第四十八話 リーンフォース
第四十八話 リーンフォース
サイド 大川 京太朗
月曜日の夕方。異界内にあるレイラの工房の前に彼女と自分、そして雪音が集まっていた。
「ゴーレム作成計画の開始から一カ月近く。長らくお待たせしました」
とうとうこの時が来たのだと、優雅な一礼をするレイラを見つめる。
……いや一カ月って結構早くね?
「では、早速お見せしましょう。我々の新たなる戦力。試作ゴーレム一号機、『リーンフォース』です!」
そう言ってレイラが工房の扉を開く。中は作業台と思しき物がどかされ、中央に広めのスペースが出来上がっていた。
その中央に佇む、一体のゴーレム。
「おぉ……!」
思わず感嘆の声が漏れ出る。何故なら、予想以上の物がそこにいたのだから。
百八十前後の長躯を覆う、黒を基調し鋭角な印象を受ける装甲。胴体や頭部等は一部が銀色で塗装され、それ以外にも黄色のラインが刻まれている。
特徴的なのは横に大きく突き出した肩のパーツと、スカートの様に広がる腰の装甲か。
なんとも少年心をくすぐるデザインである。ロボットアニメで敵のライバル機かラスボスが乗ってそう……!
「すげぇ、すげぇよレイラ!さいっこうだよ!」
「『あの姿を視て』、お褒めの言葉をいただきながら申し訳ないのですが……」
テンションが跳ね上がり、近寄ってゴーレム……いいや、『リーンフォース』を色んな角度から見る自分にレイラが言いよどむ。
「……そのゴーレム。妙に『表面部分』から魔力を感じないようですが」
どうしたのかと彼女に視線を向けていたら、雪音が不思議そうに首を傾げていた。
表面部分……装甲?
彼女の言葉に改めてリーンフォースを見てみれば、確かに魔力が薄い。それに金属の光沢こそあるけど、なんか安っぽいというか……。
「お察しの通り、『本体』は完成しましたが装甲は未完成です。先日の探索で獲得した鎧も、右手と両足だけでしたので」
「ああ、そういう」
なるほど、通りで。けど本体?装甲の内側って事?
ゴーレムその物からはしっかりと魔力が感じ取れている。それも、魔法使いではない為そういった感知が下手な自分でさえハッキリとわかる程のものが。
まあ、レイラの言いたい事はわかった。ようは『装甲以外』が完成したと。ロボットとかならそれも含めて完成なのかもしれないが、まあゴーレムだし。
「その張りぼてはサイズの確認と完成時のイメージをしやすくするために作った物。リーンフォース、装備のパージを」
「了解しました」
「!?」
突然聞こえてきた声の方向を見れば、当然の様にリーンフォースしかいなかった。
「え、喋れるの!?」
くぐもった様な声だったが、確かに女性の声だ。びっくりした、音声認識とかそういうのもあるのね。
けど確かにダンジョンで一々命令を入力とかも難しい。声で反応し、返事をしてくれるのはありがたい。
そう思っていたら、リーンフォースがまるで兜でも脱ぐように頭部の装甲を外した。
「……は?」
「そんな気はしていました」
呆然となる自分に、遠い目をする雪音。二人して見つめる先には、当然ながらリーンフォースがいる。
兜の下から現れたのは想像していた剥き出しの配線や武骨なフレームではなく――美しい、女性の顔だった。
煌めく黄金めいた長髪を後頭部でまとめた翡翠色の瞳をした美女が、そこにいたのだ。
呆然とする自分をよそに、レイラも手伝って見る間に鎧が脱がされていく。すると、彼女?の凄まじいスタイルが見える様になった。
片乳で僕の頭ぐらいあるのではないかという爆乳。それでいて無理のない範囲でくびれた腰に、乳に負けない尻。それを支える太もも。
だが肩から先や膝から下は華奢で、そもそも装甲を脱いだら肩幅とかもどうやってその乳を支えているのかと言いたくなるほど細い。
というかインナーエッッッロ。深夜のロボアニメに出てくる『捕虜になった後の生存戦略かな?』と言いたくなる脇出し腿出しなピッチリスーツじゃん。透き通るような白い肌に黒いそれはダイナマイトボディなのもあってひどく卑猥だ。
装甲。いや鎧を脱ぎ終わったリーンフォースが、綺麗に直立する。
「改めまして、これがリーンフォースの本体です。こちらに装備を施す事で先ほどの――」
「待て待て待て」
何事もなかったように説明を再開しようとするレイラを、思わず真顔で制止する。
視線がリーンフォースの『自己主張の激しいロケットオッパイ』とか『えぐい食い込みのハイレグ』で上下しているが、それは正確に何が起きているのかを知る為である。
決して他意はない。信じて!!
「なんでしょう、主様」
レイラ。そんな可愛い笑顔でこてんと首を傾げられても誤魔化しきれないんだ。この山脈はでかすぎる。
「なに、この……なに?え、どういう事?」
「申し訳ございません。質問の意味がわかりませんが、コレはゴーレムです」
「それは、うん。わかった。どうにか、うん。問題はね、どうして女性型?」
「はい。基本的には敷地外に持って行く際はアイテム袋に入れておく予定ではありますが、有事の際護衛として出しておく場合も想定しております。その為、人間として違和感のない姿にしておきました」
「な、なる、ほど?」
「そして、どうせならば主様が喜ぶだろう顔と体つきにしておこうかと、この様なデザインに……もしや、お嫌いでしたか?」
「いや、大好きです」
でっか、エッロ……。
所詮ゴーレム、されどゴーレム。
無表情アンドロイド物のエロ本をスマホに多数保存している身としては、正直言ってムラムラする。
それはそれとしてツッコミたい。いや変な意味ではなくガチの方で。
「これは、ふれっしゅごーれむ?なる物でしょうか?」
「いいえ。購入したスライムのエキスやその他ダンジョン産の樹脂などで作り上げた、ウッドゴーレムの一種です。ですが、触り心地は人間のそれを再現しているはずです」
雪音の問いに、レイラがスラスラと答える。
そう言えばゴーレムの材料としてそんなん注文してたわ。滅茶苦茶高かったのを覚えている。
「主様。この機体を女性型にしたのはもう一つ理由がございます」
「理由?」
いつも通りの笑顔ながら、瞳に真剣な光を宿したレイラに気合で視線を引き戻す。どうやら、『このインナー後ろから見たらケツ丸見えじゃね?』とか思っている場合ではないらしい。
ナチュラルに目がそのまま彼女の胸元に行き、固定されそうになったのはどうにか回避した。
爆乳もいいけど巨乳もいいよねとか考えていません。信じて!
「子作りです」
「なんて?」
いや本当になんて?
「主様の性交相手は私と雪音のみ。このままでは、子孫を残す事に支障をきたしかねません」
「は、はあ」
「ですので。今はまだ搭載していませんが、リーンフォースに人工子宮を載せそこに主様の子種を注ぎ込んで頂きます。貴方様が人間の女性とそういう仲になれる確率は限りなく低い今、これしか方法がありません」
「そこまで?そこまで言う?」
もしかして僕の事『絶対に人間の女性と恋仲になれない存在』って思っている?
……どうしよう。否定できねぇ。というか既にレイラと雪音と二股している段階で、普通の感性持っている人からしたらクソ野郎確定だし。ついでに言うと二人と別れて他の人とも思えない。
「なるほど。理にかなっています」
「納得するんだ……」
大きな胸の下で腕を組みうんうんと頷く雪音。
……流石雪音。リーンフォースにも劣らぬ爆乳ぐあいだ。
「ワタクシ達雪女は嫉妬深い存在です。しかしゴーレム相手ならば、旦那様のへんた……趣味として受け止められます。そういうプレイなのだと」
「なんで『変態プレイ』って言うのを避けたのに『プレイ』って言っちゃったの?一番肝心な部分だよ?」
「問題は、そこに納められる卵子の方ですね。流石にその相手までは嫉妬しませんが……万が一にも子の親権を主張して来たらわかりません。その子はうちの子です!」
「まだ生まれてもないよぉ……」
やばい。雪音が僕以上に未来を視ている。何やら虚空に向かって「ふふっ、今日からワタクシがあなたの母ですよ~」とか言っているし。
エア高い高いする人初めて見た。
「いや、レイラ。それは大きな問題があると思うんだ」
「卵子の提供者の選定ですね。そちらは、いざとなれば金銭で手に入るかと」
「違う、そうじゃない」
どう考えてもそこではない。いや、それもツッコミどころではあるけど、もっと根本的な部分。
「人間用の人工子宮とか……できてないよ?」
「!?」
「今日は入園式ですね……母は嬉しく思いますよ……」
何故か笑顔から真顔になり、そしてまた笑みを浮かべるレイラ。珍しくその頬には冷や汗が流れている。
「なるほど……流石です主様。よもやその様な問題点があったとは」
「君、時々もの凄い馬鹿になるよね」
「まあっ、母の日のプレゼントを……!?綺麗なお花ですね……」
もう、どこからツッコミいれたらいいかわからんのだわ。
人工子宮って、詳しくないけど動物用のが実験段階ってレベルだし。そうでなくとも倫理的な問題で一般に実装されるかも不明な物だ。今はSFの中にしかない。
そもそも人工子宮とか発想が飛躍しすぎでは?そこまでして子供欲しいとは今の所思っとらんよ?
「既にお母上様とお父上様に話は通していましたが、これでは計画を中断する必要が出てきますね」
「何やってんの?何とんでもない話を通しちゃってんの?」
「お二人とも泣いて喜んでいらっしゃいましたよ。『それでも孫の顔が見られるのなら』と」
「何言ってんだあの二人!?」
「ああ……こんなにも立派になって……よいですか。結婚生活には三つの袋が」
やべぇよ……僕が思っていた以上に両親が思いつめていたよ。そこまでして孫の顔が視たかったのか。
というか、高校生の息子に対して普通そんな懸念する?そこまで僕がヤベー性癖の持ち主とか思っていたりすんの?
……今度、母さんと父さんにはちゃんと話そう。流石に冷静になってほしい。
「とにかく……人工子宮とかその辺の話は一端ストップ。高校生でどうこう言う事じゃないし、その辺は世間の常識とかも考えていこう、ね?」
「かしこまりました。では、リーンフォースの見た目はより戦闘に適した物に変更しますか?今からなら十分修正がききますが」
「……い、いや。せっかく作ったんだし?今からわざわざ変える必要はないんじゃない?もったいないし」
このオッパイを捨てるなんてもったいない!
じゃなくって。わざわざダンジョン産の素材を買って来て作ったのに、そんな勿体ない事はできない。
いや、マジで凄い費用かかったし。自分で採取して回んのは無理と判断して購入で済ませたけど、かなりの額がかかった。またダンジョンで稼がないと……。
「なるほど。主様の性欲が顕著なのは良い事です。いずれ必ず子種を世に残しましょう」
「レイラさん。もうちょっとね、オブラートというものを知って頂きたい……」
「これが、ワタクシと旦那様の孫……ふふっ。なんと愛らしい。大きく、健康に育つのですよ……」
「私は守護精霊。主様の健康と幸福を第一に考えますが、貴方様の一部として『子孫を残す』という生物としての命題を忘れるわけにはまいりません」
「そ、そうなんすか」
「やはりランドセルの色はもっと普通の方が……そうですね。現代ではもう男子なら黒、女子なら赤という時代ではないという事ですか……」
なにやら笑顔のままレイラがぐっと拳を握っている。可愛い。そして両側から腕に押されて変形する胸がエロい。
「では、リーンフォースそのものはこのままで。リーンフォース、主様にご挨拶を」
「はい」
リーンフォースが直立不動の体勢から、テレビで見る高級ホテルのコンシェルジュでも早々出来なさそうな綺麗なお辞儀をしてきた。
けど言わせてほしい。恰好と体つきのせいで桃色な感想しか出てこない。
お辞儀に合わせてたゆんと動き、重力に引かれて下に伸びる乳。すげぇ、これが今はやりの『長乳』ってやつか。見ているだけで柔らかそうだ。それでいて、背筋を伸ばしていた時は前に突き出ていたあたり張りも十分なのだろう。
「……今から『ナカ』を確かめますか?」
「シナイヨ!?」
「当機はいつでも受け入れ可能です」
「今はしないからね!?」
だからレイラさん後ろから押さないで!?そしてリーンフォースも両手を広げないで!?
もう少し!もう少しムードというのを考えてほしいなって!!??
「雪音!雪音ヘルプ!ヘルプミー!!」
「まあ。ワタクシ達の孫にもついに反抗期が……そういう時は、目線を合わせて根気強く接してあげなさいな。あなたの頃も旦那様がそれはもう……」
ちくしょう、随分未来を視ていやがる!!
* * *
その夜、緊急の家族会議を行った。
両親としっかりと目を合わせ根気強く話した結果、どうにか『色々とまだ早すぎる』というのをわかってもらえたのは幸いだ。どうにも、魚山君に色々吹き込まれたらしい。あの眼鏡は一度泣かす。
それはそうと、『孫』という単語が出てきた瞬間雪音がハラハラと静かに泣きだしたんだけど、僕はどうすればいいんだろうね?
読んで頂きありがとうございます。
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Q.どうして『リーンフォース』?
A.パーティーの戦力を『補強』するという事で、この名前になりました。
Q.ゴーレムにまで興奮するとか京太朗ガチの変態じゃん。
A.京太朗
「ラ●ドールに一切興味をもった事がなく、そしてメイドロボ系のエロ同人にただの一度も興奮した事のない者だけが石を投げなさい……」
Q.そういえば人工子宮とかで子供を作った場合、覚醒者としての才能は遺伝するの?
A.後々の話でも出てくるかもしれませんが本筋には影響が少ないので言ってしまうと、『遺伝する確率が滅茶苦茶下がります』。遺伝した場合でも、劣化した形になるかと。ただし、『霊的によっぽど高性能な人工子宮とか、環境に設置すれば大きな問題はない』かもしれません。
例えば、ダンジョン産の素材をふんだんに使い、その上でメインの動力炉部分にとある林檎を使ったゴーレムの中とか。




