住んだ覚醒者に発砲があったという情報も――』
『中国北京近郊でキョンシーの集団が発見!?中国軍が防衛線を構築しているものの、キョンシー事変の再来かと市民には混乱が――』
『イギリスで『ホームズ少女』がまたまた大活躍!違法な人体実験を繰り返していた魔法使いの研究所を爆破。犯人グループは非覚醒者をゴーレムの材料に――』
「えっ」
キャプテンドレイクシリーズの新作、中止になったの?マジで?
なんか色々凄いニュースがあった気がするが、海の向こうの事より身近な方に意識がいくのは当たり前なわけで。自分の視線はとある記事に釘付けになった。
『キャプテンドレイクとダンジョンシリーズ』
若き船長ドレイクがカットラスとピストルを手に、愉快な仲間たちと色んな島々を巡って各地の迷宮でトレジャーハントをする人気ゲーム。自分も小・中とやっていたので、このニュースは驚いた。
対応するゲーム機を持っていなかったから7はやっていなかったけど、少しショックだ。そのうちまたやろうかなと思っていたのに。
もう少し詳しく調べていくと、どうにもダンジョンの氾濫を逃げ延びた人達を中心として、『ダンジョンやモンスターを扱ったゲーム』全般に批判の声を上げる人が増えているらしい。
なんでも、『嫌な記憶を思い出す』『ダンジョンの危険性を子供が軽く思ってしまう』『不謹慎が過ぎる』等の手紙や電話が開発会社に多数送られ、社員の自宅に直接文句を言いに来た人もいたそうな。
……正直、複雑である。
ダンジョンの氾濫で死ぬ人達を、少なくない数見てきた。冒険者であるからストア周辺の光景だってよく見る。だから、ダンジョンやモンスターのせいで生活を奪われた人達の気持ちもわからないでもないのだ。
けど、それでこういう事が起きるのはなんというか……どうなんかなぁ。
そもそもの話、あのゲームと実際に今あるダンジョンやモンスターはかなり中身が違う。ぶっちゃけ、メジャーなモンスターぐらいか?共通点と言えるのは。
この中止を受けてネットでは悪い意味でお祭り騒ぎだ。中止では生ぬるいシリーズ自体を完全になくせという声もあれば、気にし過ぎだと批判の声を上げた人達にキレ散らかす人達もいる。
なんかもう、軽く調べただけで憂鬱になってきそうな罵詈雑言が乱れ飛んでいるので、そっとページを閉じレッサーパンダの威嚇画像でも眺める事にした。あ~癒される~。
……それにしても。世間で、覚醒者やダンジョン。そしてモンスターに対する認識がバラバラな気がする。
覚醒者は『犯罪者予備軍』なのか『なりたい存在』なのか。
ダンジョンは『触れてはならないタブー』なのか『夢のある稼ぎ場』なのか。
モンスターは『名を言う事すらおぞましい怪物』なのか『倒すべき敵』なのか。
何もかもがバラバラだ。たぶん、それぞれの認識はもっと多岐にわたるのだろう。それがいいのか悪いのかわからない。当たり前、と言われたらそれまでだし、思想の統一という考えもどうかと思う。
……情報が足りないから、こうなるのだろうか?
変わってしまった世界。その事に対する知識が足りていない、とか?まあ、僕だって全然知らないけど。なんせただの学生だし。
……ダメだ。全然考えがまとまらないし、それどころか『どこが問題となっているのか』がはっきりしない。論点が曖昧な思考など無意味。それこそ『下手な考え休むに似たり』だ。きっとお偉いさん達がどうにかしてくれると祈ろう。
自分に今出来るのは、せいぜいゲーム会社の投書コーナーで『新作期待しています』と打ち込むぐらいである。今度、お布施感覚で株をちょっとだけ買おうかなと思いながら。
世に起こる乱を対岸の火事と思う事なかれ。
何故なら我らは気高き志を持ち試練へ挑む『勇者』ではなく、唐突に、何の脈絡もなく訪れる理不尽に翻弄される『愚者』なのだから。
今はまだ、次なる争いに震えて眠れ。
……ポエム風次回予告を書きましたが、やはりこういうのの才能はないので今後は控えます。けどノリで何か後書きに書く時もあるかもしれませんから、どうかその時は生暖かい目をしてください。
今話も読んで頂きありがとうございます。
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