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第四十六話 感謝

第四十六話 感謝


サイド 大川 京太朗



 土曜日。お馴染みとまではいかないけど、前にも行った駅前の喫茶店に向かう。


「や、京太朗君」


「東郷さん」


 奥の席から笑顔で手を振る彼に、小さく会釈して歩み寄る。


「すみません、またお待たせしてしまったみたいで」


「いやいや。私も今来たところさ」


 東郷さんの前に座った所で、マスターがメニューを持ってきてくれた。


「あ、じゃあオレンジジュースで」


「私はコーヒーをお願いできますか、マスター」


「ええ、かしこまりました」


 注文を受けてカウンターに向かうマスターを見ながら、そう言えば今日もここはお客さんが少ないなと思う。


 ……駅前の喫茶店なのに、大丈夫なんだろうか。


「まず、君が無事でよかったと言わせてくれ。すまない、私が依頼したせいで辛い目を合わせてしまった」


「い、いえ!東郷さんのせいでは」


 いくらなんでもそれで東郷さんが悪いっていうのはおかしい。あれは本当に運が悪かっただけだ。


「……すまない。逆に気を遣わせてしまったね」


「そんな事は……」


「なら、代わりに感謝の言葉を送らせてほしい。公務員として、君の『救助活動』に心からの感謝を」


 そう言って彼が椅子から立ち上がると、背筋を伸ばし深々とお辞儀をしてきた。


 突然の事に、ポカンと間抜け面で東郷さんの頭を見つめること数秒。ようやく理解が追い付いて、その姿に慌てて立ち上がる。


「ありがとう、京太朗君。君のおかげで、何千人もの人命が救われた。国に仕える身として、本来守られる立場の君を戦場に立たせた事を恥ずかしく思う。それでも、お礼を言わせてほしい」


「ちょ、頭を上げてください東郷さん!そんな、何も貴方がそこまで……」


 少しどもりながらもそう言うと、彼はゆっくりと頭を上げてから小さく苦笑を浮かべた。


「いいや。君は感謝されて然るべき事した。誇っていいんだよ、あの頑張りを」


「……ありがとう、ございます」


「ははっ。君が感謝してどうするんだい」


 苦笑を浮かべる彼と、椅子に座り直す。


「君はあまり目立つのが好きではない子だと思ってね。助けられた人達に京太朗君の事は話していない。だから、君に直接お礼を言いに来る人は今の所いないと思う」


「そ、そうなんですか。お気遣いありがとうございます」


「もしも君が望むなら、今からでもその功績を公表するが……」


「いえ、それはちょっと……困るといいますか」


 まずクラスメイトに覚醒者バレはしたくないし、マスコミが怖い。ある事ない事書かれそうだし。


 ……何より、自分の場合『林檎』の件がある。注目を浴びるのは避けたいというのもあった。


「それに、結局最後は僕も助けられただけでしたから……」


 五日経った今、『もしもあの時花園さんが助けに来てくれなかったら』と思う様になった。


 間違いなく雪音は殺されていただろう。自分も、かなりの確率で死んでいたと思う。


 助けるとか、生き残るとか。そんなのはガキの思い上がりだと実感した。自分は強者ではない。ただの愚者なのだ。


「それは違うよ。断言できる」


 運ばれてきたオレンジジュースを見つめる僕に、東郷さんがやや鋭い声を発した。


「詳しい状況を私は知らない。だが、それでも君が何もしなかったら……住民の為に戦ってくれなかったら、多くの命が失われていた事は理解している」


「東郷さん……」


「君が自分を誇れないのだとしても、私は君の行動に敬意を表する」


 真っすぐとこちらを見つめる彼の瞳に呆然としていると、東郷さんは眼鏡の位置を直しながら照れくさそうに後頭部を掻いた。


「なんて。こんなただのおじさんに言われても、嬉しくはないだろうけどね」


「いえ……ありがとうございます」


「おいおい。さっきも言っただろう。君の方が感謝してどうするんだ」


 肩をすくめて笑う彼に、こちらもつられる様に笑いがこぼれた。


 そうか……僕の行動は、間違っていなかったのか。


 あの日の行動を、反省点はいくらでもあがるけど後悔はしていないつもりだ。それでも、どこか胸にしこりの様なものがあったのも事実。


 それがこの人との会話でとけた気がする。


 完璧に何かを成す事はできなかったけど、救えた命はあった。その上で、結果的にだけど僕も、レイラも、雪音も。皆生きている。


『勝った』のだ。僕たちは、あのダンジョンに。


「ただまあ、大人として『もう少し自分の身を大切にしてくれ』とも言わないといけないけどね。誇るべき行動だったが、それでも若者が危険な目にあうのは嬉しい事ではない」


「あはは……肝に銘じておきます」


 まあ、言われんでもファイアードレイクに三人だけで挑むなんて二度としないし、似た様な事になったら全力で逃げるけど。


 正しい事をしたと認められ、嬉しくはある。でもそれはそれ、これはこれ。


 基本的に『我が身大事』は譲れない。というか譲りたくない。


「感謝と言えば、花園さんにも改めてお礼を言わないと」


 あの爆にゅ……不しん……変しつ……聖騎士の姿を思い出す。


 正直素直に感謝しづらい人だけど、助けられたのは紛れもない事実だしなぁ。


「そうそう。確か、危ない所を助けられたらしいね」


「はい。相変わらずおかしな言動でしたけど、いい人なんだと思います」


「そうか……」


 何か思う所があるのか、東郷さんがコーヒーを軽くスプーンでかき混ぜながら目を伏せる。


 ……いや。公務員からしたら変質者というだけで思う所あるの当たり前だわ。


「そう言えば、彼女とは仲がいいのかい?目撃情報は少ないが、花園氏は真っすぐ君の所に向かったらしいが……」


「あー……なんか、『同志』とか言われています」


「どうし」


「それ以外にも『愛馬』とか『シルバー・リリィ』とか」


「あいば」


 どうしよう。東郷さんが宇宙を知ってしまった猫みたいな顔になっている。


 けど気持ちはすげーよくわかる。僕も意味わからんし。


「そ、そうか……なら君も彼女同様に好きなんだね。その、女性同士の恋愛が」


「いや、そこまでは?」


 確かに百合アニメも見たりするし、『やだ、尊い……』ってなる時もある。


 だけど百合厨かと言われるとそこまでではないというか。ライト層かそれ未満的な?


「よくわからないけど一方的にそう言われているだけで、正直助けられた今でも『変な人だなぁ』とは思っています」


「な、なるほど」


 すげぇ。東郷さんの引きつった顔初めて見た。この人もそういう顔するんだ。


「なら、連絡先とか交換していないのかい?どうにも知り合いの警官がこの前の事を聞きたくて連絡しようとしたんだが、繋がらないらしくてね」


「そうなんですか?すみません、僕もそれは知らなくて。毎回向こうが突然やってくるだけですから」


 言っては悪いが、あの人にアポイントという概念があるかわからない。


 ほんと、感謝はしているのだ。命の恩人だし。けどそれはそれとして『やべー奴』という認識は覆らない。


 それにしても。単に事情を聴きたいだけらしいが、それでも警察が彼女を追っているのか。


 ……もしもあの人が捕まったら、微力ながら全力で弁護しよう。


 と、警察と言えば。


「すみません、東郷さん。実は相談したい事がありまして」


「なんだい?私にできる範囲なら、なんでもするが」


「え、いやそこまでは」


「まあまあ。言っただろう、君に感謝していると」


 肩をすくめる東郷さんに、少し迷ってから話しを進める事にした。


 まあ、もしかしたら自分の生活にも関わるかもしれないのだ。全力を出してくれるのならそれに越した事はない。


「実は、学校の知り合いから聞いたんですけど……」


 相原君から聞いた噂話を、そっくりそのまま彼に伝えた。


 無論、性癖の事は省いて。そのままって言っても限度はあるから。



*  *   *



「なるほど……学校で……」


 話を聞いた東郷さんが、深刻な表情でコーヒーを軽く口に含む。


「……よく話してくれたね。そのお友達にもお礼を言っておいてくれ」


「いえ、友達ではないです」


「……なるほど、少し複雑な間柄のようだ」


 少し驚いた顔をした後、東郷さんが軽く肩をすくめてくる。


 違うんすよ。一度でも奴を友達と認めた場合、たぶんまたウス異=本が鞄に忍ばせられるんすよ。僕の直感が滅茶苦茶警鐘ならしてんですわ。


「こちらでも問題になっていてね。違法に取引された魔法の薬をドラッグ代わりに使ったり、金縛り等の魔法が込められた指輪で強盗が行われているケースもある」


 彼の言葉に、相原君の話を聞いた後軽く調べた事を思い出す。


 どうにも、関東を中心にかなりの犯罪行為にそういった物品が使われているそうだ。また覚醒者の危険性だの、ダンジョンのドロップ品の管理についてだのでテレビでも騒がれているらしい。


「こちらの方でも調べてみよう。と言っても、すまないがすぐに何かができるわけじゃない。もしも魔力の流れとやらがおかしい場所を見つけたら、連絡をくれ。その時は絶対に力になろう」


「わかりました。その時はよろしくお願いします」


 流石に、学校の生徒全員のネット履歴を調べてくれとも言えない。いくら東郷さんでも相談しただけで万事解決とはいかない、か。


 それでも、『あらかじめ県庁の人に伝えておいた』というのはでかいはず。それも覚醒者や魔道具関連も扱うダンジョン対策課に勤務している東郷さんだ。


 どこの誰が、どんな思惑でダンジョンのゲートを隠す魔道具なんぞを作っているかは知らないが、これで対策はできる……はず。少なくとも何かあった時、スムーズに彼へ話を持って行けるはずだ。


「とりあえず、警察の方にも私から話を通しておこう。どこも忙しいから、どれだけ人を引っ張って来られるかわからないが」


「僕も、外出時は意識して周囲を見てみる事にします」


「ありがとう。そうしてくれ。だけど、危ない人がいたら近づいてはいけないよ?君が強く勇敢な事は知っているが、未成年の学生なのも事実なんだから」


「い、いえ。そんな勇敢なんて」


「……京太朗君。もしもの時は、どうか『引く勇気』も忘れないでくれ」


「はい?」


 いや僕は基本逃げ腰ですが?


 疑問符を浮かべるが、東郷さんは珍しく言葉に困っているかの様に曖昧な笑みを浮かべていた。


「そうだな……なんと言えばいいのか。ただ、『自分がやるしかない』と、思いつめてほしくないんだ」


「は、はぁ」


「頼りないかもしれない。それでも、どうか危ないと思ったら大人を頼ってくれ。その事を忘れないでほしい」


 そう言って、彼は伝票を手に立ち上がる。


「早速知り合いの警官に今の話を伝えて来るよ。休日にわざわざありがとう」


「あ、いえ。こちらこそありがとうございました」


 小さく頭を下げるこちらに軽く手を振った後、東郷さんは会計を済ませて店を出て行った。


 自分も残っているジュースを飲み切って出ていくとしよう。そう思ったのだが、マスターがパフェを乗せたお盆を手に近づいて来た。


「東郷様からです」


「えっ」


「代金はもう頂いておりますので、どうぞごゆっくりと」


 ダンディな感じにウインクして去っていくマスター。そして自分の目の前に置かれた特大パフェ。


 ……もしかして僕、東郷さんから滅茶苦茶甘党って思われている?いや、嬉しいし美味しいけども。


 まあ、それはそれとして。


「頂きます」


 自他ともに認める子供舌の身としてはこのパフェは絶品だ。美味しく頂かせてもらうとしよう。



* *   *



 その日の夕方、ソシャゲの周回をしながら何の気なしにテレビをぼうっと眺める。


『昨今のダンジョンの氾濫に対抗すべく、覚醒者に更なる支援が必要なのです。今も命がけでモンスターと戦う彼らと、手を取り合ってこれからの世界を生きていく。その為にも。どうか、彼らもまた同じ人間である事を忘れないで頂きたい』


 テレビでは相変わらず胡散臭い笑みを浮かべた有川大臣がそんな感じの事を言って、冒険者制度に関する予算案についてを話していた。


『これに対し、野党議員からは復興や被害にあった国民への支援を軽視する発言であると非難の声が上がっています』


『やはりね、有川大臣も考えが短絡的過ぎるんですよ。冒険者には既に十分な支援が報酬と言う形で出ています。むしろ、彼らの持つ冒険者免許の適用範囲の広さこそ考えなおすべきだと私は思いますね。なんせ銃刀法の一部免除だの、魔道具の販売に関してだの』


 彼の録画映像に対し、どこかの大学教授らしいコメンテイターが眉間に皺をよせていた。


『それに、自衛隊では何やら新兵器の開発が噂されています。モンスター相手に使うとしても、これは憲法に違反しているのではないですかね』


『まず国民の生活を考えるべきでしょう。復興支援と、避難した住民への支援。それなくしては日本の未来はありえんのですよ』


『やはりドロップ品の自由な売買というのが昨今の治安の低下と、公的機関による間引き作業の鈍化を――』


 ……この人らの言っている事も分からなくはないんだよなぁ。


 けど、だからって冒険者を蔑ろにしないでほしいというか。最低限生活できるお金だけあげるからモンスターと戦ってねと言われて、素直に探索へ行く奴がどれだけいるのか。


 自分とて前の制度のままだったら、今の様に探索を最低でも週に一回なんてペースではしていない。たぶん、家の安全目的でサラマンダーのダンジョンだけを月に一、二回行くだけだったと思う。辞めるのは、父さんの件もあって無理だけど。


 あっちを立てればこっちが立たず。金も物も人も、何もかもが足りていないわけだ。


 ファンタジーが現実になった世界なんだから、せめて打ち出の小槌ぐらいあってほしいものだけどなぁ。


 そんな事を考えていたら、いつの間にやらテレビは別の話題に変わっていた。


『今日は覚醒修行で最近話題になっているこちらのお寺にお邪魔しています!ここでは『賢者の会』から派遣された本物の魔法使いが指導を――』


 自分でもわかるぐらい顔を歪め、テレビの前を後にする。


 なんというか、世の中本当にわからんもんだ。覚醒者の事を批判した口で、今度は覚醒者になる方法だの『賢者の会』だの。


「京太朗、お皿出してー」


「はーい」


 母さんに応えながら、スマホを机の上に置く。


 まあ、なんにせよ今の自分に出来る事はそんなにない。東郷さんに会った後行った病院でお医者さんの許可も得た事だし、冒険者活動を再開するとしよう。


 明日からはまた、ダンジョンだ。





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


※感想で言われて、ふと考えたTS版東郷さん

・眼鏡とスーツが似合うキャリアウーマンな美魔女。

・細身に見えるけど、たぶん脱いだらすごい。

・時々愁いに満ちた顔をし、一人になると煙草を吸いながらライターを握り亡くなった友人の事を思い出す。

・実は名前と身分を偽ったエリート公安職員。


……キャラ盛り盛りにもほどがありますね。

それはそれとして。彼は絶対にTSさせません。男だからこそ立っているキャラもあると思いますし、なによりヒロイン候補になられても困るとしか……。




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― 新着の感想 ―
[一言] 京太朗は性癖のゴミ箱
[一言] 中年男だからこそ出せる哀愁というものがあるのです。 東郷さんは男だから良いのですよ!
[良い点] 手駒と思われてるにしろ、頼りになる大人がいてくれるのは良いですね。 [気になる点] 〉彼は絶対にTSさせません つまり、他の登場人物ならあり得るんですね! 本命相原くんかな‥
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