第四十七話 装甲
第四十七話 装甲
サイド 大川 京太朗
東郷さんに『ゲート隠し』の魔道具について相談した翌日である、日曜日。
自分は四つほど駅をまたいだ先の街に来ていた。といっても、ここで終わりではなく更にバスで結構行く羽目になるのだが。
やってきたのは、山間にあるダンジョンストア。都市部から離れているし、その上ダンジョン発生により周辺二キロは無人地帯だ。
それだけアクセスに難がある場所なのに、ストアにはある程度の冒険者の姿がある。
今回探索するのは『Cランクダンジョン』だが、それでも人気はあるほうだ。無理もない。
ちなみに、一番人気は言うまでもなく雪女の出現するダンジョンである。討伐数は少ない代わりに、使い魔化による間引きがされているという変な状態だが。考える事は皆同じである。
そう言えば。この前、少子化対策の専門家さんがテレビで『そのうち日本の覚醒者は人間と結婚しなくなるのでは』と真顔で懸念していたな。
……きっと僕以外の覚醒者は普通に人間と結婚して子供を作るだろう!!たぶん!!!
今はダンジョンに集中しなくては。『Cランク』は十分に危ないのだから。
気を引き締め直してロッカールームに向かい、準備を終えて受付に。そして五分ほど並んで、ゲートを潜る。
出てきた先は石造りの建物の中。ただし窓は黒く塗りつぶされ、異様な熱気が通路を通り過ぎていく。石のブロックを積み重ねた様な壁には、松明の様な物が取り付けられていた。
無言でレイラと雪音を実体化させながら、自分もツヴァイヘンダーを抜剣。通路の幅と高さは……普通に振っても大丈夫そうだな。市役所の情報通りだ。
二車線道路はありそうな広さの通路で、天井は四メートルぐらい。壁際で戦わなければ切っ先が引っかかる事もないだろう。
「レイラ、雪音。手筈通りに」
「はい」
「お任せください」
……内心、ちょっとだけ雪音が心配である。
炎龍の一件で彼女が僕の為なら即断で命を懸けてくれる女性だとわかった。だが、それは男としてはかなり複雑な感情を抱かせる。
これだけの美女がそれほど自分を好いてくれる嬉しさ四割、そんな事をしてほしくない憤り四割。残りの二割は、言語化もできそうにない。
今回のダンジョンは安全マージンのとれている所だが、万一の場合また同じ事をさせてしまうのではないか。もしもそうなったらトラウマになる自信がある。
それでも今更冒険者を辞めるというのも、それはそれで不安だ。今後の世の中を考えると、戦力的にも経済的にも。
ただ言えるのは、彼女に……『彼女らに、そんな選択を取らせる状況を作らない』。それのみだ。
剣を構え自分が先頭を進む事、五分。ガシャガシャという足音が聞こえてきた。
チラリと視線をレイラに向ければ、彼女は指を二本たててくる。それを頷いて返し、通路の先を見据えた。
松明めいた魔力の火だけでは薄暗い前方。そこから、二つの人影が出てくる。
いいや、『人影』というのは語弊があるだろう。確かに人間そっくりだが、アレらはモンスターだ。
『エンプティナイト』
名前の通り、中身のない騎士。全身をプレートメイルで包み込み、手には武器を持っている。似た様なモンスターである『リビングアーマー』が『D』だと言うのに、このモンスターはワンランク上の評価がされていた。
その理由は単純。
――ガシャリ。
リビングアーマーよりも強いからだ。
盾と剣を持った個体と、両手で槍を持った個体。それらが猛スピードで突っ込んでくる。盾持ちが先行し、槍持ちがそれをカバーする様に後ろからついている様だ。
それに対し、雪音が扇子を向ける。
「『氷風壁』!」
氷の壁が通路中央に出現。更には雹の混ざった風が奴らの速度を低下させる。
だがこのダンジョンの熱気は彼女の妖術を若干だが低下させ、壁のサイズは人が二人隠れられるかどうか。
恐らく、簡単に突破してくるだろう。互いに壁で相手の姿が見えないなか、壁を壊して直進するか。それとも左右、あるいは上から跳び出してくるか。
どれにせよ――僕は『視えている』。
未来視でこちらから見て左手側から跳び出してくる盾持ちの足に一閃。右膝を破壊した。
転倒したそいつを無視し、体を回転させ氷の壁を背にする様に片手で剣を振るう。ちょうど跳び出してきたタイミングで、槍持ちの顔面に剣が食い込んだ。
左手での片手斬りだが、それでも十分。簡単に兜が吹き飛んでいき、首から下が崩れ落ちた。
視界の端でそれを確認しながら、右手でリカッソを逆手に持ち盾を杖の様にして立とうとするもう一体の胸部に上から切っ先を叩き込む。
胸から腰にかけてをあっさりと貫き、捻りながら引き抜けばそのまま鎧は崩れ落ちた。
リビングアーマーもそうだが、こいつらは鎧の隙間に攻撃しても意味がないけど鎧そのものを『本来人間が着ていたら死ぬ様な形で』破損させれば停止する。今のだと、顔面が陥没するレベルで兜を破壊したり、胸を剣が貫通したりとか。
それ以外にも『白魔法』や『高純度の聖水』とやらで除霊した場合も倒せるとか。
「周囲には」
「いないようです」
周囲を警戒してくれていたレイラの言葉に胸を撫で下ろしながら、消滅していくエンプティナイトの様子を見る。
残念だが、ドロップは無しか。まあ一発目から出るはずもない。
「どうにかして鎧一式。そうでなくとも重要な箇所を守れる分は確保したいな」
そう、このモンスターのドロップ品は『鎧の部位・または武装』である。
右の籠手だけだったり、兜だけだったりするが、それでも魔力をおびた武器防具だ。売ればかなりの値段になる。このダンジョンが比較的人気な理由だ。
しかし今回自分達は売り払う目的で獲りに来たのではない。レイラ曰く、もうすぐ完成間近なゴーレムの装備品として欲しているのだ。
当然ながらゴーレムに魔装なんてない。だから、外装は別に用意しないといけないわけだ。
だが買うとなるとそれはもうべらぼうに高い。こういうのは国や企業が買い占めてしまうのである。
下位のドロップ品装備ですら普通に十万二十万するのだ。民間が入れる限界の『Cランク』でドロップした品となると、それこそ五十から百万ぐらいか。
ただまあ、ドロップした鎧のサイズが問題だけど……不本意ながら、あてはある。
「行こう。レイラは引き続きマッピングをお願い」
「承知しました」
また歩き出してから、チラリと黒く塗りつぶされた窓を見る。
その先には何もない……らしい。空がある様に見えて実は青く塗ってあるだけなんてダンジョンもあるし、ここもそういう類なのだろう。
たしか、このガラスを割っても硬い壁の様な物にぶつかるだけとか。移動経路には使えない。
だがそれはエンプティナイトも同じ事。ここのモンスターは『もう一種』も含めて、壁や天井から奇襲をしかけてくる事はない。病み上がり……?としては丁度いいかも。
自分も耳をすませ、周囲を警戒しながら進む。すると、また鎧の足音が響いて来た。
レイラがたてた指の数は三。次の曲がり角から姿を現すはず。
雪音が扇子を構え、レイラも杖を角に向ける。そして自分が軽く左手をあげた。それから数秒後。未来視が発動し左手を振り下ろす。
「『ファイヤーボール』」
「『氷牙』!」
ドンピシャで跳び出してきた個体に直撃。そいつは盾を構える間もなく、火球で右肩を撃たれ体勢を崩した所に氷の槍が胴体に突き刺さる。
そして、その個体が倒れるより先に自分は駆け出していた。
できるだけ姿勢を低くしながら走り、角に差し掛かる瞬間石畳の地面を削りながら滑る。
眼の前で倒れる仲間と、跳び出してきた敵。それでもモンスターだけあって躊躇なく攻撃をしかけてくるが、それでも遅い。
左手で倒れ行く個体の剣帯を掴んで盾に。突き出された槍をそいつの鎧で受け、そのまま投げつける様にしてぶつけた。
動きを封じられた槍持ち。そして、その後ろからもう一体の槍持ちが横に一歩動いた。
こいつらはモンスターの中では頭がいい部類だ。しかし、それ故に壁沿いを一列で移動していたのが行動を遅らせた。こうして敵が跳び出してきて、目の前の奴が動きを止められればワンアクション消費させられる。
それだけあれば、十分。
相手が槍を突くより先に、こちらの刺突が兜をとらえた。金属音が響き、面頬が少し浮く。
バランスを崩したそいつに前蹴りを放って転ばせ、槍を放棄して掴みかかってきたもう一体の個体の顔面に柄頭を叩き込む。
弾かれて壁にぶつかったそいつに、もう一発上から叩き落す様に柄頭をぶちかました。
胴体にめり込むのではないかというほど兜を破損させ、停止。すぐに視線を転ばせたエンプティナイトに向ければ、そいつに氷の槍が突き刺さる所だった。
「ご無事ですか、旦那様」
「ああ、ありがとう」
雪音に礼を言いながら、周囲を警戒しつつ消滅していくモンスター達を確認。
……流石に、まだ出ないか。これは今日一日じゃなく、数回は通わないと駄目かもしれない。
まあ気長にやろう。急ぎでもないし。それにこのダンジョンは広い方だから、他の冒険者と遭遇する確率も低い。誤射の不安が少ないのだし、サーチアンドデストロイ……とまではいかないが、それぐらいのノリでいける。
探索を再開し、更に三十分。
その間六回の戦闘があり、倒した数は計十九。未だドロップなし。
ダンジョン内の熱気が強くなっている気がする。となれば、『奴』が近いという事か。
そんな予感を裏付ける様に、大きな扉が視えてきた。どこかの建物と考えるには広すぎる通路一杯を塞いだその奥からは、特に強い熱を感じる。
「雪音、大丈夫そう?」
「はい。ですが、妖術の展開速度が少し遅れるかもしれません」
「わかった。レイラ、フォローを」
「お任せください」
剣を構えなおし、扉から五メートルほど。そこから、全力で駆けた。
腰だめにツヴァイヘンダーを握ったまま、左足で扉を蹴り破る。勢いそのまま中に侵入すれば、そこが『鍛冶場』だとわかるだろう。
赤々と燃える炉に、水の入った木製の水槽。金床に火箸もある。だが、自分がテレビ越しに知る物とは大きく離れていた。
どれもこれも、やけにでかい。それはそうだ。これらを使うのは人ではないのだから。
『ガァアアアアアア――ッ!!』
そう咆哮をあげるのは敵に対する威嚇か、それとも自分の縄張りに入られた怒りか。
一つ目の巨人がこちらに向かって歯をむき出しにしていた。
『サイクロプス』
かなりの癖のある体毛が頭部を覆い、異様に大きな一つ目とずらりと牙が並んだ口以外を覆い隠している。
それ以外は濃い茶色の体表を隠すのは薄汚れた腰布のみ。筋骨隆々の四肢に樽の様な胴体。右手にはこれまた巨大な金槌を握っていた。
およそ三メートルの体躯。このダンジョンの通路が異様に広いのはこいつの体に合わせているからだと言われている。
奴がこちらを睨みながらも、左腕を髭の中に突っ込んだ。それとほぼ同時に、一足で間合いをつめたこちらの剣がサイクロプスの鳩尾に突き込まれる。
苦痛の悲鳴を聞きながら剣を捻り、腹を蹴り飛ばしながら刀身を斜め上に振り抜いた。ダメージで後ろに倒れる奴が、背中が床に触れる前に左腕を引き抜く。
大きな手の平に握られていたのは四つの『鉄兜』。それらが床に散らばり、甲高い音をたてる。
だが、音が響いたのは一回だけ。次の瞬間にはそれらは首から下を得て、鎧の手足で武器をこちらに向けてくる。
『リビングアーマー』――の、召喚体。
鍛冶師としても伝承に残るサイクロプスが持つ異能。工程は不明ながら、奴が作り上げたこの兜を触媒にした召喚術である。
跳びかかってくる二体に、片足を軸にする様に横回転しながら薙ぎ払い。そのまま三体目、四体目を切って捨てた。
その間に立ち上がったサイクロプスが、口角から血の泡を溢れさせながら金槌を大きく振り上げる。
『ゴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォォ!!』
「『氷牙』」
「『フレイムチェイン』
だが、その右腕に氷の槍が突き刺さり赤熱した鎖が奴の頭に絡みつく。
『ガ、ア゛ア゛……!?』
動きを止めたサイクロプスの首に、下から剣を突き上げた。骨を断った感触。そのまま横に切り払うと、重い音をたてて膝から崩れ落ちる。
剣を抜いて後退しながら、広い部屋全体を視界におさめる。転がったリビングアーマー共も消滅し、サイクロプスも粒子に変わっていく所だ。とりあえず戦闘は終了したらしい。
「二人とも、ありがとう」
「いえいえ」
「このぐらい何ともありません!」
剣を肩に担ぎ、サイクロプスが消えた辺りを見る。残念ながらドロップはないらしい。奴を倒すと、魔力をおびた金属の塊が落ちたりするんだがなぁ。
リビングアーマーの方は消えた後を見る必要がない。というのも、召喚魔法で呼ばれた存在は消えたら何も残らない。触媒すら力を失って消滅する。
つまりアレらは戦うだけ損なのだ。それでも、サイクロプスのドロップ品はかなりの値段で売れるが。
なんせ奴のランクは『C+』。それが残す拳大の金属となると、良い武器にも防具にもなる……らしい。自分も詳しくないけど。
兎にも角にも、余力は十分だし帰還用のゲートも見つかっていない。もう少し探索を続けるとしよう。
* * *
午前午後合計約四時間かけて、ドロップは右籠手と左具足が一ずつに右具足が二つだった。残念だが、サイクロプスの方は無しである。
ダブった右具足は予備かどうにか籠手に変えられないかとも思ったが、組合でトレードとかも斡旋していないらしいし、売る事に。少し残念だが、八十万で外国の企業に売れたので懐はだいぶ温まった。やっぱ冒険者は最高だぜぇ……。
……僕、将来まともな職に就けるのだろうか。この稼ぎ方知っちゃったら無理でね?
若干己の未来に不安を覚えつつ、帰り支度をしていく。ロッカールームを出ると、何やら冒険者に話しかけているスーツの男性の姿があった。
はてと思うが、漏れ聞こえてくる言葉的に勧誘らしい。顔立ちからヨーロッパ系だろうけど、随分と流暢な日本語だ。
どうやらそのままどこかの店に向かうらしい。満更でもない顔の冒険者を連れて、その人はニコニコと笑いながら駐車場に行ってしまった。
ああいう勧誘現場、初めて見るな。やっぱ海外が日本の覚醒者を引き抜いているって噂は本当だったらしい。
珍しいもん見たと思いながら、バス停に向かう。
僕も勧誘とかされるんだろうか?いや、どうだろう。ランクは『B+』だけど、高校生だしなぁ。特に気にしなくていいか。
それより、完成間近というゴーレムはどんな姿をしているのだろう。明日レイラがお披露目してくれるけど、今から楽しみだ。
やっぱり王道のメカメカしい感じなのか。それともあえてシンプルな感じでくるのか。
それとなく提案した『ワイヤーパンチ』や『ビーム砲と廃熱機構』は笑顔で却下されてしまったが、どうにか後々改造案として認めてもらえる事を祈るとしよう。
まだ見ぬハンドメイドゴーレムに、エロとは関係ない少年心を躍らせるのだった。
読んで頂きありがとうございます。
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