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第三章 プロローグ

第三章プロローグ


サイド 大川 京太朗



 あの惨劇……炎龍と戦う事になってから五日。自分は三日間だけ休み、四日目からは普通に学校へ通う様になっていた。


 あと数日で七月という頃、蒸し暑さも更なる上昇を見せている。だがそれでもあと三週間ちょっとで夏休みという事もあり、教室には浮かれた空気が漂っていた。


「俺、夏休み中こそ覚醒するんだ」


「俺も。京都の覚醒修行ツアーがとれたんだよ」


「マジかよ。いいなー」


「私、『賢者の会』に入会してみようか悩んでるんだ」


「えー?けど新興宗教って怖くない?」


「でもこの前の氾濫とかで大活躍したって言うじゃん」


「変な噂も流れたけど、意外と真っ当なとこっぽいよ」


 そんな声が聞こえてくる中、自分はこう思っていた。



 どうにかして異界内にプール作って、そこで水着を着たレイラと雪音と一緒にキャッキャウフフな夏を過ごせねぇかな、と。



 生まれてこのかた十五年。学校行事や子供会以外で母親以外の異性とプールに行った事などありはしない。


 だがしかし。今年こそはと思うのだ。なんせレイラと雪音がいるのだから。


 去年は異界なんて持ってなかったし、かといってレイラの水着姿が他人の目に触れるのはなんか嫌だ。同じ理由で今年も雪音やレイラをプールや海に連れて行くのは無理だし、そもそも使い魔を公共施設に入れるのは止める様に政府から注意がされている。


 ならばもう、作るしかなくないか?


 異界のスペースを拡張。そしてどうにかして小さくてもいいからプールの設営。そしてエッチなアニメでしか見れないあんな事やこんな事を……!!


「ぐふっ」


「うっわ、キモイ顔選手権で優勝できるぞ」


「僕が女なら通報している」


「君ら酷くない?」


 友人二人の辛辣過ぎる言葉に心が傷つく。我まだ病み上がりぞ?心の。


 未だ精神科医からダンジョンへ行く許可が下りていないのだ。まあたぶん次の診察の時にOKもらえるだろうけど。


 異界の拡張やらゴーレムやらで出費が考えられるので、稼いでおきたいのだ。


「それよりよぉ……クラスの女子たちを見てどう思う……?」


「触手が生えてないなって」


「お前は黙ってろ」


 熊井君の言葉に疑問符を浮かべながら、女子たちに『キモイ』コールをされない範囲でちらりと見回す。


「いや……別にいつも通りじゃね?」


 エロの話かな?あいにく僕はレイラと雪音のおかげで目が肥えているので、クラスの女子たちのスカートやブラスケにそこまで反応しないぞ?精々チラ見をするぐらいだ。


 ……今度レイラ達にギャル風の服着てもらおうかな。


「強いて言うなら……いや。これは殺されそうだから黙っとく」


「やはり気づいたか、京太朗。流石俺のダチだぜ」


「なんだろう。今だけは認めたくない」


 絶対にお前の性癖に関する事だろ。察しはついたぞ。


 親の仇とばかりに相原君を睨む熊井君。それに対し、彼もチラリと視線を向けるがまたすぐに他のAグループとの会話に戻ってしまった。


 だが、その左手が少し動いたかと思うと自分のスマホが振動する。


「うん?」


 なんだと思って見てみたら、そこには相原君からの呼び出しメッセージがあった。


 それも……熊井君と魚山君も一緒に、と。



*   *   *



 放課後、言われた通り空き教室に向かう。


「お前ら警戒を怠るんじゃねぇぞ……!今から行くのは戦場だぜ……!」


「んなオーバーな」


 血走った目の熊井君に続き廊下を歩く。


 そりゃこれが普通のAグループに呼ばれたんだったら警戒心マックスになるが、相手は相原君だ。


 もう僕の中で彼はこいつらの同類みたいなもんになっているので、少し気安さも感じている。


「ここがあいつの指定した場所か……!」


「ああ、うん。そうだね」


「たのもー!御用改めじゃぁあああああ!」


「落ち着け」


 勢いよく扉をあけた熊井君の頭をはたく。何がどうなってそうなった。


 空き教室に入ると、相原君が窓からグラウンドを見下ろしていた。手を組んで物憂げな表情を浮かべるその姿は、悔しいが絵になっている。



「やはり体操服で隠しきれない腹肉はいいものだな……」



 口さえ閉じていればなぁ……。


「貴様ぁ……俺を前にしていい度胸じゃねえかおい……!」


 犬歯をむき出しに今にも掴みかかりそうな熊井君をよそに、相原君がようやくこちらへ目を向ける。


「よう。悪いな、突然呼び出して」


「それはいいけど、いったいどうしたの」


「その前に聞かせてくれ京太朗。お前は、クラスの女子たちを見てどう思った?」


「ああ、やっぱ相原君が原因かぁ」


「ふっ、やはり気づいていたか。流石は未来の同胞だぜ」


「いやなりませんけど」


 真顔で返すが、相原君は軽く肩をすくめるだけだった。お前大概にせぇよ?


「俺の『ぽっちゃり拡大計画』は順調に進んでいる。もう止められねぇぜ……!」


「貴様……自分が何をしているのかわかっているのか!!」


 何やらシリアスな顔で叫び出す脂肪派と筋肉派。僕もう帰っていい?


 なお、魚山君は『触手育成アプリ~海洋編~』なるゲームをやりだしていた。そんなソシャゲあんのかよ……。


「大変だったぜ。『太ってもいい。むしろそんな君が素敵さ』と、女子たちの常識をワールドワイドに近づけていくのは。水着を着るからシェイプアップ?ナンセンスだぜ。アメリカを見ろ。ふくよかでもそれは『個性』だ」


「そんなものは邪道だ!世界が太っている人に理解を示したのは体脂肪率で人の価値を決めないという事であって、太る事は推奨しているわけではないっ。健康のためにも筋肉は必要だ!なにより鍛え上げられた筋肉はエロい!!」


「だが、これは彼女らが望んだ事でもあるんだぜ。夏はアイスが恋しくなり、そして運動をするやる気をなくす。理想的な環境だぜ、おい……!」


「貴様……筋肉をなんだと思っている!!」


「現代文明に不要な過去の遺物。それ以外にあるかよ」


「おっのーれ!!!」


「あのー」


 そっと手をあげる。


「その話でしたら、僕らもう帰っていいですかね……?」


「どうした盟友」


「盟友じゃないです」


「俺とお前の仲じゃねぇか。そんな他人行儀な言葉遣いすんなよ☆」


 ウインクすんな。別に仲良くはねぇよ。むしろ距離をとりたいよ。


 視ろよこの立ち位置。段々とお前らから離れて行っているからな?物理的に。


「そんな……京太朗。お前、裏切ったのか……?」


「いや。そもそもどっちの陣営でもねぇよ」


「そう。京太朗は僕と同じ触手性愛党の一員だ」


「滅んじまえそんな党」


「!?」


 やべぇ、このままだと収拾がつかなくなる。変態共が各々の性癖を主張し合い最終的には殺し合いになるぞ!


 これが、宗教戦争ってやつか……!!きっと某三大宗教も昔はこんな感じだったに違いない……!!


「本題があるならそれ先に言ってくれませんかねぇ!?さっき『その前に聞かせてくれ』って言っていたんだから、話って別の事なんだよね!?」


 むしろお願いだからそうであって?泣くよ?


 レイラ……雪音……今すぐ二人のおっぱいに包まれたい……。


「しょうがねぇ。今日は京太朗に免じて旧時代の筋肉派を処理せずにいておいてやる」


「ぬかせ。いずれ貴様の悪行がその背中をぶち抜くぞ、脂肪派め……!」


「愚かな。触手は全てをつつみ込む。原初にして頂点だと言うのに」


 もうこいつら全員殴ってから帰ろうかな。


「で、だ。本題なんだが……お前ら、魔道具の裏サイトって見た事あるか?」


「魔道具の裏サイト?」


「裏じゃなく、闇サイトって言う場合もあるがな」


 どうやら性癖の話ではないらしい。姿勢を正す。


「いいや。僕はないよ」


「俺もだ」


「僕も」


「そうか。俺もあまり詳しくはないんだが、格安で低品質な自作魔道具が販売されているらしい。それこそ、まだ売買が許可されていない物までな」


 魔道具。レイラがよく作ってくれているが、それの売買は一部禁止されていたりする。


 杖などは問題ないのだが、例えば魔法薬なんかは薬品であるので必要な資格や許可が必要になってくると聞いた。冒険者組合を通した場合とかは免除されたりするのだが……。


 一般で、か。絶対に碌なもんが売られていないな。


「うちの学校でもそういうサイトを見て回る馬鹿はいるらしいんだが……妙な噂を聞いてな」


「噂?」


「ああ。なんでも――『ダンジョンのゲートを隠す魔道具』なんて物が流行っているらしい」


「……はぁ!?」


 思わず大声を上げるが、気にしてはいられない。


「ちょ、待って。そんなのが……危なすぎるじゃん!」


「ああ。そうだ。この前みたいなダンジョンの氾濫を引き起こしかねない、とんでもねぇ代物さ」


「……待った。だがそんな物がなんで流行るんだ?テロリストとか犯罪者に人気って事か?」


「それだけならまだマシだったんだがな」


 熊井君の問いに、相原君が小さく首を横に振る。


「……覚醒修行?」


「そうだ」


「はぁ?」


 魚山君と相原君が頷き合うが、こっちとしては訳が分からない。


「修行って霊地でやるもんでしょ?それが……」


「ダンジョンってのは龍脈から漏れ出た魔力の溜まり場だ」


「つまり、ダンジョンがある所は魔力に溢れている。制御ができていないだけで、霊地と呼んでも差し支えないよ」


「そんな……」


 話は読めてきた。だが、納得できない。


 たくさん死んだんだぞ。人が、猫に食われるネズミみたいに、簡単に。


 二度も巻き込まれたダンジョンの氾濫。その光景を思い出し、吐き気が襲ってくる。トラウマとしてはかなり軽い症状の自分だが、それでもこれだ。


 真っ当な思考ができるなら、どうしてそんな事を……。


「その商品のキャッチコピーに『覚醒修行のお供に』って書いてあるそうでな。非覚醒者の間で流行っている。自力でダンジョンを見つけてこっそり覚醒修行。そんで覚醒したらそのダンジョンをプライベート化して大儲け、てな」


「そんな無責任な事が……!」


「けど、新しくダンジョンができた場所が自分の家だったらと思うと、隠したくなるかもしれない」


「魚山君?」


 伊達メガネの位置を直す友人に振り返れば、彼は淡々と続きを話した。


「ダンジョンのゲートを発見したら市町村に報告するのが義務付けられている。けど、そうして報告した結果家も土地も失い、強制的に避難させられる。避難って言う事は、生活を捨てなきゃいけないって事だ」


「それは……」


 前に、クエレプレのダンジョンに行く途中見た事……そして考えた事を思い出す。


 ダンジョン化の影響で滅びゆく町や村がいくつあるかわからない。未だそう言った部分の法整備はできておらず、政府が用意した一時的な借り部屋ももう出なくてはならないと嘆く人もテレビで見た。


 自分は……もしも自分の家にダンジョンのゲートが出来たとして。正しい行動をとれるだろうか。そもそも、『正しい』とはどういう事なのか。


 沈黙が流れる教室に、相原君が手を叩いた音が響く。


「話を戻すぜ。その危険な魔道具がうちの学校の生徒達でも噂になっちまっているのが問題だ。最悪、ここ周辺でもダンジョンの氾濫が起きるかもしれねぇ。俺が言いたいのは、もしかしたら身近にやらかす馬鹿が出てくるかもしれないから、注意しろって警告だ」


「……ごめん。ありがとう」


「いいさ。どうも、お前にはデリケートな話だったみたいだしな。こっちこそすまん」


 頭を小さく振り、思考を切り替える。


 自分の『もしもの未来』よりも、今一番危険視するべき事を見誤らない様にしなくては。


「魔力の流れに気を付けてみるよ。もっとも、僕や熊井君は魔法が使えないから、自分以外の魔力は曖昧にしかわからないけど」


「それでもいいさ。『信用できる覚醒者』ってだけでも重要だからな」


 肩をすくめ、相原君がこちらに歩いてくる。


「俺の要件はここまでだが、もう一個だけ言っておく」


「うん?」


「『賢者の会』には気を付けな。根拠はないが、あそこは胡散臭いにもほどがあるぜ」


「……だね」


 元より関わり合いになりたくない所だとは思っていたが、更に彼からも言われるとは。


 一番初めに、僕に警告してくれた人を思い出す。


「……丁度、今度の土曜日に県庁のダンジョン対策課って所に勤めている人に会う。その時、今の話をしてみるよ。頼りになる人だから、きっと力になってくれる」


 東郷さんなら……それでも東郷さんならきっと何とかしてくれるに違いない。


「え、どんな人?女?体脂肪率は?ウエスト何センチ?」


「筋肉は?筋肉量はどれぐらいだ?筋肉美女か?」


「―――もしかして、触手が生えていたりしない?」


「お前ら」


「「「うん」」」


「歯を食いしばれ」


「「「!?」」」






読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
触手性愛党wwww 数百以上のなろう、カクヨム、アルファポリスの作品を読んできたけど初めて耳にする単語だww
[一言] 味方が筋肉、職種、デブ専と百合の騎士に自分自身とか…雪音しかまともなのがいないけど
[一言] 東郷さんって今のところ男性陣の中で一番TSヒロインしそうなキャラしてますね。ほかの候補が向いてないってのもありますけど。
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